表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女はこれ以上美形男子はいらない  作者: チョコころね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/14

第12話 『イザベルと白い花』



「私がイジメる事になる男爵令嬢ですか?」

「はい、お名前が分かるなら、最初から避ける事ができるかと思いまして」


 昼下がりのテラス。

 爽やかな風は、少し離れた場所にある庭園の、花の香りを運んできた。


 珍しい果実がありますので是非、と誘いを受けてやってきたハンプシャー公爵邸。

 前世のパイナップルに似た果物を使ったコンポートに舌鼓を打った後、向かい合ったアレクシア嬢に、出来るだけさりげなく、私は話しかけていた。


 アレクシア嬢は憂いの表情を浮かべたが、意外に穏やかな様子で、ふーっと息を吐くと口を開いた。


「私もね、調べたのですよ、色々…」

「あ、やっぱり…」


(そりゃ、自分を破滅に導く相手は気になるよね)


「その…『攻略対象者』?の、国内にいる貴族男性はすぐに見つかりました」


 言いづらそうにアレクシア嬢はつぶやく。


「以前にも、お話したかと思いますが…」


 彼女が美しい指を一つ一つ折りながら、上げられた名は


 マクシミリアン王太子殿下

 リビングストン公爵子息 ナイジェル

 フェアバンクス公爵子息 ローリー

 ルーリエ侯爵子息 ライナス

 ドノヴァン侯爵子息 エリク


(…錚々(そうそう)たるメンバーだわー)


「彼らは皆、存在していました。だからこそ、絶望が募ったのですが…」


(夢が現実になる可能性が、跳ね上がったってことだもんなー)


「彼らに愛される令嬢、『ヒロイン』のイザベル・バイロン男爵令嬢は…バイロン男爵家に令嬢はいらっしゃいませんでした」

「え?」


 アレクシア嬢はこちらを見て頷いた。


「現在バイロン男爵家には、ご子息がお一人のみで、他にお子様はいないのです」

「そうなんですか…」

「はい。男爵には奥様がいらっしゃいますが、これから女児が生まれたとしても、間に合いません」

「ですね」

「よって、可能性と致しましては、貴族学園の始まる4年後までにバイロン男爵が、私共と同い年の養女を取られるということでしょう」

「養女…」


 なるほど、それしかないか。


「…ですが、そうなると全く分かりません。念のため、バイロン男爵の周囲に、イザベルという女の子がいないかも調べたのですが」


 該当者はいなかったとのことだ。

 あの花屋の子。名前聞いとけば良かったな。


(そんな余裕は全くない出会いだったけど…)


 あの子は、花屋を目立たせたいと言っていた。


『貴族や王様が買いに来るようにしたいのよ』


 王様はともかく、バイロン男爵が珍しい花を探して、あの花屋に現れるようにしたいのだろうか?

 あの子は明らかに、自分を『ヒロイン』だと知っていた。

 おそらくゲームの内容も頭に入っていて、『花屋を目立たせる』のは、それに必要な行為なのだろう。


「考えても仕方ありませんね…」


 こちらの考えていることを読んだように、アレクシア嬢がつぶやいた。


「そうですね」


 相槌を打ちながら、そっと彼女を見る。


 キラキラした金髪巻き毛、艶々したバラ色の頬。

 このところ、アレクシア嬢は落ち着いている。

 何でも、彼女のセルフネガティブキャンペーンが功を奏したのかは知らないが、王太子の婚約者候補から外れることが出来たらしい。

 代わりに弟王子との話があるとかないとか。


「…私だけでなく、婚約者候補の皆さまが一時保留を言い渡されたのです」


 外向きには哀しげな発言だが、抑えきれない微笑みが魅力的だ。


「他国の姫君とのご縁談でも、浮上したのかもしれません」


 語尾に『(ハート)』が付きそうな、アレクシア嬢。


「おめでたいことかもしれませんね」

「えぇ!」


 食いつき気味の賛同だー。


(この場合、乙女ゲーム的にはどうなるだろう?)


