転生者用護身術
「うん、護身術が必要なのはわかったんだがなんでこのタイミングなんだ?」
今は中庭にいる。理由はこの発言で明白だろう。
「魔力障壁を会得してからの予定でしたが、タカハル様の覚えが予想以上でしたからです」
「ウソだ、ただの職権濫用だ……」
「何か言った? サティエル」
「なんでもございません姫様!」
サティエルが背筋を伸ばして言った。小声で言ったのがちゃんと聞こえなくてよかったな。
「で、何から始めるの?」
「はい、まずは人の弱点はどこかご存知でしょうか?」
アゲートが言った。
「衝撃なら頭、脊髄、腹、首。刺突なら目、首、腹、脇、太ももの裏の辺り、か。まあ手足切断されたら出血で死ぬけど。命に関わるのはこのあたりか、スネとかもちろん痛いけど」
「とても詳しいのですね。というか太ももの裏とか自分は聞いたことないんですけど……」
「おう、そこには大腿動脈っていうのが入っててそれにダメージ入ると大量の血が持ってかれる。生物学者母舐めんなよ」
「タカハル様のお母様は生物学者でいらっしゃるのですか?」
サティエルが聞いた。
「おう、大学っていう教育機関の教授兼研究者やってる。なんかマウスに色んな遺伝情報ぶち込んで色々と計測してるとかなんとか、詳しくは教えてもらえんかったが」
「……タカハル様のお母様って何者なんですか…」
「よくわからない単語がございましたし。」
魔法チームがそう言っている。近接チームは最初から理解諦めてるなこりゃ。
「一定数そういう人がいるんだよ、俺の世界には。この世界でもきっとそういう人が出てくるよ」
戦争なんか無ければ。
「では、その知識はお母様から?」
「おう」
○
○
「いい、隆治。世の中には悪い人がいるの。だから頭、特に目、首、お腹、太ももをもしもの時は守りなさい。」
「わからないだろ!? 隆治はまだ四歳だぞ!?」
「わかるよ! 頭は脳みそがあって『のうしんとう』しちゃうかもだし、首と目とお腹は骨が無くて太ももには『だいどうみゃく』が入ってるからだよね!」
「ブフッ」
「よく覚えてるわねー! お父さんはちゃんと隆治のこと見てないからー。」
○
○
「てな感じで。」
「「タカハル様も何者!?」」
「異世界転生しちゃうような青少年」
「ああ……我々の常識なんかちっぽけな存在でしたね」
サティエルが言った。
「ゴホン、話を戻しましょう。アゲート」
ルビーが言った。いや姫様は解説しないんですかーい。
「はい、急所はわかっているようなので。そこを全力で守っていただければ幸いです。基本的にタカハル様に来る攻撃はほとんどが不意打ちだと思いますので長くても二秒稼いでいただければ我々が対処いたします」
「めっちゃ早いな」
「訓練は死ぬほど行ってきましたので」
「あの程度で死ぬほどとは情けない」
「姫様が規格外なんですよ!」
ルビー以外が呆れている。
「まあ、話を戻しますと防御を多めに練習していただくこととなります。それに基本的には反撃に出るというのは、その、タカハル様はなんといいますか……」
「別に気を使わなくてもいいぞ。俺はヒョロガリチビの運動ダメダメインドア派だ」
「あ……はい。まずはもっとも多い刺突の対処から始めます。あ、後ろからの気づかないものはまずは考えないとします」
え、引かれたかなぁ? 今ので……アゲートに引かれるってなんかやだなあ。他の人でも嫌だけど。
「うん、始めようか」
「はい、では普通にナイフを向けて突進してくる場合からです。頭首腹どれを狙っても自分の体を相手の腕の合わせて反らしながら横に受け流す感じです。実演すると……」
アゲートは木のナイフの模型を取り出した。その横へルビーがきた。
ルビーに向かってナイフの模型を右手で向けゆっくりと突き出した。そこでルビーは右に体を反らしながら左手でアゲートの手首あたりを腕で体から軌道を逸らした。
「わかりましたでしょうか?」
「おう、見て大体はわかった」
「では実際にやってみましょう。あ、魔法は使わないでお願いします」
アゲートは右手でナイフの模型をゆっくりと突き出した。
ゆっくりとは言ってもい実際に前にすると速く感じる。
左からの攻撃は右にそれながら攻撃を左手で左に逸らす。
「できたが問題はタイミングか。実際にはもっと早いだろ?」
「はい、なのでこれから毎日ちょっとずつ練習していきましょう」
毎……日……? あー……俺の魔法研究の時間が削られる……
「では次は振り下ろしてくる場合ですね、この時は相手の懐に潜り込んで攻撃した手を先ほどのように逸らしながら逆の手で相手の顔を突き上げてください。
これは相手の視界外に入ることが重要なので体勢を低くするなどしても良いですね。
あと、反撃は基本しないと言いましたが相手の懐に入るのは危険なので実演ではしませんが足などに蹴りを入れる方が効果的です」
まあ確かに人間は頭動かされると体が思うように動かないし視界外の近くのものを攻撃するのは勇気がいる、もしかしたら自分に入るかもって思ってしまうだろう。
「では実演しますと……」
アゲートがさっきと同じものを右手ででルビーにゆっくりと振り下ろす。それをルビーは左手で逸らしながら右手でアゴを押す。
そこでさらに足に蹴りを入れた……蹴りを入れた!? しかもスネじゃん。
「っ……ちょ、話と違います……実演ではしないって言ってましたでしょ……」
「やっぱり実際と同じようにした方がタカハル様にとって良いと思って」
「思いつきで行動しないでください! ……い、痛い」
アゲートは足を抱えてうずくまっている。
「大丈夫かよ……外傷もないし痣もないけど……」
「では実際にやってみましょう。アゲート」
「は、はい」
「無理すんなよ……」
「大丈夫です。もうだいぶ痛みは引きました」
「ならいいんだけど」
「タカハル様、さっきのように蹴っても大丈夫です」
「いやダメだろ!? いくらこんなヒョロガリでも場所次第でやばいだろ、蹴られたばかりだし」
「……やめてもらえると嬉しいですが蹴られても自分は大丈夫です……」
「いやしないからな!? もうさっさと始めて次行こうよ……」
「では、姫様がしたようにお願いします」
「蹴っちゃっても全然構いませんよ!」
「蹴らないからな!? アゲートもそんなしかめっ面しなくていいからな!?」
王女様ドSかよ。そんなアゲート嫌いかよ……
アゲートがゆっくりと木のナイフを振り下ろしてきた。それを手で逸らしながら反対の手で顔を押し出す。
「それで実戦では蹴りをいれると……」
「……やっぱり訓練でも蹴りもしたほうがいいかと。」
「……それはクッションとかつけさせてまた今度ってことで……」
仲悪いのかなぁ護衛達って…… 仲良くしろっていうわけじゃないけど険悪な雰囲気出されてもなあ……
……篭って魔法研究してたい、研究室の完成はまだかなあ。
建築中の小屋を見ると見た目はほぼ完成している。早いな、明日にはできているかな?
うーん、ゴムの代替品とか見つかるかなあ? あー、リービッヒ冷却器とかのちょっと複雑な道具欲しいとか言うの忘れてた。この世界で作る技術あるかなあ?
魔力とか言うのがどれだけ俺の世界の科学の常識に影響与えるかなあ?
心配事は尽きない。そんなこと今考えても仕方がないのだが……
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