23 図らずも、連携。
今までずっと一人で行動していたレイヴンには、わかるはずもなかったことであるが、エネミーには、一番最後に攻撃して来たプレイヤーを、優先して狙うという性質がある。
ネヴェリスカたちの戦いを見物している間に、レイヴンはその習性を学びとっていた。
レイヴンが前へと飛び出していく。
それを目視したリーダーは、慌てて制止を呼びかけるが、当然ながらレイヴンはそれに応じない。むしろ、それに呼応するようにして、ネヴェリスカもまたオークに迫っていた。
彼女の加勢を横目で見て取ったレイヴンが、すばやく要件を伝えていく。
「ネヴェリスカ。悪いが、あんたにはオークの的になってもらいたい。俺じゃ、やつの動きに対応できないんでな」
「ヘイト管理ってことね。オッケー! 本来、それが乱疾剣士の役割だよ」
リーダーがオークの攻撃を受けていたのは、あくまでも、その背後にネヴェリスカとユウトがいたからである。言い換えれば、彼らを狙っていたはずの斧を、リーダーが代わりに食らっていたにすぎない。
だから、レイヴンが攻撃した直後に、すかさずネヴェリスカが追撃を入れれば、オークの目標は彼女に移る。そして、それが可能なほどに、ネヴェリスカの身体性能はずば抜けているのだ。
ネヴェリスカの攻撃。
ユウトに移っていたターゲットを、自分に戻すためのものだろう。
鬱陶しそうにオークが腕を払うが、ネヴェリスカはすでに後方で待機している。完全に無駄な動きだ。おまけに、次の刺突をかまそうと、彼女は余裕で待機しているのだから、羅刹がもてあそばれていると言ってもよかった。
ネヴェリスカの構えは、レイヴンの状況に対応するためのものに違いない。
それを受け、レイヴンは思いのままに剣を振るった。
自分がどのように攻撃を行おうとも、ネヴェリスカがそれに合わせてくれるという、確信があったからである。
「うりゃぁあああ!」
レイヴンの一撃と、ほぼ同時にネヴェリスカが肉薄。オークの足元を数回切りつけて、再び明後日のほうに抜けていく。
(……。わかっていたことだが、間近で見ると本当にやべぇな。この女、マジで人間かよ……)
化け物じみた動きに、レイヴンは苦笑いを禁じえない。
このままのペースなら、本当にオークを倒すこともできるのではないかと、二人の間に期待が芽生えたとき、羅刹はこれまでとは異なる構えを見せていた。
斧をだらりとぶらさげたまま、その場で固まったのだ。
(……チャンスか?)
隙を与えてくれるというのであれば、これに乗らない手など存在しないだろう。
レイヴンが追撃を行おうと剣を握りなおせば、ネヴェリスカが悲鳴のように鋭く声をあげていた。
「踏みこむな!」
反射的に留まったレイヴンが、何事かと彼女のほうに目を向ける。
オークの目標になっているネヴェリスカは、恐るおそる距離を縮めながら、レイヴンにその訳を話した。
「たぶん……カウンターだ。すごく嫌な感じがする。あたしでも避けきれないと思う」
一発は食らってやるが、同じように一発は必ず食らわせてやる。
そういうことなのだろう。
ネヴェリスカでダメなら、もはやどうすることもできない。彼女以上に回避に特化しているプレイヤーは、見つけようと思っても逆に難しいだろう。それほどまでに、ネヴェリスカは正直異常だ。
加えて、この間に逃げるという選択肢もない。
それをしようとすれば、即座にオークがカウンターの構えを解いて、追って来るだけで状況は変わらない。むしろ、逃げるに際して、余計にこちらが体力を消費するぶんだけ、戦況が悪くなるくらいだ。
しかし、逆の見方をすれば、最後の切り札を使わせる程度まで、羅刹を追い詰めることができたとも言える。
ここさえ乗り切れれば、全員で無事に罠場から避難できるようになるのだ。
それがわかっていて引き下がることはできないと、レイヴンは再び強く剣を握った。
「今のターゲットは、ネヴェリスカで間違いないな?」
「うん、そうだけど」
「じゃあ、大丈夫だ。俺がやつの首元に、風穴を開けてやるよ」
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