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転生してきた悪役令嬢に僕(モブ)はプロポーズしたい。

作者: souma mumu

「リッカルダ嬢、君はエロイーザに嫉妬し周囲の者を扇動しいじめたそうではないか。そのような者は王妃に相応しくない。婚約を破棄させてもらう!」


そう告げたのはこの国の第二王子のイラリオだった。

第二王子イラリオはこの王立学院の彼の卒業式の後の宴席で一学年下の婚約者である公爵令嬢リッカルダ・フィオーレに婚約破棄を言い渡していた。

その第二王子の横には可憐に見えるエロイーザ・ラックローズ子爵令嬢が寄り添うように立っており、リッカルダ嬢を見下ろしていた。


そして、それを外野から眺めている僕はただのモブだ。


「あいつ何言ってるんだ?」

なんて言葉が友人のハンスの口から僕に聞こえる程度の声でつぶやかれた。

ハンスの兄は確か第一王子の側近だ。

そのため第一王子派だとかと言われている。

その彼とつるむ僕も第一王子派寄りの家だが、そこまで爵位は高くなく子爵の家だ。

しかも三男である。

これから自分はどう生きていくか決めなければならないので、文官になろうとぼんやり考えつつも2年をこの学院で過ごした。

つまり、あの婚約破棄を言い渡されたリッカルダ・フィオーレ公爵令嬢と同学年である。

噂ではリッカルダ嬢は王子妃教育を卒なくこなし、感情を表に出さず、常に笑顔であると言われている。

そこが逆に何を考えているかわからないと話す者もいた。


だが、僕は知ってしまっていた。


時は入学から一ヶ月頃に遡る。


僕は猫が好きで、学院の用務員さんが餌付けしている猫を愛でに行っていた時、偶然見かけたのだ。


「おー、ヨシヨシヨシ…カーワイーわねーあなたー、ふふふ」


なんて破顔して猫の顎の下を撫でていた。

あまりの変貌ぶりに後ろから近づきつつある僕は物陰に隠れてしまった。

猫に話しかけるように呟くひとりごとを聞くつもりはなかったのだが、自分もその猫に会いに来たために彼女が飽きて去るのを待っていた。

そして彼女はこう言っていた。


「あなたもしかして『ミケネコ』?こっちの世界でも『ミケネコ』っているのね。」


(こっちの世界ってどういうことだ?『ミケネコ』ってなんだ?)


と疑問を持ちながら待っていると彼女は数分ほど猫と戯れた後去っていった。


それからというもの放課後になるたびに彼女は僕より先に用務員さんの小屋周辺に訪れるようになった。

いくら急いでもなぜか彼女のほうが先にそこに付くのだ。

おそらく教室の立地のせいだ。

教室は彼女のクラスが一番出口に近いのだ。

僕は普段から気配を消して目立たないように生活する癖を付けていた。

そのせいで小屋周辺まで近づいて物陰に隠れていても気が付かれることはなかった。

ハンスによく

「お前、いつからそこにいた!?」

と言われるほどには影がないからもしかしたら文官より諜報部とかのが向いてるかな?と思いながら、隠れていた時だった。

リッカルダ嬢は猫を膝に乗せて愚痴るようにひとりごとを話していたのを聞いてしまった。


「転生してきたはいいものの、断罪される悪役令嬢なんて嫌だなぁ。なんとか穏便に婚約破棄されたいわ。」


という言葉を。


それから暫くはずっと彼女のことが頭から離れなかった。

あんなに美しくお淑やかで感情を表に出さず、第二王子の一歩後ろを歩くような公爵令嬢が砕けた言葉を使っているということ以上に「転生」とか「断罪される悪役令嬢」だとか「婚約破棄されたい」などという言葉を聞いてしまったからだ。

