30 帰郷
悪化した空気に、リョウスケが呆れたようにユウトを宥める。全員より、年齢が10歳ほど離れているだけあって、リーダーのリョウスケは、こういったことに慣れているのだろう。
「よさないか。ソロでの活動も、立派な一つのやり方だよ。……でも、レイヴン。今度からうかつに罠場に入るのは、やめてほしいな」
「それは重々承知している」
レイヴンとしても、それは十分に自覚していた。大層懲りたことは、リョウスケも容易に想像できたはずだろう。それでも、言わなくてもいいことを、あえてリョウスケが口にしたのは、彼なりに失望感を露わにしたかったのだろうか。
「僕たちはまだ、10層に残るつもりだが、レイヴン。君はどうする?」
ダンジョンから引き返すつもりならば、途中まで送っていくという気遣いだった。
無下にするのは忍びない。
受け取るのが社交的な対応だろう。
「俺はもう……。階段まで案内してもらえるなら、助かる」
「わかった。一緒に行こう」
無言のまま4人が歩く。
先行するユウトが、時折、偵察した結果を報告してくれるため、エネミーと遭遇することは滅多にない。ほとんど戦闘という戦闘をするわけでもなく、レイヴンは9層へと向かうことができていた。
「ありがとう。ここでいい」
「……そうか。それじゃあ、また。同じ白塔にいるんだ、どこかで会うこともあるだろう。そのときはよろしく頼むよ」
「ああ」
手を振るリョウスケに会釈を返し、レイヴンは出口を目指して足を進める。
満身創痍で、十分に戦うことのできない体。
そんな状態で、ダンジョン内を歩行するのは、非常に怖い体験でもあったが、これまでのことを振り返るいい時間にもなった。
3層までついてしまえば、今の体であっても恐れるに足りない。
もちろん、だからといって道草を食ったところで、得られるものは何もないだろう。この辺りであれば、これから先も、休養を取らずに来られるが、戦利品の獲得は見込めない。糧食につながらないのであれば、大人しく家で、体の治療に専念したほうが賢い判断と言えた。
※
やがて、レイヴンは故郷のカラサに戻って来ていた。
ずいぶんと長らく実家には戻っていなかったので、部屋の中が砂埃だらけだ。まずはその掃除からしなければならないだろうが、姉にあいさつするほうが先だろう。
そう考えたレイヴンは、玄関をUターンして家の外に回る。
荷物はない。
そもそも、レイヴンの装備はゴールドマンから借りているにすぎないのだ。一時的にカラサに帰ると告げた時点で、ゴールドマンが、それらをレイヴンに貸したままにしておく道理はなかった。
簡素な墓。
その前に座ったレイヴンが、姉に軽く手を合わせる。
(ただいま、姉ちゃん。帰って来ちまったよ……。ごめん、まだ約束は果たせていないんだ)
造りが粗雑なだけあってか、もうすでにぼろくなりはじめている。
「ついでに自分で作りなおすか」
材料も、適当に見繕えばいいだろう。なんなら、白塔までの道で勝手に調達してしまっても、いいかもしれない。
そこでふと、レイヴンは違うことを連想した。
(あれ? そういや……ダンジョンで亡くなった人って、だれが遺体を運びだしているんだ?)
今まで、レイヴンはプレイヤーの亡骸を見かけたことがないのだ。まさか、ダンジョン内にそのまま放置されているわけではあるまい。ダンジョンはかなりの人間を殺して来たのだから、それだと目にしないほうが不自然である。
だが、すぐに頭を振って、レイヴンは余計な考えを追い払った。
エルヴァに関係のない話であるのに、墓の前で、ずっと姉の嫌っていた白塔のことを考えるのは、よくないように思われたからである。
(大体、ソロのほうが珍しいんだしな……)
パーティーであれば、死に物狂いで仲間を助けるだろう。自分が聞かされて来た死者の数というは、だいぶ盛られたものだったようだ。
レイヴンは自嘲気味に笑って、家の中へと戻っていった。
コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。
次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ




