16 攻略組からの誘い
明らかに警戒するそぶりを見せるレイヴンに対し、先方は心外だと言いたげに、友好的な表情を作ってみせる。
「驚かせてしまったかな? でも、僕らはダンジョンの制覇を目指すプレイヤー同士、剣はしまってくれないかな?」
わけがわからない。
こんなふうに、別の冒険者が気安く話しかけて来ることなど、今までに一度たりともなかった。
みなが全員、自分のことだけで手いっぱいだったし、ソロで活動している内向的なレイヴンに、わざわざ近寄って来る者もいなかったからである。
ゆえに、レイヴンの不信感は決して薄まらなかったが、相手の人数は自分よりも圧倒的に多い。パーティーを組んでいるのだ。大人しく従っておくことが賢明だろう。
考えなおしたレイヴンは、先方から目線を外すことなく納刀する。
「……」
「それで、うわさの新人っていうのは、君で間違いないのかな? レイヴン君だろ、話は聞いているよ。ソロで8層まで登ったすごいやつがいるってね」
男の言葉はレイヴンを褒めるものだったが、数多の経験を積んだレイヴンにしてみれば、馬鹿にされているようにしか感じられなかった。
(クソ……。こいつ、明らかに俺よりも数段強いくせして、何をふざけたことぬかしているんだ?)
「俺がレイヴンに間違いないが……その『新人』って言葉はやめてくれないか? これでも、俺はここに3年こもっているんだ」
レイヴンが苦しまぎれに抗弁すれば、男の隣で二人のやり取りを見守っていた女が、急に鼻で笑って彼を小ばかにした。
「たったの3年でもう玄人ぶっているってわけ? ばっかじゃないの。あんた、すぐに死ぬよ」
そう話す女の佇まいも、眼前の男ほどではないにしろ、自分よりは格上だと感じさせられる。
正直、それなりの自負があった身としては、女の言葉にむっとしたが、レイヴンは見返すだけで何も言わない。
「何よ? 文句があるってわけ?」
「やめないか、スズラン」
そう言って男が止めに入れば、ようやく女は口を閉じ、代わりに、不満だと主張するようにそっぽを向いた。
「スズランが悪かったね、レイヴン君。新人という物言いが、君の気にさわったのであれば、謹んで訂正しよう。君は十分に立派な冒険者だ。……僕らのことは、攻略組とだけ言えば伝わってくれるかな?」
攻略組。
その名を知らないダンジョン探索者など、この世にはいないだろう。
現在、最も高い層の制覇に挑んでいる、至強のプレイヤーたちのことだ。
いくらソロでの活動がメインとはいえ、レイヴンでも度々その単語は耳にしている。
(こいつらが……最強の……)
驚いたレイヴンが目を見開いて、パーティーの面々を見まわしていく。
道理で別格のオーラをまとっているはずだと、レイヴンは悔しそうに歯噛みした。
「あんたらが、攻略組か……。そんなすげぇ人たちが、いったい俺に何の用だ?」
「一言で言えば勧誘かな。君を僕らのパーティーに誘いたい」
「なっ……」
予想外の発言に、束の間、レイヴンはその場で固まってしまっていた。
やがて正気に戻ったレイヴンは、冷静に状況を分析し、的確な判断をくだす。
(無理……だな)
不本意だが、レイヴンにはその誘いを辞退しなければならない理由が、2つも存在した。
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