転生という言葉はどこかの本で見たことがある。

生まれる前に違う人間だった記憶を持った人というのが確率は大分低いがいるらしいという記述を見たのだ。

断罪される悪役令嬢という言葉はよく分からないが、それぞれの言葉の意味は分かる。

婚約破棄されたい気持ちも分からなくはない。

貴族の結婚は政略結婚が多いから好まない相手だとそれなら独身のまま仕事して暮らしたいという人もいる。

ただ、それが貴族女性だと少ないというのもある。

貴族女性が結婚せず仕事に就くというのは相当やりたい仕事がしっかり決まっていて気が強い女性で能力も高く男を押しのけられる程でなければならない。

それは庶民でもよくある話だ。


女性の仕事は貴族なら後宮の侍女や文官、市井ならウェイターや女性向け衣料品店の従業員やお針子やはたまた夜の仕事だ。


まだ庶民の方が女性が仕事をしている印象だ。


「問題は婚約破棄された後なのよねー…。悪ければ処刑だし。うまくやれば庶民落ちとか下位貴族に嫁がされるって可能性もあるか…。たしかイラリオ『ルート』は処刑で『逆ハールート』は庶民落ちだったはず。まだいじめたりとかしたこと無いし、『ルート』によってはそのまま結婚もあり得るけど、それも嫌…。第二王子なんてクズだし。なんであんなヤツが『攻略対象』なんだろ。」


フィオーレ公爵令嬢は猫に愚痴をブツブツと吐いていた。


それを聞いた僕は何か彼女は未来予知とかそういう能力を持っているのかと興味を持って隠れて観察する日々だった。


猫の前で愚痴を吐く一方彼女は公の場では非常に優雅だ。

王子妃に選ばれるだけあって見目麗しいし、努力家で何をしても優秀だ。

だが、彼女の婚約者であり我がトラネスト王国の第二王子はあまり優秀ではない。

剣術だけは長けておりかなり強いが勉強はからっきしだ。

単位を取れるギリギリのレベルをキープしているらしい。

この国は鉱物資源が豊富で意外と戦争を仕掛けられることが多いので王家は武に長けているものが多い。

一方宰相の家系にはもちろん策士タイプの文官が揃っているから国が安定しているのだが。


フィオーレ家は優秀な文官や宰相を輩出してきた家系だ。

いくら武に優れてるとは言え愚かな王を戴くわけに行かないから、近年の王家は騎士を輩出する家系と高位の文官を輩出する家系の令嬢をバランス良く娶るようになった。


今回は第一王子は頭脳が明晰なため騎士の家系の令嬢が婚約者となり、脳筋寄りの第二王子はリッカルダ・フィオーレ公爵令嬢を婚約者としたと数年前に発表されている。

まぁ、脳筋ってことは発表されていないので、あくまで僕の主観…というか貴族間の認識の話なのだが。


僕は隠密生活を続けるうちに彼女の望みを知った。


まず、彼女は第二王子と結婚はしたくないということだ。

そして、あわよくば小領地を持つ下位貴族の優しい旦那さんを得て、領地経営をして、食事改善をしたいらしい。

何やら『コメ』とか『ラーメン』とか『サシミ』とか『ダイズセイヒン』を食べたいから川と海がある領地がいい…と猫に話していた。


なんだろう、それ。


川と海がある領地か…って思って、それは僕のことでは?

と勘違いしかけた。


僕は隠密行動をしているのだから僕に掛けた言葉ではない。

だが、うちは本当に小領地だけど、ド田舎の半島の領主の三男だ。

もしめぼしい令嬢と婚約できなければ商家との縁談が上る可能性がある。

他領との繋がりか領地を盛り上げるかのどちらかを求められているわけだ。


それが、公爵家の令嬢なら受け入れられるだろう。


いや、そもそも僕なんか相手にされないか。

あんな美しい人はこんな地味でそこにいるかも分からない男なんぞ選ばないか…。


追いかけるなんてことはしないが見かけるたびについ目で追ってしまっていた。

稀に目が合う気がして頭を少し下げると優しい笑みを返してくれる気がして彼女の未来を心の中で応援した。

きっと隣にいるハンスや友人に向けてとか、気の所為に決まってる。


僕は彼女に声をかけられず二年の月日を彼女を影から見守っていた。


その間僕は家の繋がりでハンスと仲良くなりそのハンスの友人とも行動を共にすることが増え、上級生の卒業パーティーに送り出す側として出席していた。


その席での彼女の婚約破棄騒動だ。

僕は他の人たちが騒然とする中呆然と事実を噛み締めた。


(彼女が言ってたこと当たった!?本当に未来予知ができるのか?)


