19 体毛で覆われていない部位。
全速力で逃走したレイヴンには、確実にライカンスロープを撒いた自信があった。
しかし、その15分後には、再び同じエネミーとレイヴンは相対していた。
ライカンスロープは、その鋭敏な嗅覚を利用し、レイヴンのことを着実に追跡していたのだ。
「つくづく面倒くせえエネミーだな、お前は!」
舌打ちをしたレイヴンが、二足歩行のオオカミを睨みつける。
もはや逃げられないとレイヴン悟っていた。
戦う覚悟を決め、レイヴンは剣を持ちなおすが、問題は敵の体毛だろう。
この点をどうにかしなければ、いつまで経っても、ライカンスロープに致命傷を与えることはできない。
じり貧だ。
プレイヤーの数よりも、エネミーの数のほうが圧倒的に多いのだから、一体との戦闘に長時間を消費するのは、全体的に見るとマイナスでしかない。思わぬタイミングで別のエネミーが合流することも、十分に考えられるからだ。
(どうする……?)
何か妙案はないかと、レイヴンは視界の端に映るものに注意を注いだ。
その揺らぎとも呼ぶべき、集中力の途切れを目ざとく感じとったライカンスロープは、即座に攻撃の態勢を取っていた。
左右から押しつぶすようにして、エネミーの両腕が迫る。
あんなものに挟まれてしまっては、鋭利な爪によって胴体がずたずたにされてしまうだろう。
後ろに飛んで回避。
一方のライカンスロープも、そのレイヴンの動きは読んでいたようで、両腕の勢いを殺すことなく、そのまま口を大きく開いて突きだしていた。
がしゃん。
閉じられた口元が、すさまじい音を立てていく。
剣でその軌道をずらすも、完全にいなすことはできず、髪の一部が牙に捕らえられてしまっていた。
「クソっ!」
反射的に、頭髪を切って逃れると、レイヴンは距離を取って呼吸を整えた。
(爪だけでも厄介だってのに、当たり前のように牙まで使って来るのかよ……)
だが、その攻防は、結果的に見れば、レイヴンに反撃の糸口を与えることにもなった。
気がついたのだ。
体毛に邪魔されず、こちらのダメージを通せる個所に、レイヴンは狙いを定めることができた。
(そうか、牙!)
口の中までは、いくら異形の存在といえども、びっしりと毛で覆われてはいない。
そこを集中的に攻撃すれば、レイヴンにもやりようはある。
それからは、レイヴンはカウンターに絞ってライカンスロープの技を誘導し、適宜牙に傷をつけていった。
やがて、そのダメージの蓄積は限界を迎え、ついにライカンスロープの牙を破壊することに成功する。
「これでおわりだぁあああ!」
わずかに口の中へと食いこんだ剣に、体中の力を乗せて、その喉元に己が得物を突き立てた。
そのまま横に薙いで、内側からオオカミの顔を破壊していく。
念には念を。
敵の再生能力を危惧し、今しがたできた傷口から、レイヴンはエネミーの頭部を吹き飛ばした。
ぼん!
あまりの勢いに、ライカンスロープの首が天井に達する。
まもなく落下する敵の亡骸を、レイヴンは冷ややかに見つめながら、その場にへなへなと座りこんだ。
ぜえ、はあ……。
荒く、肩で短い呼吸をする。
早鐘のように脈打っていた心臓の鼓動も、深く息を吸っている間に元に戻って来たようだった。
「思ったより、手ごわかったぜ」
しかし、この程度では、まだ命がけの戦いとは言えない。
自分の成長に期待するのであれば、もっと過酷なエネミーと刃を交えなければならないだろう。
ゆえに、レイヴンは再び走りだす。
だが、はっきりと言ってしまえば、やりすぎたのだ。もうここでやめて、速やかに引き返しておくべきだったのである。そうしなかったばっかりに、今よりわずか10分後、レイヴンは自身でも気がつかない間に、罠場と呼ばれる場所に迷いこんでしまっていた。
そこは侵入して来たプレイヤーを、刈り取るための空間である。
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