53 壊弩士としてのアヤネ
ばごん。
日常では考えられないほどの轟音が響いたかと思うと、アヤネの放った矢は、目標どおりに羅刹の腰を破壊していた。
爆発。
多量の火薬でも含んでいたのかという、にわかには信じられない衝撃が羅刹の体を襲い、穿たれた個所は大きくえぐれ、ほとんど巨大な穴の様相を呈していた。
レイヴンの肩を借りて走るネヴェリスカは、爆音に驚いて振り返ったとき、眼前に広がる意味不明な光景に、思わず息を飲んでいた。
「……反則じゃない、こんなの」
羅刹の状態こそ確認していないが、聞こえて来た音だけで、何が起こったのかはレイヴンも大体想像できた。ゆえに、彼の抱いた感想も、ネヴェリスカとそんなに変わりはしない。
「だが、どうやら無制限ってわけじゃないっぽいな」
レイヴンの言葉に、訝しんでネヴェリスカが前方を見やれば、たしかに彼の指摘するように、いつの間にかアヤネの腕が元の柔肌に戻っている。
奇力器の効果が切れたのだ。
だが、そうと知らないレイヴンたちにしてみれば、疑問符が浮かぶばかりだ。
いずれにせよ、アヤネに頼りっきりというわけにもいかないことだけは、どうにも確かだろう。
もしも、あの大砲みたいな射出を無限に行えるのであれば――放つたびに矢こそ焼失すれども――、羅刹も恐れるに足りないだろう。リョウスケの盾にアヤネを隠しながら、ひたすら彼女に弓を使ってもらうだけで、大抵のエネミーは爆散するし、羅刹であっても完封が可能となる。
だが、そうではない。
アヤネが最初から射出を行わなかったのが、その何よりの証拠である。
彼女の秘密についてはあとで問いただすとして、今はいち早くユウトたちと合流し、階下ないし階上に避難しなければならない。
鼠径部に大ダメージを与えたといっても、羅刹としてのトロルに、いったいどれほど桁違いの自然治癒能力が備わっているのかは、依然として未知数だ。
悠長に逃走してはいられない。
まだ、安全圏とは言いがたいのだ。
ユウトを先頭に、ヴァリーラの手を握りしめながらアヤネが退避していく。
最後まで残っていたリョウスケが、レイヴンに代わってネヴェリスカを抱き抱えると、別解組はその場から逃げ帰っていた。
※
12層のフロアが近かったため、危険だとは思いつつも、別解組はそちらに避難していた。
全員が抱いたであろう疑問を、リョウスケが代表してアヤネに尋ねる。
「さっきのあれが、部分的になら、壊弩士の職分を担えると話していたことの正体だね?」
「はい……ごめんなさい。でも、みなさんを騙そうとしていたつもりじゃないんです。ただ……あてにされるほど、使い勝手のいいものでもなくって」
「それは、いったい何という力だい?」
「奇力器ですか?」
アヤネの返事に、レイヴンたちは聞き覚えがないと、お互いの顔を見まわすばかりであったが、さすがはリョウスケである。彼は耳にしたことがある様子だった。
「奇力器……。うわさ以上の性能だな」
「はい。私の持っている『剛腕』は、奇力器の中でも、特に質の高いものだと父から聞かされています」
「お父さんもプレイヤーだったのか」
「おそらくは」
意味深な言い方に、事情があることを感じたリョウスケは、それ以上、家族の話題に触れるのを避けた。
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