着陸
「もうそろそろ降りるぞ」
そう言って火に蓋をして、紐を引いて気球の頂点の蓋を開いた。これで温まった空気が逃げて、重力に負けて降りていく。ただ早すぎるとまずいから落下速度を見ながら開けたり閉めたりを繰り返す。
「名残惜しいですね」
「また乗る機会もあるさ」
そう言って下を確認する。もう地面まで100mもないくらいか、着陸に障害になりそうなものもないし問題はなさそうだな。
それから数分かけて籠が地面に当たる。それと同時に布が落ちていく。
「皆見えない程の離れてしまいましたね」
「この短時間で車と最低でも4km差以上か。早さ的には十分だ」
それに陸の地形はほぼ関係なく行けるからな。
「ただ、一番の問題は鳥だな。魔法も魔道具も使えないからな、迎撃の難易度が高すぎる。積載量に限度があるし」
「ここら辺だとさっきのようなのくらいしか出ませんが。場所によってはもっと凶暴なのも出てきますし、最悪竜が出てくる所もあります……」
腕を組んでうつむいて考える。
「うーん、なんかあいつらがとにかく嫌うものかなんかないのかなぁ……」
「圧倒的格上の魔物だと逃げていく場合がありますけど」
なるほどな…………
「――ちなみになんでデーナからは逃げてかなかったんだ?」
「人になっている上、魔力の放出も抑えているからでしょう……恐らくは」
そういえば確かにデーナが魔法撃ってから急に魔物来なくなったな。魔力が原因と考えていいか。ふーん、なるほどなあ……
サルトロに向かって手を招く。
「ちょっと耳貸せ」
「なんでしょうか?」
「(竜の魔石とかいっぱい手に入ったりしない?)」
「え」
「(いや、強いのじゃなくていいんだよ。ただ最低さっきの鳥が怖がるくらいの。別に竜じゃなくてもいいし。でもたくさん、いっぱいな)」
そう言った後可能な限りの満面の笑みを見せる。すると何を考えているのかわかったのだろう、引きつった顔をして答えた。
「(一応下位といえど鳥くらいの魔物が恐れる竜が多く生息する場所はありますが、いかんせん数が多すぎるので討伐はあまりされていません)」
「へー」
「(その……問題はデーナ様なのでは、と……)」
確かにな……ただ可能性はある。ずっと前、石油取りに行った時にデーナは竜の魔石を食べていた。だが同じ種の火竜のは嫌っていたからな……たしか本には竜は他の竜種を嫌っているとかなんとかあった気がするような……
「デーナ、竜は他の竜種を嫌うって本当か?」
「え? んー……嫌い……かなぁ?」
指を頬に当てながらそう答えた。
気がつけば敬語が抜けていることに気づくが無視する。
「なんでそんな微妙な答えなんだ?」
「頭のいい竜は別に嫌いじゃないけど、頭の悪いのは嫌いってこと。頭が悪いのはすごい襲ってくるし。あと魔石美味しいし」
なるほど。食料って認識なら気球にまぶそうが問題はなさそうかな。
デーナが嫌がるのは避ければいいし。
いける。
「よし、次は気球をバージョンアップするぞ」
デーナは何をするかはわからないようだが、サルトロは話の流れから何をするのかほぼわかっているようで冷や汗かきながら「ははは」と苦笑いをしていた。
………………
その後十分ほどだろうか。ようやく車が到着した。扉が開いてルビーが飛び出してくる。
「タカハルさまー!」
「ルビー!」
飛んでくるルビーに対して腕を開く。
刹那
頭に基礎中の基礎の物理法則が浮き上がる。
運動エネルギー保存の法則
飛んでくるルビーに対してエネルギーを相殺するか受け流すかしないと、そのままエネルギーを受けることになる。そうすると頭は地面に一直線だ。無論踏ん張って受け止めることはできない。ならば受け流す。最も簡単なのはこれだ、回転で力を与える時間を増やせば止めるために必要な力積の内の力が少なくて済む。そう、ルビーが抱きついてきた瞬間に時計回りで
「へぶしっ」
ルビーに地面に押し倒される。1/2mv^2をもろにくらう。頭でわかっててもできないんだよな……
ただ頭とか首を打たないような倒れ方をするように補助されていた。
「タカハル様、大丈夫でしたか?」
「ああ、この通り」
そう答えると笑顔を見せる。それに微笑んで答えてから起き上がる。
「帰ろっか」
「はい」
………………
城に帰って車から出ると何人かのメイドさんが出迎えてくれる。
「タカハル様、国王陛下がお呼びです」
え、なんかしたっけなあ。別に俺がなんか悪いことしたわけじゃないだろうし、なんか急に俺が必要になったのか?
「多分僕は無理だよね?」
「タカハル様と護衛の皆様のみです」
「だってよ、先に休んどいてくれ、デーナとフローラも」
そう手を振りながら告げる。するとフローラはビシッと敬礼をするように、デーナは手を軽く振りながら返事をした。
「了解っす。では、失礼するっす」
「また後でね」
「おう」
デーナとフローラに別れを告げて王様の元へ向かう。
……………
案内され、随分と豪華な応接間のようなところに案内される。王様が出てきて人払いされ、俺と王様と護衛だけが残った。
「積もる話もあるが、まずは本題に入ろう。……先程のは、そなたか?」
「――はい?」
「南の平原のところだ」
ああ、気球のことか。
「はいそうですけど――」
そう言うと数秒沈黙が流れる。王様も硬直したまま動かない。呼吸もしてないんじゃないかってくらい。
「あの――っ!?」
「なんで相談しなかったの!? もうちょっと隠れてやるとかあったんじゃないの!?」
急に肩を掴まれて揺らされる。突然のことに驚く、一瞬目に映った護衛組も困惑していた。
「……少し取り乱してすまなかった。だが……あれは城だけでなく王都全体で噂になっているのだ」
その発言に俺と後ろの護衛数名が「あっ」と声を出す。何にも考えてなかった、作るので大変だったのと楽しすぎて。
「あの……本当にすみません……」
多分俺の顔は血の気が引けているだろう。ただ汗が出るほど暑く感じる。
「もうよい、こうなってしまっては発表するしかあるまい。レックス国によるものではないとわかっただけで良かったと言うべきか……」
王様は頭を抱え、下を向いてそう言った。本当にすみません……ほうれんそうが大事っていうのはどこでも一緒だよな……
「ち、父上。タカハル様は決して悪気があったわけでは――」
「わかっている。このことを公表するとなれば、外交の手札としての運用だ」
そう言って俺の方へ向き直って目を合わせる。今まであまり見せてこなかった、国のトップとして、王としての合理的思考を持った顔をしていた。
「タカハル殿、あれについて誇大して公表になるぞ」
「……その方が合理的でしょうね」
科学に誇大――正直抵抗感はある。科学屋の一端としての矜持はあるつもりだ。だがそんなこと言ってる場合じゃないってのがわかる。ハッタリかけた方が合理的なんだ。
なら…………
なら、だったらハッタリまで持っていくのがこの状況下の科学屋なんじゃないか?
重く見積もって「空を支配する」とかそのあたりか。
いいぜ、やってやろう。この世界初の空の支配者、鳥でもなく、竜でもない。
科学で。
少し口をにやけて答える。
「よろしくお願いしますこっちはこっちで頑張りますので」
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