「……畏まりました。」


リッカルダ嬢を見るといつもの令嬢スマイルより少し歪んだ表情で何かを飲み込むように承諾していた。

その言葉を聞いた周りの皆が第二王子を冷ややかな目で見ていた。

リッカルダ嬢には何の咎もない。

それはここにいる誰もが分かっていた。


「恐れながら王子殿下、フィオーレ公爵令嬢がラックローズ子爵令嬢をいじめたという証拠はございますか?」


そう言ったのはハンスだった。

ハンスは普段は陽気な奴だが熱血漢なところがある。

曲がったことが嫌いなのだ。

「ブライスベル伯爵令息か。エロイーザがそういうのだ。周りの者も証言できる。それが証拠だ。」

「周りの者…とはラックローズ子爵令嬢のご友人の方々のことですか?偏向的な証言をする者たちの発言では証拠としては弱いと思いますが…」

いかん、下手に煽ったらただの婚約破棄だけになるところが彼女にとって良くない流れになるかもしれない。

さらっと婚約破棄するのが一番得策だと彼女は思っているはずだ!


「ハ…ハンス…不敬だぞ…」


僕は情けないことに小さい声でそういうことしかできなかった。

リッカルダ嬢が婚約破棄を望んでいるなど皆知らないのだから。

「お前はフィオーレ公爵令嬢をよく見ていたではないか?なら公爵令嬢がいじめなどしていないと知っているだろう?」

「な…な…何故…それを…いや、確かに彼女はイジメをするような人ではないし、していなかったのは知ってるが…不敬は不敬で…」

ハンスに少し声のトーンは落としているものの言い詰められて狼狽え小さな声で答えた。

僕がほぼ二年間フィオーレ公爵令嬢を目で追っていたことがバレてたなんて!?


「……すまない。お前は子爵家の三男だったな…無理を言った。」

ハンスは俺の言葉を聞いて自分一人でも意見しようと王子殿下に向き直った。


くそ、それもあるけど、そうじゃない。

騒ぎを大きくするんじゃないよ!


「ブライスベル伯爵令息、ありがとうございます。」


ハンスがまた何か言おうとしたところで別のところから声が上がった。

その声の主はリッカルダ・フィオーレ公爵令嬢だ。


「それとご迷惑をおかけしました。ガンバーレ子爵令息…っ」


フィオーレ公爵令嬢はハンスに声をかけた後、僕を見てさらに声を掛けてきた。


うぉ…公爵令嬢に名前覚えられてたのか。

それにしても、なんだか令嬢スマイルが一層バランスを崩したように見えた。

婚約破棄は受け入れててもイジメの首謀者だと言われたことに悲しみを抱いてるのかもしれない。

無理してなければいいけれど。


「私は婚約破棄を受け入れます。どうか王子殿下におかれましては健やかにお過ごしくださいませ。…失礼致します。」


多少無理やりに表情を作ったように見えたが、すぐにフィオーレ公爵令嬢は王子殿下に向き直りそう挨拶とカーテシーをして足早に去っていった。


僕は思わず彼女を追いかけてしまった。


いつもの猫との密会場所あたりまでフィオーレ公爵令嬢が来ると追いかけてくる僕を素早い動きでくるりと振り返り見定めていた。


僕はびっくりして思わず急停止した。


「…」


「…」


僕たちは静かに見つめ合っていた。


「にゃ~ん…」


その横から猫が現れた。

あの3色の猫だ。


「「ミケ」」


僕たちの声は重なった。


僕はつい口にしてしまった彼女がその猫につけたあだ名を口にしてしまった。

ハッとして口を押さえたが遅かった。


「はぁ、やっぱりあなただったのね。黒髪の人なんてあまりいないし…。フフ…ミケーレ・ガンバーレ子爵令息…フフ。…ミケーレ…ガンバーレ…フフフ」


フィオーレ公爵令嬢は急に砕けた口調になり、何故かツボに嵌ったのかクスクスと笑い出した。


「あの、盗み聞きしていたのはホントに謝ります。でも、出れないでしょう?猫に僕の愛称のような名前を付けられていたら…なんというか…気まずいような気恥ずかしいような。」


