研究室と道具
「タカハル様、研究室が完成しました」
「本当か! サルトロ、かなり早いな。頼んでから三日しか経ってないのに」
「いえ、転生者様のためですので」
さすが転生者特権。社会的地位がめちゃくちゃ高いな。知識無双がしやすい異世界転生、ありがてえ。これ異世界転生? 異世界転移? 異世界召喚? ……どれでもいいや。
――――早速見にきてみた。
「憧れの研究室! 結構広いな俺の城の部屋のう四分の三くらいか。道具はどれどれ、ビーカーに大小の壺に……何これ?」
小さな四角いレンガの容器の様なものの中に赤い石があり、その上に金網がある。金網は取り外しできそうなである。あと一つ粘土からできていそうな小さな桶がありその中に今度は青い石が入っている。
「こちらの赤い石が入っているのは加熱の魔道具と青い石が入っているのが冷却の魔道具です。使い方は魔力を送ると発動します。調整は魔力の送る量を変えることでできます」
サティエルが言った。冷却器やバーナーあたりの代わりになるな。
「なるほど……ここにあるのはそういう研究する人、いわゆる錬金術師の使う様なものを集めたのか?」
「はい、錬金術師たちの意見を聞いて使うものをほとんど網羅しました」
サルトロが言った。
多くある壺をちゃんと見ていくとヤカンについている口がついた細長い壺や大きいのに二本ついたものがあったりする。
「せっかく集めてもらったのにこんなこと言うのは酷いかもしれないが……足りない。と、言うよりかは多分この世界に無いんだろう」
そう言うとサティエルとサルトロが罰の悪い表情をする。
「でもある程度のガラス職人なら作れるだろう。透明度の高いガラスはあるし、グラスやビーカーはある。てかなんでフラスコやら試験管がないのにビーカーはあるんだ?」
「確か数十年前に流れ転生者が料理用に欲しいと言って作ったのが初めですね」
サルトロが言った。
「あー、確かに料理にビーカーは使ってもフラスコに試験管は使わねーか。アゲートがあの時料理かって聞いたのは料理用のイメージがあったからか」
「はい! そう言うわけです!」
「今では錬金術用としても一般化していますけどね」
「サルトロさん〜、言わなくても良かったのに。これじゃあタカハル様からの自分のイメージが……」
安心しろ、もうおバカさんイメージだ。武術は詳しいみたいだけど。
「ともかく、夕方ごろにはガラス職人を呼べばよろしいですか?」
サティエルが言った。
「うん、頼む。ああ、その時は魔道具の開発者(?)も一緒に呼べるか?」
「? かしこまりました」
………………
そんなわけで夕方だ、魔法の勉強に護身術授業、そして今日は作ってもらう物の資料も作ったので忙しかった。
「タカハル様、呼んでいた方が来ました」
茶髪の眼鏡をかけた男性と俺と同じくらいの身長だが体格は大きくヒゲを生やした肌の濃いおじさんが来た。ここでは肌の白い人しか見ていない、南の方から来た人なのか?
「ドワーフが珍しいか?」
「えっと、俺の世界にはいなかったから。ジロジロと見て失礼だったな」
ドワーフさんだったのか、他の亜人みたいなのもいたりするのか……?
てかドワーフについても知らない。サティエルに視線で合図を送る。解説してくれ、そんな合図打ち合わせなんてしたことないけど。
「ドワーフというのは職人の多い種族です。信仰的によっての戦争には参加していません。
ですが商売的にはきちんと対価を払えば快く武器などの商品を作ってもらえます。また職人気質からか、今まで一度もスパイが摘発されたことがないため国家から擁護されています」
サティエルが言ってくれた。察しが良すぎる、さすが転生者護衛。
ドワーフのイメージはもう完全にイメージ通りだ。
「そういうわけだ。戦争なんか知らんが仕事をくれるならお客様だ、ガラス職人として精一杯働かせてもらおうじゃないか」
「そういうことならもう話に入ろうか。ガラス職人のあなたに作ってもらいたいのが……こちら。」
一枚の紙を渡した。そこには試験管、三角フラスコ、丸底フラスコが大きさ示しながら書かれている。
「ふむ、これは簡単だな。いくつ作ればいい?」
「とりあえず細長い試験管ってやつが十個、他がそれぞれ五つほしい。だけどまだ作ってほしいのがある。これはちょっと難しいかもしれない」
もう一枚紙を見せた。そこには枝付きフラスコが描かれている。
「がははは、こんなのでちょっと難しい? 職人を甘く見過ぎだな!」
「そいつは頼もしい! それは三つほしい。あとは魔道具開発の人と一緒に作ってもらいたいのがこれ」
最後の一枚の紙を見せた。そこには二つ絵があった。
「まず上のがリービッヒ冷却器って言うやつだ。これはさっきの枝付きフラスコに繋げて使うものだ。ガラスの管にさらにガラスの容器があってその容器には上と下の管がついててそれを下から上に水を通すんだ。下から上だ、魔道具で水の移動させるようにしてほしい。無理だったら別の方法があるが……」
「できると思います、任せてください!」
「わしもできるな」
「最後にこれ、作ってもらう試験管三つ追加だ。その三つはこの人に渡してくれ。で、それでこいつを作ってくれ。まず試験管に着色した水銀を入れる。それは温度で体積が目に見えるほど変わる」
「はい、わかります」
「それをギリギリ凍ったタイミングの水で零度、沸騰した水で百度として百分割してくれ。難しそうだったら二十分割くらいでもいいが」
「やってみます。これは温度を測れるという道具ですね?」
「ああそうだ、魔道具とかじゃないけどな」
「いえ、これは多くの研究に画期的な革命を起こしますよ!」
「間違いないはずだ。ああ、あとマイナスの温度も書いといてくれ。書き方はわかるか?」
「はい! 水が沸騰するところが百度、凍るところが零度でそれ以下がマイナスになるのですね」
「物分かりが良くて助かる。じゃあ頼んだぞ」
「はい!」
「任せろ! 三日で終わる」
「心強い。また頼むかもしれないから、その時は頼むな」
………………
翌日の予定暇な時、サティエルに話しかける。
「魔道具について詳しく教えてくれ」
「魔道具……ですか」
「ああ、ただの興味本位だが使えるかもしれないと思ってな」
「わかりました。魔道具は魔法の効果を生み出す道具です。利点としては魔力を与えれば技術がなくても使えることですね。
研究室の加熱、冷却のような効果から武器に付与する耐久力をあげたり自動修復などの一度多くの魔力を込めて自動で発動するものもございます。製造方法としては一定量の特殊な加工をした魔石を潰してでも入れると使えます。杖も一種の魔道具ですね」
「なるほど。それにしても耐久力アップに自動修復……」
考えるだけで笑みがこぼれてくる。
さあ、もうすぐ楽しい楽しい化学タイムだ。
農業のうえで無機肥料を使うつもりだからな、魔法がどれだけ化学を補助できるか。スーパー万能な触媒になったりしねえかなー?
「なあ、錬金術っていうのはどこまで進んでいるんだ?」
「えっと、確か最近では銅と亜鉛で見た目だけ金っぽいのが作れたとか……すみません、あまり詳しくないので」
「ああ、それは黄銅だろうな。真鍮なんて呼ばれたりもする。加工がしやすい合金、俺のとこだと楽器なんかに使われたりしたな」
さて、この世界の錬金術のスーパースターになり、この世界初の化学者になるんだ。
できれば錬金術は錬金術で残したい。
だってほら、なんかかっこいいじゃん。
「俺が錬金術の世界を一段階どころか何十段階も上げてやる。化学の始まりだ!」
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