第13話 他国の乙女ゲーム・前
15の誕生日の前日、一年ぶりに、祖母と従兄が家にやってきた。
お隣の帝国の皇太后と、第二皇子でもあるけど。
お祖母様からは抱擁され、『少し見ないうちに、キレイになって』とウルウルされ、恒例のプレゼントの山に沈められた。
従兄はふっと微笑み…
「久しぶりだな、ミルドレッド。…背が伸びたな」
うーん、ここは嘘でも、『美しくなった』という場面では。
まぁ、目の前の容姿端麗、色気全開な、傾国の皇子様に言われるのも困るか。
「それはこちらのセリフです。クラウス殿下も、もうお兄様方に並ばれるのでは…」
背の高さも、イケメン度も。
殿下はよせ、と前置きして、帝国の第二皇子はふっと笑った。
「あの二人には、まだ及ばないだろうよ」
伏せた目に黒髪がかかり、苦笑を浮かべる口元も実にエ…艶っぽい。
我が従兄ながら、年頃の女性どころか、全年齢の女性の敵だと思う。
「お久しぶりです、姫。相変わらずお美しい…」
うっとりとした表情で、後ろから進み出て来たのは、帝国の重臣のご子息だ。
こちらも美形度が年々増しているが、クラウスよりだいぶ柔らかい印象だ。
醸し出す雰囲気がキラキラしてて、夢の国から来た貴公子という感じだ。
(髪がチョコレート色だから、お菓子の国かもしれないわね)
恐ろしい事に、彼は私の婚約者候補らしい。
何故そうなったのか、お母様に尋ねたところ、
「ミルドレッドへのお申し込みは、捌ききれない程来てるのよ」
と軽く言われた。
「最初はまだ子供です、と全部断ったのだけど、『候補』としてでもいいからって縋られて、幾つか残ってるのよ」
口元に憂いを浮かべたお母様は、女神のように美しかった。
しかしお母様、そんな倉庫の売れ残りのように言ってよい相手では…
(いや、相手によってはいいのか? 元お母様の家臣とか…)
「勝手に進められても面倒でしょ? 特に帝国相手は。だから、とりあえず候補として認めてあげたの」
「なるほど…」
「単なる『候補』なんだから、ミルドレッドは何も気にしなくていいのよ?」
ニコリと笑ったお母様が、少し怖かった。
女神は怒らせてはいけないのだ。
(前の世界では、女神を怒らせた男は動物にされたり、矢で射られたりしてたっけ…)
帝国をおん出て来たお母様は、昔も今も、それほど、彼の国にこだわりはないらしい。
でもまだ、お祖父様と和解は『ない』らしい。
クラウスに聞いた話では今回も、娘と孫娘に会いに行く祖母を見る目が血走っていたとのことだ。
(正直、反動が怖いので、いい加減、折り合いをつけてほしい)
あちらが何か事を起こしても、私の身の回りはお兄様ズにガチで守られている(厳選セキュリティと、超強力なお守りを幾つか持たされている)が、下手すれば国家間の問題になり多方面が迷惑するだろう。
私とクラウスは、ソファに落ち着いた。
婚約者候補は、クラウスの侍従として来たので、少し後ろに控えている。
お茶とお菓子をセッティングしたメイドたちが下がると、クラウスがおもむろに口を開いた。
「ミルドレッドは今年、この国の貴族学園に入学するんだろう?」
「ですね」
とうとう、アレクシア様が忌避していた『乙女ゲーム』が始まるわけだ。
「クラウスは、帝国の皇立学院を、もう卒業したんだよね?」
顔だけでなく頭脳も秀でた従兄は、わずか一年ですべての単位を取ってしまったらしい。
「あぁ、お前が来るならいても良かったんだが…」
「無理ですね」
私はきっぱり否定する。
誘いはあったが、面倒な事が多すぎる。
(大陸一歴史ある学院に興味はあったし、帝国に訪問するいい機会ではあったんだが…)
「何が起こるか分からなすぎるわ…」
「まぁなぁ…」
クラウスは否定しなかった。
「ロータスの学園もそこそこ有名だし、お友達も出来たし、通うのを楽しみにしてるの」
「そうか、良かったな」
クラウスは暖かく微笑んでいたが、何か引っかかるものを感じた。
面倒なお兄様を二人持つ、私のカンである。
厄介事は、まず外れない(哀しい…)。
「クラウス…まさか」
「コーダに留学するつもりだったんだが、アチラで何かトラブルが起こったらしい」
帝国を挟んだ東側にあるコーダ…コーディアル王国は、鉱物資源がよく採れる関係で加工モノに秀でている。
どちらかといえば魔術よりなウチとは、対照的な国だ。
王立学校も工科系で有名だ。
「トラブル?」
「コーダの跡取り王子が悪い女に引っ掛かったらしく、学校が乱れてるそうだ」
「え、えぇぇー…!」
頭が一瞬フリーズした。
なんだそのワイドショーのような話は…
「…って、ちょっと待って。学校が乱れてるって、その『悪い女』って生徒なの?」
ガチで固い学校だと聞いていたけど…
「あそこは、半分は普通の貴族学校だ。そっちに平民上がりの貴族令嬢が入ってきて、王太子のいる上級工学科までかき乱したらしい」
「す、凄いね」
素直に驚いたが、『平民上がりの貴族令嬢』というワードが気になった。
「平民上がりって…?」
クラウスの視線を受け取って、アロイスが口を開いた。
「まだ、詳しい情報は入っていませんが、入学間際に下位貴族に引き取られた娘らしいです。作法も礼儀も身についておらず、階級を軽んじることで周囲の貴族子弟に取り入り、そこから王太子に繋がったと」
あー何か、デジャブが…。
(『それって何の乙女ゲーム?』再びだわー…)
「…つまり、王太子殿下も?」
「あぁ、第一王子のコンラート殿下だ。俺も一度会った事があるんだが、いかにもあの国らしいお堅い男だったんだが、それが災いしたのかもなぁ。その娘に入れ込んで、あろうことか婚約者を捨てたらしい」
あっちゃー…
「ご婚約者は、コーダ国王の片腕と呼ばれてる公爵閣下の令嬢で、今、あの国の宮廷は上を下への大騒ぎになっているそうです」
「それは、なるよね…」
私は力なく相槌を打った。
…後編は今夜中には何とかー




