18 ライカンスロープ
9層にあがる階段を、一段飛ばしで駆けあがったレイヴンは、そのまま、そのフロアを縦横無尽に走りまわっていた。
「邪魔だぁあああ!」
目についたエネミーは、手当たり次第に切り倒す。
その覚悟で疾駆するレイヴンの前を、阻める敵はいない。
ドレイク・ゴブリン・メデューサ……なんでもござれだ。
(もっとだ……。もっと、自分を追いこまなければ、俺は強くなれない!)
ほとんど無意識のうちに、レイヴンは目に飛びこんで来た10層への道を登っていく。
それと同時に、出没するエネミーの種類についても、変化が見られるようになった。
新しく、ライカンスロープが現れるようになったのである。
ライカンスロープ――すなわち狼男は、言葉どおりの半狼半人である。
ダンジョンの中には、そもそも天体の光が届かないため、満月の夜に特別な能力を宿すといったことはないが、代わりに、常にオオカミでもあり、人でもあった。その姿を二足歩行のオオカミと表現すれば、いくらかわかりやすくなるだろう。
持ち味は、俊敏さに特化した身体からくり出される爪と牙である。
腕を交互に振りまわすことができるため、連続攻撃にもなれるそれは厄介と言えるだろう。
「――ッ!」
下から切りあげるようにレイヴンが剣を振るうも、ライカンスロープは悠々とそれを回避する。
かわされたことに気がついたレイヴンは、手首を返し、足をもう一歩踏みこんだ。
刺突。
だが、それすらもライカンスロープは、バックステップで華麗に捌いてみせる。
(こいつ……速いな)
深追いはせず、レイヴンは剣を構えなおして、エネミーを見据えた。
一瞬の沈黙。
直後、今度はこちらの番だとでも言いたげに、ライカンスロープの連続攻撃がはじまった。
右・左――右・右・左。
致命傷を避けつつ、隙を見て反撃するも、相手の体毛をなぞる程度しかあたらず、全くダメージが通らない。
勢いをつけた敵の突進。
横に倒れてかわし、接地する左手に力をいれる。
そうして、追撃をしかけるライカンスロープの正面に向かって、弾みをつけた蹴りを放った。
「おりゃあああ!」
寸前で、ライカンスロープは足を止める。
それを受け、レイヴンはさらに重心を入れ替え、回し蹴りと同時に逆方向へ剣を薙いだ。
ばしん。
ヒットを知らせる衝撃音は響くものの、横目で確認したエネミーの腕に、少しも血は流れていない。
(皮膚を覆う毛が硬すぎるな……。えぐるように剣を立てなきゃ、倒せねえか)
だが、向こうのスピードに合わせながら、そのような攻撃を行うのは、ずいぶんと骨が折れそうだ。
「……」
弱くはない。
その意味で、ライカンスロープは十分に戦う価値のあるエネミーだが、倒すのに時間がかかるだけのような気もして来る。
強敵とのデスマッチという文脈で判断したとき、このエネミーは自分の糧にはならないだろう。
そう判断したレイヴンは、すぐさま撤退していた。
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