 他国の姫?という新たな婚約者が現れ、ヒロインをイジメるのだろうか?

 目の前の友人が、『悪役令嬢』にならないで済むなら、その方が無論いいが。

 ただ…

 

(あの花屋の子が、黙ってイジメられるタイプとは思えないのよねー)


 うーん。


「このように、異国の物が、頻繁に出回るようになったのも、国が開かれていく前触れかもしれませんね」


 しみじみ、つぶやく公爵令嬢。

 テーブルの上にさりげなく置かれている、小さな花も南国的だ。


(プルメリアだっけ? 一時期向こう側で流行ってたなー)


 珍しい花…というとやはり思い出すのはあの子だが、再び会いに行く気力がわかない。


「次代の王妃様が、他国の方なら…」


 まだ決まってません、アレクシア様。


異国的(エキゾチック)なドレスが、流行るかもしれませんね…」


 少しうっとりした様子の公爵令嬢を横目に見ながら、


(あの子が『ヒロイン』だったとして、私が出来ることがある訳でもないし)


 …とあっさり投げた私は、きっかり3年と半年後に()()ヒロインとの再会を果たすことになる。





――――――✦.*·̩͙―――――――





『イザベルと白い花 ~宝玉(プリズム)の姫君とプルメリアの夢』


 …という乙女ゲームは、スマホのみの配信だったが、基本的に無料でクリアできる手軽さが受けて、10代からOLまでの幅広い年齢層に人気があった。



‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦



 主人公は、下町の花屋で暮らすイザベル。

 容姿の可愛いらしさだけでなく、優しく頭もいいと評判の娘だった。


 王妃の侍女である妻からの願いで、献上する珍しい花を求めて来たバイロン男爵と、その子息は彼女と出会う。

 財布を盗られた二人を、持ち前の機転と、下町の人脈で助けたイザベルは、感謝され彼らの屋敷に招かれる。


 イザベルを迎えたバイロン男爵の妻ケイトは、イザベルが生き別れになった自分の姉に似ていることに驚き、彼女に素性を尋ねる。

 孤児だったイザベルが花屋に引き取られる際、孤児院から唯一持ってきたブローチが証拠となり、イザベルは男爵家で引き取られることになった。


 その後、イザベルは貴族学園に入学し、王太子マクシミリアンを始め、優秀な教師や才能ある貴族の子弟達と出会い、己の出生の秘密を解き明かしていく…。



‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦




(まぁ、アタシはもう答えを知ってるんだけどね!)


 下町の花屋で、少女は笑う。


 先日、珍しい花を求めて貴族の従者がやってきた。

 目当てがあると言ったら、次は主人(あるじ)を連れて来るという話になった。


 もう少しだ――と、彼女は思った。

 もう少しで、こんな生活から解放される。


(高貴な生まれの(イザベル)に、下町なんて似合わないけど、初期設定なんだから仕方ない)


 いきなり証拠品(ブローチ)を持って、尋ねて行くという手も考えたが、ゲームの手順通り行かないと、ストーリーがどう転がるか分からないので止めた。


 それに、男爵の娘として学園に通い、美形揃いの攻略対象者たちと、恋をするという夢があった。

 前世で夢中になった、彼らのキャラ絵を思い出し、こみあげる笑いを彼女は抑えきれなかった。


(フフフ、待っててねみんな! 全員攻略してあげるからねー!)


 バラ色に輝く未来しか見えない彼女は、知らない。


 学園に『王太子マクシミリアン』の婚約者はおらず、彼女を引き立てる『悪役令嬢』がいなくなっていることを。

 その代りに、『ミルドレッド』という、超特大のバグがいることを。


 そして…選択肢によっては、彼女の出生の秘密すら変わってしまうルートがあるという事を、課金しなかった彼女は全く知らなかった。 



…ガンバレー…!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