41 茶々を入れるハーピー。
ケンタウロスが弓を番えると同時に、リョウスケは後ろを振り返って、その対象を目視で確認していた。直観で、レイヴンを狙っているのではない気がしたからである。
予感は的中。
そのターゲットがネヴェリスカにあることに気がつくと、リョウスケは仲間に的確な指示を飛ばす。
「ユウト!」
阿吽の呼吸。
それだけで内容を理解したユウトが、放たれた矢の軌道をずらすため、持っているダガーを下から軽く振りあげた。
かきん。
甲高い音が鳴って、矢が明後日の方向に飛んでいく。
おおかた、ダンジョンの壁にでもぶつかったのだろう。
それと同時に、槍を持って詰め寄るケンタウロスの前に、リョウスケが盾を構えて躍り出た。敵の突進を、正面から受け止めようというのである。
矢の軌道をずらす。
その行動を取ったがために、わずかに周りから注意のそれたユウトに対しては、ここぞとばかりにハーピーが急襲していた。
ここは広間のように吹き抜けた空間だ。
今までのように天井の低い通路に、ハーピーを誘いこんだわけではない。
持ち味の空中移動を、ハーピーは思う存分に披露できるのである。上下左右、どこにも死角のない攻撃をフルで発揮されようものなら、骨が折れるどころの騒ぎではないだろう。防戦一方になりかねない。
「ん――!」
とっさにユウトは腕をクロスして頭を守ろうとするが、あのままではエネミーの鋭い爪を防げないだろう。ハーピーなら、とっさに傷つける部位を変更するくらい、簡単にやってのけるはずだ。
だが、ハーピーがユウトに接触することはついにない。
エネミーの降下に合わせ、レイヴンが愛剣を投擲したからである。
横目で武器の飛来を確認したハーピーが、空中で停止。
そのまま上空へと高くたかく引き返していく。
(つくづく、後手に回されるな……)
投げた剣はケンタウロスの脇に落下していた。
直後、爆発するような轟音が辺りに響き渡る。
レイヴンの得物ではない。
リョウスケとケンタウロスとが接触したのだ。
「ふぬぅ!」
独特の掛け声とともに気合を入れたリョウスケが、相手の勢いを封じこめる。
(……さすがだ)
羅刹の攻撃にも耐えていた男なのだ。
この程度の衝撃であれば、受け止めることなど朝飯前だろう。
レイヴンの武器は遥か先。
自分で投擲したのだから、手元にないのは当然だったが、拾いに行くためには、かなりシビアにタイミングを計らなければならない。
間違いなく、足元の得物にケンタウロスは気がついているだろう。
不意を衝かなければ、飛び出した瞬間にカウンターを食らうことは、目に見えている。
「……」
正直なところ、遠距離で戦えるプレイヤーがほしかった。
そうすれば、今のような状況にも難なく対応できただろう。もっと言ってしまえば、このように追いこまれることも、あるいはなかったのではないか。
ないものねだりをするレイヴン。
一瞬だけ、場の空気が硬直する。
リョウスケの陰に隠れていたヴァリーラは、その膠着を見逃さず、素早く前後を見渡すと、いまだ状況を把握できていないネヴェリスカを、自分のもとに呼び寄せていた。
「姉さん!」
反射的に翻すネヴェリスカ。
妹に何かあったのかと顔が曇るが、ヴァリーラの様子から違うことを察する。おまけに、移動して来る間に、レイヴンの恰好を見て、何が起きたのかを大体理解したようだった。
「オッケー。あたしが剣を取りに行く。前のやつをお願い」
ユウトとレイヴンの肩を小突き、ネヴェリスカが持ち場を交換する。
(……なるほど。俺とユウトが拾いに行くより、たしかにネヴェリスカのほうが確実だ)
リョウスケが相手を抑えているとはいえ、後ろのケンタウロスは前のやつとは異なり、まだ無傷だ。
万全のケンタウロスから隙を作るよりも、戦力として低い手負いの相手をしているほうが、いくぶんは仕事が簡単だろう。ネヴェリスカが役割を代わってくれるならば、得物の回収もしやすい。
無口だが、ヴァリーラの指摘は鋭いものだった。
(よく周りを見ている……)
彼女の冷静な判断力に驚かされながらも、レイヴンは、ユウトとともに前のケンタウロスへと向かっていく。
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