114 130体のライカンスロープ。
ユウトを無事に取り返せたとはいえ、安心してはいられない。
ヴァリーラの推理はあたっていたからだ。
瞬く間に、周囲にはおびただしい数のライカンスロープが、これでもかと出現していた。その量は、10や20では収まらないだろう。一面がエネミーで溢れかえっている。
「ヴァリーラ、指示を!」
戦いながらの思案は、みな決して得意ではない。
自分らでの判断は中止し、すべての指揮を彼女に一任する。
知的な負担をかけることにはなるが、この状況もヴァリーラが想像していた範囲内だろうと、リョウスケは即断したのだった。
端的な返事。
次いで、ヴァリーラが彼女なりに声を張りあげて告げる。
「一旦、繭包風は取りやめ、リョウスケさんは姉とともに、ハーメルンの相手に徹してください! レイヴンは単独で遊撃。残りのメンバーは、私を中心に円陣を組んで、ライカンスロープを各個撃破していきます!」
雑魚を相手にするうえで、肝になるのは間違いなくユウトの遺裂だろう。
雷場薙が得意としているのは敵の足止め、あるいは、相手の動きを阻害することだが、スタンの効果はそれだけに留まらない。真骨頂は、他者への感電だ。
エレクトリックフィールド。
麻痺を付与されたエネミーが密集している場合、そこには持続的な雷撃が発生するようになる。
当然、範囲内にいるライカンスロープは、自身がスタンしているかどうかに関係なく、継続的なダメージを追うことになるのだ。
これまでは、あまり活かされる場面を与えられなかった効果だが、今の状況にはおあつらえ向きのものと言えた。
ただし、この雷撃にエネミーをスタンさせる機能はない。その点だけには注意が必要だろう。
加えて、遺裂そのものに、まだ耐性をつけていないヴァリーラには、翠葉杖を使うような力がもう残ってはいない。発動できて、あと数度。とてもではないが、このライカンスロープの集団を、しのぎきるほどの量ではなかった。
ユウトとレイヴンとの遺裂だけが頼りだ。
スタンしたそばから、ヴァリーラがライカンスロープの眼球に狙いを定めて、杖の先でエネミーの視力を奪っていく。
それは命を絶つほどの攻撃ではないため、とどめはアヤネにお願いすることになるが、分業としては十分な働きだろう。
エネミーの体に隠れてしまって、すっかりと姿が消えたレイヴンのことが、少しだけ気がかりだったが、それも天井まで届く勢いで放出される、焔煌刀の炎を見るに、無用な心配だったらしい。
もともと、14層以下のエネミーは敵じゃないのだ。どれだけライカンスロープが増えたところで、遺裂の相手にはならないということなのだろう。
段々と数を減らしていくエネミーの群れ。
ヴァリーラも安堵するように、ほっと息を吐いたが、戦況は決して好転したわけではない。
贔屓目に判断しても、月光を消しただけ。
つまりは、ふりだしに戻っただけだ。
言わずもがな、実際には、アヤネの奇力器を消費して獲得したリスタートなのだ。当初よりも悪化したという評価のほうが、事実を正確に反映していた。
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