「そうね。ごめんなさい。あなたがいるとわかってからも1年半ほどずっと隠れてるのをわかって愚痴っていたのだから責める気は無いわ。いつかあなたから声をかけてくれるかなって考えていたの。でもあなたの名前が“ミケーレ”だと知って…フフフ…ガンバーレ子爵令息だと知って…フフフ…ちょっと面白くなっちゃって…クックック…」


公爵令嬢とはあるまじきいたずらっ子のような笑い方をしたフィオーレ公爵令嬢を僕は苦笑しながら見ていた。


「…はぁ…もう名前だけでお腹いっぱいだわぁ。あのね、こうやって話す機会がきたから言うのだけど、私の前世は『日本』という国で別の世界だったの。そこでは遊ぶ機械で物語を選んで進めるお話を見る…物があったの。実は……」


そう言ってフィオーレ公爵令嬢は近くの木箱に座りつつ、僕にこの世界が『乙女ゲーム』という物にそっくりであったこと、そして前世の日本で得た沢山のその他の知識を持っていることを教えてくれた。


ミケネコというのが3色の猫のことも教えてくれたし、“ガンバーレ”という家名が日本において応援する言葉だと聞いて何故名前で笑っていたのか分かった気がした。

いつも僕と目が合うたびに「頑張れ!」と言われている気に勝手になっていたらしい。


「イラリオ王子にイヤミ言われたり、エロイーザにいいとこ持ってかれても冷静になれたのはあなたのおかげよ。」

「いや、僕は心のなかで応援してただけで何もしてないよ。」

「ふふ…それにしても本当に応援してくれてたのね。ありがとう。」


僕は名前の下りで思わず勘違いじゃなく本当に心のなかで応援していた事を告白した。


「ところで…これからどうするんだい?婚約破棄されるのは望んでいたことだろうけれど…」


「そうね……貞操は守ってるけど…傷物になった私をもらってくれる人はいるかしら…」


僕が彼女に今後について問いかけるとチラチラと僕を見ながら話をした。

待って!その期待した眼差しは、期待してもいいってことだよね。


いや、決めろ!

男として!


「あ、あの…良ければ…いや、ホントに良ければだけど…ド田舎子爵の三男だけど…僕のお嫁さんに…なる?」


心臓が早鐘のように打つ。

急に巡ってきたチャンスに顔が真っ赤に染まり熱が上がるのが分かる。


「…うーん…どうしよっかなー…」


なんだよ…からかわれただけなのか?


と思ったら力なくさげられた左手に柔らかいものが触れた。


「ふふ…よろしくお願いします。」


フィオーレ公爵令嬢を見ると薄暗がりの中でも、耳が赤く染まってるのが見えた。

そして、可愛らしい笑顔でこちらを見あげていた。


なんだ、この可愛い生き物は。

公共の場ではあんなに凛として美しく優雅な人が目の前で照れて僕の左手をそっと握って見つめてくる。


「ほ…本当にいいんですね!?僕はこの通り陰気な黒髪黒目の地味な顔だし、子爵家の…しかも三男ですよ!?」


「うん、いいよ。あ、でも、見た目はそんなに悪くないと思うよ。なんなら私が磨いてあげる。あと、私があなたの領地をグルメな観光地にしてあげるよ。」


なんか急にアピールし始めた所もなんか可愛いな。


僕はこの可愛らしい元悪役令嬢(?)と生涯を共にすることを誓った。



それから僕が婚約や結婚で緊張してドジったり、僕たちを結びつけたミケを保護して飼って、僕を呼んでるのか猫を呼んでるのか分からなくなったり、領地の産業を二人で盛り立てて兄さんに睨まれつつも上手いこと切り抜けたりしたことはまた別のお話。

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