古い靴と新しい靴
十年履き続けた靴がとうとう可哀想なくらい、ダメになっていたから、その靴と最後のお別れに新しい靴を買いにデパートへ出かけることにした。
秋っぽい少女めいたワンピースを着て髪を結い、アクセサリーをつけて少しお洒落してお気に入りのポシェットを肩からかける。
仏壇から取り出した封筒の万札をおサイフにつっこんで、いざ参らん。
お別れする靴を履くともうその靴はソールがすり減ってべこべこで、糸もほつれていて、穴があいている。よくここまで履きこんだなと自分で自分に感心する。よくここまで、もってくれたな、この靴も。今日でこの靴は最後のおでかけだ。
この靴とは色んなところに行った。色んな時間をともに過ごした。この靴を母に買ってもらった時のことを今でも色鮮やかに覚えている。とてもわくわくしたんだ。
今もわくわくしている。さあ、行こう。この靴はこれで最後だ。
自転車に乗って冷たい風をきり、電車に乗って色んな人がいるにおいをかぐ。電車をおりてからまっすぐに、そこがデパート。靴売り場は二階だ。
「いらっしゃいませ~」
店員さんが声をかけてくれるのに会釈して、新しい靴を見る。
商品棚にライトアップされて飾られている靴は、どれもこれも宝石のように輝いて見えて、お値段の方もそれなりにした。
靴選びはいつも迷う。
自分にあう靴を選ぶのは難しい。
過去に母に言われて何度か新しい靴を選ぼうと試してみたけれども、あたしと靴とのお見合いが上手くいくことは少ない。必然、気に入った靴を履き潰すまで履くことになる。
さて、今日のお見合いは上手くいくかな?
あたしの足に先のとがった靴は合わない。だけど憧れる。素敵なお姉さんに履いて欲しい。
ふわふわのファーがついた靴。これもいいけれども、秋冬限定みたいに履く時期が限られるから、今回はいらない。
先のまるい楽な靴。好きだけど、いつもなら買うけれども、今回はちょっとおでかけ用のいい靴が欲しい。
いい靴はあたしをいいところへ連れて行ってくれるから。
一通り見た後、これという靴を見つけた。最初にちょっといいなと思っていた紐で結ぶタイプの茶色い革靴。
お店の人も、これは丈夫でいいですよと言ってくれたから、履いて歩いてみた。
きつくないし、痛くない。
だからこれにした。
万札を1枚と千円札を数枚払って、これで君はうちのこ。新しい靴を履いて、古い靴を箱につめて、さよならばいばい。
あたしは新しい旅に出る。きっとこの先、この良い靴が良いところへ連れてってくれると信じてる。