29 レイヴンなりの、葛藤。
黙考。
判断に悩むレイヴンは、口を閉じたままリョウスケを見る。
(……)
何がなんでも、自分の手でダンジョンを制覇してやるなどとは言わない。
少し前までのレイヴンになら、そんな責任感にも似た覚悟があったが、羅刹との一戦を経て考えは大きく変わった。己の行動が、単なる蛮勇にすぎないのだと気がついたのである。
必ず自分が、頂上にたどり着かなければならないわけではない。
レイヴンが命を賭してでもやるべきなのは、姉との約束であって、カラサから貧しさが消え去るのであれば、手段は何だってよいのだ。白塔の攻略は、あくまでもその一つである。
もちろん、現実的には、ダンジョンの言い伝えに頼らざるをえないため、専らその制覇が課題となるが、自分自身の力のみで挑む理由は、なお存在してはいない。
実際、最も早くにダンジョンの深部へと到達するのは、この調子であればレイヴンではなく、どう考えても攻略組になるだろう。少々癪だが、ゴールドマンの指摘していたように、彼らに自分の願いを、代わりに叶えてもらうという方法だって考えられる。
その意味で、大事になって来るのは、別解組がダンジョン制覇に必要な時間を縮めるのに、貢献しているかどうかだろう。
(建前上、リョウスケは攻略組の手伝いと言っているが、実際にはほとんど影響していないはずだ……)
嫌な言い方をすれば、別解組は強者の捨てた残り物を漁っているだけなのだ。攻略組が、別解組のサポートを受けているとは考えにくい。別解組の存在に関係なく、攻略組はどんどんと、ダンジョンの深部に向かって進んでいくだろう。
それらに加えて心理的な問題も、もちろんあった。
トラウマは依然、大きな影としてレイヴンに襲いかかって来るが、ネヴェリスカとの死闘を経験したおかげで、ほんの少しだけだが、気持ちが楽になったような気もする。別解組は決して親しい間柄ではないが、それでも、他人の死に対して何もできないという無力感は、ちょっとだけ解消されたのだ。ひょっとしたら、自分はパーティーに加わることで、もっとまともな人間に変われるのかもしれないと、そういう予感も心なしか覚えてしまう。
(……)
様々な事情を加味したうえで、最終的にレイヴンの出した結論は、やはりノーというものだった。
「俺には、お前たちに救われた恩義がある。だから、力を貸せと言われれば、俺もそうするのが筋だと思う。実際、ちょっとしたことなら俺にも手伝う準備がある。だが、パーティーに加わるというのは、正直……」
「まあ、そうだよな……。いきなり言われても困るよな。すまなかったな、無理なお願いをして」
「……悪いとは思っている。何か、別の形で借りを返せるなら、ほかの案を出してくれ」
胸に残ったしこりを解消しようと、レイヴンが答えれば、ユウトはそんな自分勝手なふるまいが許せなかったらしい。はっきりと、レイヴンに向かって嫌味を吐いていた。
「僕たちは貸し借りで助けたつもりはありませんよ。あなたと違ってね」
正論だ。
レイヴンの救出が別解組の任務とまでは言わないが、より厚く恩を着せたいのであれば、彼が目覚めるまで、こうして罠場で待機していることはなかっただろう。レイヴンを抱えて階下まで撤退すればよい。そうすれば、好きなだけ道中で苦戦したことにして、対価をふっかけられる。それをしなかったのは、ひとえにレイヴンのことを思って、安静にしておくのが望ましいと、判断したからにほかならないのだ。
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