本当はもっと怖い 童話『さるかに合戦』~極道の蟹たち~
むかしむかし、柿の種を拾ったサルが、おいしそうなおにぎりを持ったカニにばったりと出会いました。
カニはお勤め明けにセイコーマートに寄った帰りでした。
おにぎりが欲しくなったサルは、カニにずるいことを言いました。
「どうだいカニさん?オレの柿の種とおにぎりを交換してあげようか?
これを育てれば毎年甘くておいしい柿の実がなるよ!」
「…若いの、桃栗三年柿八年と言うが、実際のところ柿が実るまでにはそのくらいは掛かる。話にならん。去ね」
「チッ…こいつ賢いな…。つべこべ言わないでおにぎりよこせ!」
「全く浅ましい…猿知恵にも遠い。だがいいだろう、おにぎりはくれてやる。早よぅ去ね」
「ぐぬぅっ、おにぎりは手に入ったのにすげぇ敗北感…!
約束通り柿の種はくれてやる!せいぜい大事に育てるこったな!」
「ふん…」
カニのほうがだいぶ上手でした。
カニは帰宅すると早速、柿の種を土に埋めてせっせと水をやりました。
「はやく芽を出せ柿の種。はやく芽を出せ柿の種。出さねば眼球抉り取る」
『!?』
するとどうでしょう。
先ほど蒔いたばかりの種がぐんぐん育って大きな木になりました。
「はやく実がなれ柿の木よ。はやく実がなれ柿の木よ。ならねば海に沈めるぞ」
『!!?』
カニさんはその筋の方でした。
柿の木に甘い実がたくさん実りました。
ところがカニは木登りができません。
「これよな…」
カニが困っていると、
「ヘイ!カニさん!さっきの種、もう実ったのか。オレが取ってやろうか??」
「折角育てたんだ。味見くらいはしたい」
サルはスルスルと木に登ると、自分だけ熟れた実をどんどん食べ始めました。
「すまないが私にも一つくれないか」
「クックック…やーだね!アンタはこれでも食ってな!」
サルはまだ青くて硬い柿をカニめがけて全力投球し…!
「スクルト」
「!?」
『カニの しゅびりょくが 110 あがった!』
カニは、じごくのはさみでした。
「痛った…さすがにノーダメでは済まんか…。まあなかなかいい命だったと褒めといたるわ」
「ポカーン」
カニはぶつけられたところを押さえながら帰宅すると、組の若い衆に事の顛末を話しました。
「親父ィ!大丈夫か!?」
「あの猿野郎…!後悔させてやりますけぇ…!」
「すぐにハイエース手配しますんで!」
話を聞いたみんなはカンカンに怒りました。
そして数日後…。
「こんにちは。お兄さん、ちょっとお時間頂けますか?
私、いまモデルのスカウトしてまして。
お兄さんかっこいいなと思ってお声がけしました。あ、これ名刺です」
「カニエ・ウエスト・プロダクションの蜂谷さん…?ええーオレなんか全然ですよ~」
「そんなことないですよ。
事務所近いので、もしお時間よろしければ話だけでも聞いていかれませんか?」
「それじゃあちょっとだけ。あ、オレ猿渡っていいます」
「………蜂谷、やれ」
「はい蟹江会長。オイ、お前らこの猿連れていけ」
「ちょっ…なにすんですか!離して!ああっ、ハイエースに連れ込まるぅぅぅぅ!」
「暴れんなや絞めるぞ」(プスッ)
「あっ、なんか怪しい注射されて意識が…遠のい…て…」
「オイ起きろや」
「ん………?」
サルはさるぐつわされた上に縛り上げられて天井から吊るされていました。
「うおっ、何この状態!?って、アンタはこないだのカニ!」
「先日は世話になったな兄ちゃん。落とし前、付けさせてもらうで。栗田」
「へい」
栗田と呼ばれた男は、猿渡の足元で火を焚き始めました。
「熱い!熱い!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「おやっさんが味わった痛み100倍にして返したるわ」
「はぁ…はぁ…」
「弱火でじっくり焼かんと、火が通らへんで?」
「あ!あ…!ああ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「そのへんでええやろ。臼井、次や。ミンチにしてまえ」
「へい」
臼井と呼ばれた男は、猿渡を床に下ろすと、左足を二枚の石板で挟み、ぐりぐりと押し付けるように圧迫します。
「ああぁ!あああ!つぶれる!足が挽かれる…!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ」
「右もやらんとバランス悪るなるわな」
「痛い!痛い!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ」
「まあそのへんでええやろ。”ひいきの病院”、運んだれ」
「ああ…ああああ…。あ…。あ………」
「蟹江会長!」
「愚かもんの末路やな。センセイ、いつも通り、治療と診断書頼んだで」
「ええ、お任せください」
「あいつの具合はどうや」
「薬剤によるアナフィラキシーショック症状及びそれを原因とする薬害症状、
全身95%の火傷(要・繰り返しの皮膚移植)、
両足の複雑骨折及び筋肉等深部に及ぶ擦過傷…全治一年といったところですね。
重度の後遺症が残るでしょうが、ま、命に別状はないですよ。」
「これで五分五分ってとこやな。で、猿渡はどこにおる?」
「治療が終わって意識も回復…。今は集中治療室で安静にしてますよ」
「見舞い行ってもええか?」
「5分なら」
「猿渡、これ見舞いの品や」
そう言うと蟹江は、猿渡の枕元に黒百合の鉢植えをドンッ!と置いた。
「毎日お水やったってや?」
「お…おつとめご苦労さまです…二つの意味で…」
「あァ!!?」
「ヒッ」
「つまみの柿の種ならまだ笑えたんやけどな。今後は気ぃつけや」