離陸
陽光がまぶたの上から目を刺激してくる。目をこすってからまだ寝ているルビーの拘束をなんとか抜け出して外の天気を確認する。
晴れている、雲が一割以下の快晴。風上の西側を確認する。すると雲はほとんどないことがわかる。
これなら飛ばせる!
………………
朝食後に中庭に集まる。デーナとフローラもいる。
「今日飛ばすぞ、少なくともしばらくは晴れてるうちに」
「おお! ついに飛べるっすね!」
折りたたまれているバルーンを車に積みながら話す。それにフローラが反応した。
「とは言え全員乗せるのは無理だ。精々三人だ」
「タカハル様は絶対でしょう」
「そうだね、この中で気球に一番詳しいのは彼だし」
ルビーの言葉にスティフが反応する。
「ああ、操作が簡単な乗り物だがそれでも難しいものは難しい――んで、次にデーナ」
「私!? ――なんで、ですか?」
「第一に誰よりも空の経験が多い、風の向きの直感は一番だろう。今経験に勝るものはない。そして緊急時にデーナの飛行能力が必要になる」
「緊急時って……そんな時のことも考えてるんですか……」
「そりゃ上空で事故ったら死亡はほぼ確定だからな、アゲート。勿論未然に防げるように努力はしたが、不足の事態は防ぎようがない」
他の荷物を車に詰め込みながら話す。するとデーナが声を出す。
「二人……二人抱えて飛ぶの……」
「最悪タカハル様だけで構いません!」
デーナが腕を組んで考えているとルビーが声をかけた。まあ優先順位的にそうなるのも仕方ないか。そうならないように頑張ろう。
「それで、最後の一人は誰なのでしょうか?」
サティエルが顎に手をついて聞いてきた。するとルビーが視線をこちらに向けてくる。
「ああ、それは……サルトロ、お前だ」
「え? ええ!? なぜですか、私よりも適任が――」
「た、タカハル様――」
「ルビー、本当にごめん! 本音を言うとルビーと行きたい。ただ最初はサルトロが必要なんだ」
ルビーの前に来て頭を下げる。ただ乗れる人数的に限界がある。
「頭をあげてください、大丈夫ですよ。仕方ありません」
手を俺の方において言ってくれる。特に怒ったり悲しんだりした様子は見せず、微笑んでくれた。
少しすると様子を伺いながらサルトロが話し始めた。
「ところで、なぜ私が?」
「ああ、これ」
そう言ってサルトロにそれを渡す。するとスティフが声を上げて反応する。
「ええ!? そそそ、それって――」
「火縄銃だよ」
「だ、大丈夫なの?」
「ビビりすぎだ。まだ弾も火薬も入れてねえし火縄に紐つけてねえよ。ったく、どう考えても日本出身よりもアメリカ出身の方が銃に慣れてんだろ」
「いや急だったし、しかも大きめだったし」
「銃自体は大きくても威力は俺らのとこのハンドガンに負けると思うけどな」
そう話していると少し動揺した様子でサルトロが話してきた。
「なぜ銃が必要に?」
「ああ、俺らの世界だといらないんけどな。いま晴れてるから、天候の次に怖いのがバードストライクだ」
「ああ、なんか聞いたことある」
「なんかカッコいい名前ですね」
小学生の発想かアゲート。そしてスティフは聞いたことがある程度しかないのかよ。
「航空機が鳥とぶつかってしまう事故のことだ。普通だったら基本トロトロ動く大きい気球は避けてくれるだろうが、問題は――」
平原側の空を見上げる。すると遠くにかなり大きめの鳥が別の鳥を咥えて遠くへ飛び去っていった。
「凶暴な魔物、ですか」
サティエルの言葉に相槌を打つ。
「上空だと魔法は使えなくて、向こうから向かってくるなら対処は飛び道具しかない。で、一番信用できる飛び道具使えるのが、サルトロ」
「……そういうわけですか」
「――私が飛んで倒してきちゃダメ?」
「それも考えたがな。世の中には運動量保存の法則ってのがあってだな。要はデーナが飛び出す時と戻ってくる時で籠がめっちゃ揺れる」
「ゆっくりでも?」
「できるか?」
そう聞くとデーナは悔しそうな顔をして小さく首を横に振った。
「しかし、銃の強みは数で弾幕を張ることなので、一発一発撃つのは命中率が低いのでは?」
サティエルが首を傾げながら言った。それを聞くとサルトロの方を向く。
「命中率が低いだってよサルトロ」
「銃に関しては誰にも負けない自信が」
流石のサルトロもここは譲れない。その後、用意をしている間銃の感覚を掴むために試射することに。
すると数十m離れた的の中心に当たっていた。すげえ。
準備が終わって車に乗って王都の南の平原を目指す。
「わざわざタカハル様が運転なさらなくても」
「あー……とは言え車まともに使えるのは俺くらいだし」
アゲートの仕事が一つ減っちまったからなどう反応すればいいのか……
「何言ってるんだいタカハル君、君以外に運転できる人がいるじゃないか」
「そうっす、身分が高い人は自分で運転なんかしないっす。だからここは自分に任せて欲しいっす!」
「てめーらは絶対にダメだ!」
暴走する車に乗れるか。絶対に事故るだろあんな運転。なんでハンドル持つとあんな性格変わるかな……
……三十分ほどで王都から離れた平原に到着する。
降りて、車の後ろから風船を取り出す。
「そちらは?」
「牛の膀胱に水素ガス入れた風船」
「な、何のために?」
「空の風を見るために」
そうルビーに答えると、風船についていた長い糸を持って風船を空に飛ばす。
いい感じに東向きに飛んでるな。上昇速度も問題ない。
「飛べる。気球を用意するぞ。まずは布を広げろ」
そう言って全員で布を広げる。大きさは圧巻するほどだ。まあ飛べるくらいだからこんだけ必要だ。
色々セットしてバーナーを点火する。とは言っても暖炉をちょっと改良した程度だ。ガスは手に入らねえ、石油燃料もまあいいが、まだ少なくて使用は控えたい。だから燃料は木炭だ。
しばらくするとバルーンは完全に膨らんだ。
「なんだかこれ滑ってませんか?」
「ああそうだサルトロ、浮力が重力と釣り合って摩擦がゼロになったからな。もうそろそろ浮き始めるぞ」
三十秒ほどすると籠が少し揺れ、上向きに動き始めた。
「ほ、ほんとうに飛んだっす!!」
「よし! 成功だ! お前らは車で追いかけてこい」
そう言うとスティフとフローラがお互いに眼光を走らせた。……あの中で運転できるのあいつら二人だからな……
「す、すごい。サルトロさんまで飛ぶなんて……!」
「ああ、科学は誰でも平等だ」
目を見開くアゲートに返す。もうそろそろ表情をちゃんと認識するのが難しくなってきた。
「タカハル様ー!」
聞き慣れた声のした方にすぐ目を向ける。
「お気をつけてー!」
「ああ! また後でな!」
そう答えて手を振って地面にいるみんなと距離が離れていった。
もう軽く数十mってとこか。魔力も使えない高さを超えた。このまま偏西風に乗ってこの世界初のフライトだ。
「燃料増やすぞ、もっと高度をあげるぞ!」
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