10 三年の月日
しばらくの間、レイヴンは何の反応も示さなかった。
虚ろな目で、何の変哲もない地面の一部を、ただ意味もなく眺めていただけである。
やがて発した言葉は、端的にゴールドマンを非難するものであった。
「ずいぶんと手際がいいんですね。まるで、姉ちゃんが死ぬのを待っていたみたいだ」
レイヴンの言葉に、ゴールドマンは眉を寄せるだけで、何も応じなかった。
それは腹立たしく思っているとも、自責の念を感じているとも判別がつかない。
無理もないだろう。
エルヴァの病状は、客観的に見ても手の尽くしようがない状態だった。カラサ病には、有効な治療法がないという点を抜きにしても、エルヴァの命は風前の灯だったのである。
しかし、今のレイヴンを、そのように説き伏せたところで、余計な溝が深まるだけであることは明白だった。
それがわかっているからこそ、ゴールドマンは何も言い返さないのだ。
(……)
両親を失ったときとは比べ物にならいほど、大きくてどす黒い失望感が、レイヴンの心を支配していく。
怒り。
悲しみ。
孤独と憮然。
そして、明確には憎悪の対象を見つけられない、やるせなさばかりが、頭の中を行ったり来たりしている。
(もう……やめてしまおう)
親しい間柄を作るたびに、こんなに広々とした穴が、胸にできてしまうのであれば、もう打ち解けあうような関係はいらない。自分は、このさっきずっと一人で生きていく。
やがて、レイヴンが長年過ごした家の外には、ゴールドマンが話していたように、非常に質素な一つの墓が立てられていた。
名前はない。
それどころか、目印となる木の下には、エルヴァと呼べるものが、何一つ埋められてはいないだろう。本当のエルヴァは、ソバータウンのどこかにいるはずだ。
それでも、その素朴な十字架が、レイヴンにとっては確かに姉の墓だった。
その木の前に座ったレイヴンが、両手を合わせながら誓う。
(大丈夫だよ、姉ちゃん……。カラサは俺の命に代えても、必ず豊かにしてみせるから。安心して眠っていてくれ)
悲壮な決意を抱いたレイヴンの瞳が、きらりと鋭く輝いた。
そして、三年の月日が流れ、レイヴンは自力で8層まで登れるようになっていた。
人類の最高到達地点は17層。攻略組と呼ばれるパーティーの、華々しい功績である。
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次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ




