43 反撃、開始だ。
ぐさり。
深々と刺さった矢は、ヴァリーラの左腕を正確に貫いており、得物の先端が、反対の皮膚を飛び出しているほどだ。
「くっ……」
あまりの痛みに、ヴァリーラが苦悶の声をあげながら、ぎゅっと腕を抑える。
もともと、ヴァリーラは戦闘に参加していない。
不得手ということもあるのだろうが、なおさら痛みには慣れていないはずだ。
反射的に動いてしまっただけなのかもしれないが、射られることを承知で身を出した勇気と覚悟、それに少なからず、仲間と呼べる相手を傷つけられた事実に対し、レイヴンは強い尊敬と憤りとを覚え、ケンタウロスに素手のまま飛びかかっていた。
フェイントを入れつつ、上段からエネミーの顔面に向かって回し蹴りを放つ。
得物を槍に持ち替える時間のなかったケンタウロスは、それを甘んじて受ける形になったが、敵の表情から余裕の笑みは崩れていない。
大したダメージが入っていないのだ。
やはり、レイヴン程度の肉体では、武器がないと相手を害するには至らない。
悔しがるレイヴンの見ている前で、ケンタウロスがゆっくりと得物を槍にチェンジする。
いまだレイヴンに対して、エネミーが大技に出ていない状況下では、うかつに行動することはできないと言いたげに、ユウトも背後で控えたままだ。
直後、弾けるようにして、ケンタウロスの腕が急に持ちあがったかと思うと、つかんでいたはずの武器を、エネミーが取り落としていた。
少女がレイピアごと突っこんでいたからだ。
「ネヴェリスカ!」
「妹に何してくれてんの?」
ほぼ同時に、回収されたレイヴンの愛剣が投げ渡される。
若干、明後日のほうに飛ばされた得物を、レイヴンはジャンプして握りしめると、ようやく反撃のスタートだとでも言うように、ユウトの顔を見つめてうなずいた。
「ユウト、ヴァリーラたちについて、ハーピーを警戒しろ! 大丈夫だ、すぐにおわらせてやる」
「わかりましたよ」
これで後方の憂いも消えただろう。
やがてはハーピーも、ケンタウロスと挟み撃ちをすれば、じわじわと、リョウスケたちを圧迫できることに気がつくだろうが、ネヴェリスカが復帰してくれた今ならば、その前に1体目のエネミーを倒しきれる。
ネヴェリスカはケンタウロスの腕に飛びついたまま。
それを捕まえようと、エネミーがもう一方の手を伸ばしたとき、完璧なタイミングで踏みこんだレイヴンが、2本目の足を切り落としていた。
「うりゃぁあああ!」
自重を支えきれなくなったケンタウロスが、前のめりに崩れ落ちる。
そのまま一方的な戦いになるかと思われたが、ケンタウロスは最後の力を振り絞って、体を勢いよく反転させた。
ちょうど、レイヴンがやったように、後ろ足で回し蹴りを放ったのだ。
わずかに浮いた馬の胴体。
レイヴンはスライディングの要領で下に潜りこみ、ネヴェリスカはレイピアで突き刺しながら、エネミーの上部へと避難する。そのまま彼女は、馬乗りになって、相手の顔面に何度もレイピアを突き立てた。
これは堪らないと、ケンタウロスは悲鳴を上げるが、もはやネヴェリスカを振りほどくような力は、その体に残されていない。
追撃するように、反対側へ回ったレイヴンが、ケンタウロスの腹部を剣で切りつける。
そこから先は、呆気ない幕引きとなった。
まもなく、ダンジョンの地面へと吸いこまれていく、ケンタウロスの亡骸を眺めながら、レイヴンは肩をストレッチしつつ、何気なくつぶやいた。
「羅刹を相手取った俺たちからすれば、楽勝って感じか?」
「何を言ってんの? ヴァリーラを守れなかったあんたにも、あとで話があるから」
(あっ……。これ、マジなやつだ)
背中に流れる冷や汗を感じながら、レイヴンは2体目のケンタウロスを、その視界に捉えていた。
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