97 フロアの案内
ヴァリーラの考えた戦術を試すべく、別解組は15層に戻って来ていた。
彼女の作戦はいたってシンプルだ。
エネミーと遭遇したら、接触判定のなされる前に、リョウスケが繭包風を発動させ、ユウトもしくはネヴェリスカが先制攻撃をしかける。そうしてターゲットがリョウスケに向いたならば、残りのメンバーはこそこそと反対側に移動し、エネミーの背後から、一斉に自身の得物を振りおろすのである。
どれだけプレイヤーが攻撃しようとも、繭包風が働いている時間は、ターゲットがリョウスケに固定される。その間ずっと、レイヴンたちは一方的に相手を傷つることができるのだ。
パーティー内での連携など、あってないようなものだが、リョウスケが敵の攻撃を防げている限り、自分たちが負けることはない。おまけに、各々がエネミーにダメージを与えること、それだけに集中できるため、戦術の単純さに反して、その効果は驚くほどてきめんだった。初回に苦戦したサラマンダーでさえ、あっさりと退けることができたのである。
もちろん、この戦法は、あくまでも一対一を想定したものだ。群れとの遭遇など、難しい対処を迫られる場面も多い。
だが、元々、複数のエネミーと鉢合わせてはどうにもならないのだから、そのような心配はあまり意味がない。なるべく、倒しやすい状況を選んで勝負に挑み、そうでないときは、アヤネの奇力器を使ってリセットする。端的に言えば、氷華弓とのコンビネーションで、一帯のエネミーをすべて吹き飛ばすのである。
このやり方を採用したことで、時間こそかかったものの、別解組は着実に15層のフロアを制覇しつつあった。
そうやって、ダンジョンの床を歩いていれば、壁の端に何か落ちているのが目に留まる。
矢だ。
攻略組が回収を忘れたのだろうか、これで見つけるのは二度目となる。
矢羽根はかなり壊れているが、矢じりの部分に傷は見られない。直せば、まだ十分に使えるだろう。
嬉々として拾おうとするアヤネにブレーキをかけたのは、当然のようにヴァリーラだった。
「待って、変だわ」
彼女の台詞にレイヴンが小首をかしげる。
攻略組ほどのパーティーが、自分たちで使った矢を拾い損ねるなど、ありえないという意味だろうか?
たしかに、修理すればちゃんと再利用できるものだろうが、裏を返せば、また使うためには手直しが必要だということでもある。むしろ、あえて捨てていったのだとすれば、納得しやすいのではないかと、レイヴンはヴァリーラを訝しんだ。
しかし、ヴァリーラは語る。
「ほら、見て。この羽は人の手でむしり取られている。……これは、意識的に置かれていったものなのよ」
「だから、能動的に放置したんだろう?」
そうやって的外れな発言をレイヴンがすれば、ヴァリーラは鋭い言葉で否定していた。
「違う。これは、攻略組が道しるべとして、わざと残していったのよ」
言われて、レイヴンたちが一斉に、現にアヤネが拾おうとしている矢を見やった。
ヴァリーラの指摘するように、壁の端に置かれた得物は、自分たちの進行方向に沿って矢じりが前を向いている。
現在地が、通路の分岐点であることも合わせて考えるならば、それが路標のためのものであるという判断に、間違いはないだろう。
容易には壁を傷をつけられないダンジョンの中で、それでもマッピングを後世に伝えるために、どうにか攻略組が編みだした手法。
いったい、どれほどまでの機転を利かせれば、そんな方法を思いつくのだろうか。
ほかの武具のどれでもない。
道の隅に寄せた矢だからこそ、エネミーに荒らされずに済む。
そこまで見越しての対応なのだから、リョウスケとしても、改めて攻略組の偉大さに舌を巻かざるをえなかった。
「さすがに、ここまでされたんじゃ、救わないとまずいんじゃない?」
ネヴェリスカが冗談めかしてつぶやく。
もとよりそのつもりだが、今までよりも一層、白塔の制覇には攻略組の力が必要であると、そう痛感させられた。
可能性は低いが、まだ希望は失われていない。
食料だって、彼らが枯緑の失園を見つけていれば、ある程度まで余裕ができる。
「急ごう」
リョウスケの言葉に、みんなは深くうなずいた。
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