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scarecrow croon 外伝 -かくれんぼ-

作者: 星観

登場人物


・エリシス(Elisys Erenberc)

吸血鬼。今回の物語の語り手。


・少年(boy)

村の子供。語り手のお話に登場する今回の主人公。


・ティッキー(Ticky Kharim)

若い魔法使いの女の子。本伝の方では主人公。


・シア(Cia Raymintos)

幼い魔法使いの女の子。魔道学舎の生徒。

「かくれんぼって知ってる?」

エリシスがふとそんな事を言い出した。

「…いや、なに?急に」

若き魔法使い・ティッキーは怪訝な表情を可能な限り表した。この吸血鬼が突然何か言い出す事は大概ろくな事じゃない。

「知ってます。鬼役が目を閉じて10秒数える、子供役はその間に鬼に見つからない様に何処かに隠れる、10秒経ったら鬼が子供を探す、制限時間以内に見つからなかった子供役が勝ちで、全員見つかったら鬼役の勝ち」

隣で本を読んでいた幼い魔法使い・シアがご丁寧に反応し、ルールを確認する。

「そう、それそれ♪」

エリシスは満面の笑みを浮かべてシアの頭を撫でようと手を伸ばす。が、さも当然の様に躱された。

「このかくれんぼって実は隠れる方が鬼役って知ってた?」

小さな魔法使いのつれない態度にはそれほど気に掛けず、エリシスは語り始める。

「へぇ、そうなの?」

「嘘よ」

どうやらこの吸血鬼は今日は暇らしい。

「……んで?どんな話題なの、コレ」

面倒くさそうにティッキーは聞く。多分この嘘は適当な事を言って自分の関心を引き、逃がさないのが目的だったのだろう。

反応してしまった時点で自分の負けだ。

「このかくれんぼって本当は鬼役も子供役も無いのよ、遊戯としてのルールが出来たのは実は近代になってからなの。10数えたりとかね」

聞き返してしまったからには聞かない訳にはいかない、ティッキーは大人しく一度外そうとした席に着く。

冒険者ギルドのメンバーの溜まり場と化した宿の食堂に、魔法使い2人と吸血鬼が1人。もっと雰囲気の出る話題は無いのだろうか。

「かくれんぼは元々帝国領の辺境の、とある小さな村が発祥なの」

エリシスは語り出した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


その村では昔から子供が1度だけ掛かると言われる奇病があった。

子供が大切にしていた『何か』を3つ、忘れてしまうというものだ。

『何か』と言うのは子供によるらしく、例えばお気に入りの玩具や、楽しみ取っておいた食べ物。可愛い衣装にお小遣いを貯めたお財布だったりと、兎に角なんでもあるらしい。

ある年、1人の少年が奇病に掛かった。

時の村長が少年に訊ねた。「君の大切な物はなんだい?」

少年は自分の好きなものを思い付く限り答えた。

好物の食べ物におもちゃの剣、少年は答えた好きな物の居場所も全て答えていく。

村長は首を傾げた、この子は何を忘れたのだろう。

あれこれ質問を繰り返すが、その少年は聞かれた物を全部覚えていた。

「ぼくは病気なの?」

何か忘れてる、そう言い出したはずの少年ですら、最後にはその事実を疑った。

「うーむ、気のせいだったのかもなぁ」

村長は半ば呆れながら、そう答えた。

「ぼく、遊んでくる!」

それだけ言うと少年は村の広場に駆け出した。

小さな背中が遠くへ霞んでいくのを見送り、村長は家路につこうとした。

「…?」

違和感を覚えた。「あの子は、誰の子供だ?」

今しがた別れた少年の家族を思い出そうとする。

然し、どうしても思い出せない。

(隣村から来たのかな?)

若しかしたらこの村に友達が居るのかもしれない。村長は自身が納得出来る答えを見つけ、それ以上考える事はなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「…なんだか何処にでも有りそうな物語なんだけど」

ティッキーは退屈そうに吸血鬼の語る物語を聞く。

「その少年は何を忘れたの?」

対してシアは、エリシスの語りに興味を持ち出した様だ。普段読書をする人間は物事の関心の向き方が違うのかもしれない。

「その子供はね、本当は奇病に掛かっていたの」

エリシスは再び語り出す。いつの頃か、外には雨が降り出していた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


