20 罠場
その場所に足を踏みいれたとき、確かな違和感をレイヴンは感じとっていた。
しかし、先を急ぐレイヴンは、それをただの気のせいだと一蹴し、深く考えることをしなかった。
だからこそ、その気配が、ごまかしようのないほどに濃くなったときには、すでに手遅れの状態にまで陥っていた。
眼前に現れるは赤色のオーク。
醜い顔も、特徴的な斧も、明らかにそれがオークであることを物語ってはいたが、そのエネミーは3つの点で異常だった。
まず、大きさだ。
通常のオークは、レイヴンよりも一回り大きい程度で、背丈がそれほど高くはない。そうだというのに、目の前のオークは明らかに2m以上もあり、今までの常識にはあてはまらないのである。
2つ目は体の色だろう。
オークは緑色をベースにしたエネミーであって、こんなふうに全身を真っ赤に染めあげてはいない。
そして、最後の異質さは、そのオークが単独で、ダンジョン内を闊歩しているという点だった。
(……どうなってやがる?)
オークの厄介な点は、一定の社会性を持つこと。言い換えれば、群れで行動することに、プレイヤーにとっての障害がある。
しかし、今、レイヴンに立ちふさがっているオークは、何度見ても一体だけであり、どう考えてもこれまでとは別種の存在だった。
(上位個体……? いや、そんなはず……)
同じ種類のエネミーに、ハイレベルなものがいるなどという話は、うわさレベルであっても聞いたことがない。
わけもわからぬままに、レイヴンが相手に対する恐怖から距離を取ったとき、いつかのゴールドマンの台詞が、自然と思い起こされていた。
『ダンジョンには正しいルートというものがあるとされる』
正解の道。
実際、その経路が、最もエネミーとの遭遇確率が低いことは、プレイヤーの間では広く知られている事実であった。
では、それとちょうど反対に、不正解の道順であった場合にはどうか?
「クソっ! ここが例の――」
あるのだ。
数多の侵入者を排除するためだけに作られた空間が、一部のハズレには設けられている。
それが罠場と呼ばれる場所であることは、レイヴンも知識としては知っていた。
今の今まで、そんなものがあるなどとは微塵も信じていなかったが。
(やべぇ……)
赤いオークから、決して目を離さずに後退をつづけるレイヴンだったが、次の瞬間には、体が上に跳ねあげられていた。
一瞬で肉薄したオークに、アッパーを食らわされたのだ。
(マジ……かよ)
天井に衝突したレイヴンが、そのまま自由落下の動きを見せる。
それを待ち構えるように、オークは拳を固く握りしめていた。
裏拳。
どうにか剣を前に出して、レイヴンは相手の攻撃を防ごうと努めるが、腕が弾けるのではないかという衝撃に耐えることはできず、ダンジョンの通路をスーパーボールのように反発しながら、後方へと大きく殴り飛ばされていた。
「ゲホ……ゴホッ」
威力が違いすぎる。
(本当にまずいって……)
間違いなく、体の深部までダメージを負った。
たったの二発でこれだ。
もう動けない。
次の一撃で、とどめを刺されるだろう。
最後まで戦う意思を見せようと、そばに落ちていた愛剣を握りなおすように努めるが、もはやレイヴンの体に、それだけの力は残されていなかった。
(姉ちゃん……ごめん)
だが、まだレイヴンのことを女神は見捨てていない。
「大丈夫か!」
何者かが、レイヴンのもとへと駆けつけていたのである。
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