21 羅刹
自分を心配する声に、レイヴンはかろうじて首を動かす。
近づいているのは全部で4人。てっきり1人だけかと思ったが、どうやらパーティーのようだった。
「赤い……オーク! 羅刹だ! みんな、くれぐれも心してかかれ!」
「「了解!」」
レイヴンに話しかけた男と同じ人物の合図で、みんなが一斉に陣形を組みはじめる。
手慣れた動きだ。
パーティーの構成は、男と女がそれそれ2人ずつ。その中の1人が、レイヴンのもとへと小走りで近寄って来ていた。
とても長い髪の女である。
素早くレイヴンの状態を確認した女は、彼の装備を乱暴にはがしながら、簡単な治療を行っていった。
(すごいな……。医術の心得があるのか)
この世界に白魔法と呼べるものはない。それどころか、魔法と呼べるような奇跡は、ダンジョンの言い伝えを含めても、数えるほどしかないだろう。
どのようにして彼女が、それらの技術を学んだのか。それはレイヴンの想像できない領域にあったが、少しだけ彼女のおかげで体が楽になったような気もする。きっとそれは、パーティーという助けが来てくれたことで、心理的な負担が大きく軽減したという点も、多分に影響していたはずだ。
彼女に支えられるようにして、ダンジョンの壁に背をついて座ったレイヴンが、パーティーの様子を窺う。
応援は心強いが、オークの強さは尋常ではない。並みのプレイヤーでは歯が立たないのではないか? レイヴンの心配は、そんなところにあった。
(……速いっ!)
部分的に見れば、レイヴンの不安は杞憂におわったと言えただろう。
髪を短く切りそろえた女の動きは、別次元のふるまいに至っていたからである。
速すぎるのだ。
レイヴンに一瞬で肉薄したはずのオークが、まるで女に対応できていない。
狙いを定めて剛腕を振るっても、すでに女は、別の角度からレイピアをオークに突き立てている。
無論、完全に圧倒しているというわけでもない。
その戦闘スタイルの特徴なのだろうが、エネミーにダメージを与えることには、あまり成功していないように見える。それでも敏捷性という点に絞れば、レイヴンとは比べ物にならないほどの、驚異的な運動性能を発揮していた。
彼女がオークの攻撃を受けることは、まずないだろう。
そう思った矢先、彼女がいきなり反転して、パーティーのもとまで合流していた。
(何をする気だ……)
「思ったより、のろまじゃなくてちょっと大変。少し、休憩させて」
リーダーと思わしき男に告げれば、彼は即座に、盾をどっしりと構えて全員の壁となる。
それを見るにつき、オークも両腕で斧を振りかぶりながら、男へと詰め寄りはじめた。
「わかった。しばらく、俺がやつの攻撃を防ぐ。その間に、ユウト、お前が攻撃してくれ」
「ちょっと無茶を言わないでくださいよ! 僕の専門は偵察と不意打ち。あくまでも、雑魚の数を減らすのが仕事なのであって、あんな大物の相手なんか、僕に務まるはずがありませんよ!」
「それでも、お前しかいない!」
(火力……不足か)
レイヴンから見ても、パーティーの質は非常に高いものと言わざるをえなかった。
おそらくは、ユウトが斥候としてルートの判断をしつつ、避けられない戦いがあれば、ショートカットの女とリーダーとで、相手を仕留めるというのが、これまでのやり方だったのだろう。万が一、負傷しても長髪の女が控えている。逃げることさえできれば、パーティーが全滅する恐れはない。
(俺を助けるため……か?)
このパーティーの方向性からして、無茶なことはしないはずだ。
今の状況は、明らかに恣意的な選択によるものだろう。
ダンジョンの通路に、自分の足跡などあってないようなものなので、どうやって彼らがレイヴンの存在を知ったのかは不明だが、まず間違いなく、救援のために無理をした結果が現状なのだ。
リーダーに接近したオークが斧を振りおろす。
どがん!
これまでに聞いたことがないような衝撃音が響いたが、リーダーの男は、その攻撃にほとんど無傷で耐えていた。
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