村長と別れ広場に向かったものの、少年にはモヤモヤした気持ちがあった。

「絶対なんか変だ、何か忘れてる気がする」

その時、奇病に掛かってしまった時の治療法を思い出した。

「そうだ、探しに行こう」

村に古くから伝わる奇病、その治し方は忘れた物を自分の力で見つける事だった。

やがて広場に着いた少年は、自分とそう歳の変わらない数名の子供達を見つけ、声を掛けていく。

「ぼく、病気になっちゃったんだ。良かったら一緒に探してくれない?」

「いいよ!一緒に探そう」

もしなにか見つけたら、思い出すかもしれない。

かくして、子供達による思い出捜索隊が結成された。

子供達は何かが隠れてそうな、怪しい所を隈無く調べた。

役場の机の下、広場の花壇の中、畑の道具置き場、防風林の木々の中…。

思い付く限り気になる場所を探し尽くしたが、然し何も出てこない。

「何も出てこない、本当に病気なの?」

子供達が疑い出す、正直自分でも自信は無かった。

日が沈み出し、辺りが暗くなり始めた。

「なんかモヤモヤするんだ、本当に何か忘れてる気がする」

「うーん…」

「もう遅くなるよ?どうする?」

「ぼくは…まだ探す」

思い出さないといけない気がした。今日思い出さないとダメな気がした。

「よし!それじゃ大人にも手伝ってもらおうよ」

「うん…、ぼく、大人にも頼んでくる」

「おれ達はもう少し探そうぜ!」

普段は夜遅くまで外で遊んでいると怒られる子供達も、大人と一緒なら問題無い。

半ばお祭り気分なのか、そのまま散り散りに駆けだした子供達。

「病気みたいなんだ、一緒に探して!」

少年は見掛けた大人全員に声を掛けた。

いつしか村中の人間全員が少年の忘れた物を探す様になった。

「でもコレって、もしかしたらダメなんじゃ?だっておれ達が見つけたら自分の力って言えなくない?」

「人を動かすのもまた、その個人の力なんだよ」

子供の一人が大人達とそんな会話をしていた。世話好きな村人達は少年の為に奔走していく。

しかし…。


「ダメだ…見つからないよ」

「もう夜も更けてくる、また明日探そう」

大人達の提案で今日の捜索は打ち切りとなった。

「君も今日はもう帰るといい。ええと…」

そこまで言いかけて、村人は困惑した。

「君の名前は…なんだっけ?」

「ええっと…あれ?」

名前が出てこない、疲れたから?

「…えっと、それじゃご両親は…?」

「え…」

ご両親?お父さんと、お母さんの事?

「あれ…」

「まさか…君が忘れたものって……」

「まって…そもそもぼくのお家は何処…」

少年は村人全員に聞いて回った。然し誰も教えてくれなかった

というより、誰も知らなかった。

「そんな…ぼくの『お家』は?『お父さんとお母さんは』?ぼくの『名前』は!?」

村人は答えない、答えられなかった。

「村長…これって」

「…奇病は、自分の力で見つけねば治らぬ、故に儂らには……」

答えられない、という事なのだろうか。

「そんな…っ」

少年は青ざめた顔で村の奥へと駆け出した。

呼び止めたかったが、誰一人として少年の名前が分からなかった。


その日以来、少年の姿を見た者は居なかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「いやいや、なんかおかしくない?だって忘れるのは奇病に掛かった子供なんでしょ?」

ティッキーは思った疑問を素直に向けた。

「ひょっとして…少年が村人全員に声を掛けたから?」

シアが訊ねる。

「ご明察〜。この奇病…というよりもはや呪いよね。コレの治し方はあくまで自分が答えを見つけないといけないの」

エリシスは続ける。

「この子供は『家』『家族』『名前』を誰にも教わらず、自分で見つけないとならなかった。でもその村に暮らす全ての人がその子に協力してしまった結果、その子の事を何一つ教えてあげられなくなった」

そこまで言うとエリシスは立ち上がる。

「フィー、ココアが飲みたいな〜」

厨房に篭っている宿の主に向け声を上げた。マイペースな吸血鬼だ。

「なんか…後味悪い話だね」

「コレがかくれんぼの起源となったお話らしいわ。どう?面白かった?」

「まぁ、興味深い話だとは思ったけど…」

「でもなんで急にそんな話を?」

シアの発した疑問に対し、エリシスは答える。


「いや、何となく思い出したってだけなんだけどね。

でも、この話って鬼役が可哀想よね。誰の助けも得られず、一人で逃げた子供役を全部探さないといけないのだから。

…一人って、不安がいっぱいで怖いのよ?」

ホラーとしてのかくれんぼって、登場人物が恐怖となる何かを見つけたり、逆に見つけられたりと、何かしらの発見をするのがセオリーなのかなと思って、じゃあもし何も見つけられなかったらどうなんだろう、今回はそんなイメージのお話。


内容を振り返ってみても語り手側のキャラクター達は本伝のティッキー達ではなくても良いのでは、とも思えるけど、まぁ折角書き始めた小説ですし、わざわざこの短編のみのキャラクターを作らなくてもいいか、っと考えこの3人に語らせました(まあ現時点ではまだティッキーしか出てきていないのですが…)。

どんな形であれ、この文章を読んで下さった方々の心に、喉の中で地味に難儀する魚の骨の如く、何か引っかかってもらえたら幸いです。

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