15 邂逅
水中から姿を現したウンディーネ。
強力無比な透明化も、頼りとする水がなければ効果が発揮されない。
そぼ降る雨ごときでは、陸地で透明な体を維持することはできないのだ。
手に持つは銛。
身体能力が低いためなのか、エネミーのくせして、ウンディーネの攻撃は武器で行われる。
状況は絶望的とも思われたが、見方を変えれば、ウンディーネを水場から引っ張りだしたとも言えた。
「おいおい、ウンディーネさんよ。お得意の狩場から出て来てどうする?」
にやりと笑ってレイヴンが身構える。
彼の剣はジャイアントトードに奪われたままだが、相手が非力なウンディーネであれば、素手でも十分に戦うことができるだろう。
突き出される銛。
悪天候の視界の中でも、これだけ近ければ、攻撃の軌道がはっきりと見える。
(お前は、ずっと水の中に隠れてなきゃいけなかったんだ。俺の相手は、遠距離からでも舌を伸ばせるジャイアントトードに任せて、お前は補助に徹底するべきだった。それがお前の敗因だぜ)
粘着性の雨によって、レイヴンの動きは緩慢になっていたが、それでも、ウンディーネの身体についていけないほどではない。
銛をつかんで敵の攻撃を捌くと、もう一方の腕で、ウンディーネの顔面を思い切り殴りつけた。
歪な顔が、さらにおかしな方向へと凹んでいく。
「人間の真似なんかしてんじゃねえよ!」
その容貌は、まさしく女。
下半身は魚のそれに近いので、人魚と形容したほうが正確かもしれない。
状況は不利。
そう判断したウンディーネが、巣へと戻ろうとする意思を見せる。
反射的に、そこに飛びかかって尾びれをつかむと、レイヴンは大きく後ろにのけぞって、そのままウンディーネを背中側に放り投げた。
「うりゃぁあああ!」
投げ飛ばされたエネミーが、壁に激突して制止する。
図らずも、ウンディーネを水場から引きはがすことができた。
もはや、水場とエネミーとの間には、レイヴンが立ちはだかっているので、ウンディーネは水中に引き返すことができないのだ。
地利を失ったウンディーネに、もはや勝ち目はない。
戦闘の意思が完全に消失したわけではないらしく、かろうじて銛をレイヴンのほうに向けるが、壁に衝突した衝撃で、雨が一瞬やんでしまっていた。
べとつく雨の消失。
本来の動きに戻ったレイヴンにしてみれば、陸地にあがったウンディーネなど敵ではない。
素早く近づいて頭を殴打すると、相手の怯んだ隙に、その細い喉元をへし折っていた。
「残すはお前たちだけだな」
レイヴンの言葉を理解したわけではないのだろうが、ジャイアントトードの1匹は、奪っていた彼の剣を飲みこんでしまう。
非力なウンディーネであればまだしも、ジャイアントトードの体を素手で破壊するのは、さすがに至難の業だ。
こうなってしまえば、お前に勝機はないだろうとでも言いたげに、ジャイアントトードは喉を鳴らして余裕を見せるが、レイヴンも抜かりはなかった。
まだ、ウンディーネの死体はダンジョンに回収されていない。
つまり、その銛を使うことは、もう少しの間だけ可能ということである。
肉薄。
ウンディーネの腕から新たな得物をひったくったレイヴンが、ジャイアントトードへ向かって、一瞬で距離を詰める。
相手には理解する時間もなかっただろう。
接近と同時に、レイヴンはジャイアントトードの腹部に、勢いよく銛を突き立てていた。
そのまま力任せに貫くと、腕をねじこんで、体内から自身の愛剣を回収する。
「おい、どこに行くつもりだよ……」
仲間を見捨て、自分だけ逃げようとする最後の個体に向かってつぶやくと、レイヴンは後ろからその背中を両断していた。
「せやぁあああ!」
飛び散る体液。
不快さを隠すこともなく、頬に跳ねた血を手荒く拭うと、レイヴンはようやくそこで大きく息を吐いた。
(少し、危なかったな……)
雑魚としか見ていなかったジャイアントトードに、あそこまで戦術的な動きをする力があるとは、完全に予想外だった。
それこそ、もっとほかの種類のエネミーたちが、一丸となって襲いかかって来ていたら、自分もどうなっていたかはわからない。
(だが、もう油断はない。次からは大丈夫だ)
今なら、次の層にも安心して向かえるだろう。
肩の力を抜いたレイヴンが歩きだそうとしたとき、後ろから彼に声をかける者があった。
「ああ、いたいた。君だろ? うわさの新人君っていうのは」
肝を冷やしたレイヴンは、思わず、剣を抜きながら振り返っていた。
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