72 妹
「僕の出身は鳴水。リョウスケやアヤネと同じで、大陸の東にある小さな村です。霧夜のような掟はありませんが、僕は力仕事ができませんでしたので、家族の食い扶持を減らすことを名目に、野山に捨てられました。生きていくためには場所を選べなかったので、ダンジョンに流れ着いた形です。なので、僕もリョウスケと同様、ダンジョンの頂上に用事があるわけじゃありません。家族に復讐するつもりもないですしね」
(……)
リョウスケの語っていた、ユウトと同じ性質というのは、自分たちでまかなわなければならない食料を、わずかでも減らしたいという部分にあるのだろう。つまり、性別こそ男性に限るものの、霧夜はエルヴァのような病人を意図的に選んで、ダンジョンに排出しているかもしれないということである。
不愉快さを覚えるが、さすがにやつあたりをするわけにもいかない。大人しく黙ったまま、レイヴンは自分の順番を待った。
「次こそ、あたしたちかな。あたしの故郷は大陸の西側なんだけれど、そこがエムディーとスパルタンシティとの戦争に、巻きこまれちゃってね。逃げて来たってわけ。ヴァリーラはその道中で拾った妹よ」
大陸東側の地名はさっぱりだが、西側であればレイヴンにもいくらかわかる。カラサは西側に位置する村だからだ。現に、スパルタンシティという名前には、レイヴンにも聞き覚えがあった。しかし、もう一つのほうはさっぱりわからない。スパルタンシティと争えるくらいには強大なのだろうが、いかんせん心当たりがまるでない。
「エムディー?」
レイヴンがオウム返しのように尋ねれば、代わりにリョウスケが応じていた。
「MwD、その通称がエムディーだね。西側の国なので、僕も詳しいことまでは知らないけれど、スパルタンシティと争いながら、互いに領土を広げているってうわさだよ。早い話が、やりたい放題なんだ」
「そんな感じね」
追従したネヴェリスカが、直後に爆弾発言を投下する。
「ああ、そうだ。本当の妹は、その戦争で死んだわ。……だから、そうね。もし、自分たちで白塔を制覇することがあったら、そのときは、エムディーとスパルタンシティの両方を消し炭にしてくれるよう、ダンジョンに願うかも。でも、今はまだそこまで乗り気じゃない。ヴァリーラもいるしね」
「……」
何か理由があるのだろうとは思っていたが、そこまでヘビーなものは完全に想定していなかった。
本当の妹のように可愛がっている――くらいの軽い意味合いではなかったのか。
今まで触れて来なかった問題に対して、ユウトとリョウスケとはどう反応していいのかわからず、面々の顔をただ見まわしていた。
レイヴンも似たような状態だったが、聞いておかなければならないことがある。
「お前の腕なら、戦争に参加してそうなものだがな」
「あたし一人が入ったところで、どうにもなんなかったわよ。そういうレベルじゃないもの」
「姉さん、そのくらいでいいでしょう? 当時のことは、あまり思い出したくないの。無理をする姉さんの治療ばかりで、毎日が大変だったんだから」
逃走するといっても、戦地からの脱出とあっては、さすがに簡単ではないということなのだろう。
重たくなった空気を和らげるように、ヴァリーラがそう言って茶化す。
答えながら、彼女が横目でちらちらとレイヴンのほうを見て来るので、どうやらヴァリーラは、さっさと自分の背景を話しはじめてほしい様子だった。
その意図を汲んで、レイヴンが口を開く。
「俺は、すぐそこのカラサが故郷になる。カラサにはカラサ病っていう、不治の病が蔓延していてな。姉ちゃんがその病気にかかっちまった。初め、俺はダンジョンの奇跡を頼りに、姉ちゃんの回復を目指していたんだが、ついに間に合わなかった。亡くなる前、姉ちゃんからカラサの発展を任された。昔からの夢だったそうだ。それで、今はカラサの発展を目標に、ダンジョンの制覇を望んでいる。期待の攻略組が行方不明なんで、振り出しに戻った感じだけどな。……心配するな。元々は自分一人でもやるつもりだったんだ。お前たちは、このまま別解組として活動すればいい。俺は上を目指す」
勇んでレイヴンが言い切れば、ヴァリーラとしては快く思わなかったらしい。窘めるように彼女が言葉をつないでいく。
「待って、レイヴン。結論が早い。先に、アヤネの話を聞いてから」
言うやいなや、待ちきれなかったのか、アヤネはすぐに喋りだした。
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