62 食料
だが、ダンジョンを古代の兵器と仮定するとしても、結局、白塔がどのような施設であるのかは、まるでわからないままだ。
「この兵器は、何がしたいんだ……」
武具の存在意義は、戦いの中にしかないだろう。それが敵を殺すためにしろ、味方を守るためのものであれ、本質的な意味合いは、種々の暴力の中に埋没してしまっている。
これほどに巨大な構造物であれば、小さな小競り合いではなく、大規模な戦争に使われたと見るのが妥当だろう。しかし、実際のダンジョンは、単にエネミーを作りだしているにすぎない。エネミーは異なるフロアを移動しないのだ。これを敵国の攻撃に用いたと考えるのは、いくらなんでも無理がある。エネミーは決して、白塔の外に出て行こうとはしないのだ。
レイヴンの黙考に、ヴァリーラが気だるげに応じていた。
「プレイヤーを呼び寄せるため、とか? その辺のことは、正直、まだよくわからないよ。でも、『兵器』と刻まれてあったのは確実」
「まあ、そんなに深刻に考えないでくださいよ。このダンジョンの正体が何にしろ、僕たちは一歩ずつ進んでいくしかないんですから。生活がかかっていますからね」
ユウトの指摘ももっともだ。
レイヴンは考えることをやめると、すでに枯緑の失園を見物していたアヤネのほうへと、歩いて近づいていった。
その様子を観察していると、あろうことかアヤネは勝手に採集して食べてしまっている。
「おい!」
慌てて、呆れたように声をかければ、アヤネはびくりと肩を震わせながら、ぎこちない動作でこちらに向きなおっていた。
「ああ……見ていました?」
「何をやっているんだよ。お前は俺より詳しかったんだ。ここが非常用の場所だってことは、言われなくともわかっているんだろう?」
「すいません。美味しそうだったので、つい」
(ついって……)
ユウトもアヤネの行動には失笑を零していたが、すぐに襟を正してリョウスケに尋ねる。
「実際、どうします? 6層と違って、こっちはたぶん、別解組以外だとだれも来られないでしょう」
「そうなんだよね……。ほかのプレイヤーに配るといっても、戦利品じゃなくて、食料を直接ふるまってしまうと、やる気や向上心に悪影響がありそうだしな。アヤネがやったように、食べられるぶんだけ今ここで採ってしまうのが無難かな」
「で、ですよね! やだな、先輩。私は最初からわかっていましたよ」
言って、アヤネはレイヴンの腰を肘でつついた。手加減をしていないのか、かなり痛い。
「11層の羅刹が、どのくらいで復活するのかはわからないけれど、倒すのに毎回、あんなぎりぎりの戦いをしているようじゃ、別解組専用の枯緑の失園にするわけにもいかないだろうし……。少しもったいない気もするけれど、ほかのプレイヤーの手前もある。僕らもここを積極的に利用することは控えようか」
8層の水場しかり。
ここが自由に使えるようになれば、ゴールドマン頼りの生活を強いられている貧者への、強力な支援となるだろう。リョウスケの基本的な方針に照らせば、残念に思うのは当然と言えた。
ゆえに、レイヴンはそこまで悲観的ではないと反論を示す。
「……。まあ、俺やネヴェリスカがもっと強くなれば、戦闘面での事情は改善される。頭の隅にくらいなら、置いといても罰はあたらないと思うぞ」
「それもそうだね。じゃあ、いずれは――という形にしようか。期待しているよ、レイヴン。それから、ネヴェリスカも」
念を押すように、リョウスケが視線を彼女に移せば、ネヴェリスカは奥のほうでしゃがんだまま動かない。
ヴァリーラと一緒にいるのかと思ったが、そっちの彼女は、横で天井を見あげたままぼうっとしていて、別の意味で何をしているのかわからなかった。
不審に思ったリョウスケは、再度その名前を呼ぶ。
「ネヴェリスカ? どうかしたのか」
「ねえ、リョウスケ。これって、何だと思う?」
間髪入れずに返される台詞。
ネヴェリスカの意味深な言葉遣いに釣られ、レイヴンたちはアヤネを含めて全員が、そちらへと移動していく。
指さす先。
目の前に広がっていたのは、下へとつづく階段と、それを隠すようにうずたかく積もられた戦利品の山だった。
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