雨
「ついに……終わった……!」
「やりましたね、タカハル様!」
「ようやく終わった、これでゆっくりできるかな」
必要量の布を織り終えた。十日かけてようやくだ。本当に長かった。
「よし、じゃあこれ全部縫って合わせるぞ」
「「「「「「え?」」」」」
………………
「これいつまでやるの!?」
「いま二十分の一」
そう言うとスティフは目を丸くしながら手を止めた。
「おい手を動かせ、終わらねえぞ」
そう言いながら四つの手を動かす。フローラから一組の義手をもらった。最初は下手だったがもう慣れた、これでほぼ作業速度二倍だ。なんなら片方だけ動かすなら義手の方が効率が高い、魔力おそろしや。
ちなみに転生前、学校で家庭科の作業速度は普通だった。旋盤とか扱うのはは一般人よりも上手いはずなんだけどな……
――だがそれでも終わる気配がしねえ。たった5%……されど5%、これを二十倍やるだけだ。時間制限がないわけじゃない。
………………
終わった、ようやくだ。
「指がまだ痛む……」
ったく、地球でさらに先進国出身でこの不器用さかよ。金メダル取れるほど剣の扱いは繊細なのに針はダメダメかよ。
「何度も失敗してしまいました」
「慣れないことさせちゃって悪かった。指何回も指しちゃったかもしれないけど、許してくれ」
「大丈夫です! タカハル様のためですから」
「あはは……それで、この後どうするの?」
「ん? 今日はもう飛べないからな。日中に十分な時間が必要だからな。だから今日は無理だけど明日にでもの予定だ」
………………
「…………」
「雨……ですね」
「……そうだな」
「雨だと飛べないんですか?」
「――ああ、無理だアゲート。布は筵だからな、ビニールならともかく、水を吸収しまくるあの布じゃ無理だ」
ため息がでる。くっそ、運悪いな。よりによって今日かよ。
遠くで雷が落ちたのが見える。
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10
さほど大きくはない雷の音が鳴る。
「約3400m」
そう言って朝食に出された肉を噛みちぎる。
「急にどうなさったんですか?」
「さっきの雷までの距離」
飲み込んでからルビーに答える。
「そんなことまでわかるのですか?」
「光った時と音が届いた時がわかればな。まあ音速はおおよそでやってるから距離も概算だがな」
前世は家で雷雨の時、計算合戦だったな。
「そういえば子供の時、何か言いつけるのによく雷が使われてましたね」
「あはは、雷じゃなかったけど僕もよく言いつけられてたな」
「スティフはサティエルの軽く十倍はありそうだな」
「言い過ぎ……って言うのも自信ない」
予想通り模範少年とは程遠かったんだな。ま、それが金メダリストか。世の中わからんな。そういえば父さんも子供の時無許可でヤバめの実験して色んな意味で危なかったとか言ってたな。俺らの世代じゃ絶対無理。
「いえ、私も何度も言われていましたよ」
意外だな。サティエルがそんなに言われるなんて。
「ですから泣きながら勉強、修練の日々でした」
「ああ、スパルタ的な……」
「悪い子でいると魂が雲に持ってかれるってよく言われてましたよね」
「え、そっちなの!?」
アゲートと発言にスティフが驚きながら声を出す:
「どういうことですか?」
「いや、僕らのとこだと雷って落ちるってイメージ」
「ええ! そうなんですか?」
「うん」
「…………ああ、そう言うことか」
そう呟くとスティフが「何が?」と聞いてくる。
「魔法で雷を出せるっての、確実に上空まで魔力が飛んでるが、電気になってから上空まで飛んでるなら辻褄があう。昔の人間が魔法で雷を再現できた時のイメージがそのまま残ったんだな」
「……なるほど」
わかってないだろスティフ。顔でわかる。
「それで、結局どっちなんですか?」
「そりゃ雲から落ちて――」
「どっちも正解」
「ええ!?」
サルトロに鼻を高くしていたスティフだが、急速で落下した。
「雲から出てきた電気が地面の電気引き寄せて途中で繋がってる。魔法が使える高度だったら昇ってるからここの考えも間違ってねえ」
常識なんか余裕で覆される。どんな人も、科学文明で生きてる一般人も、学者ですらもだ。
食べ終えたので食器を置いてスティフに目を向ける。
「で、だ。あの妙にテンションの高い精霊はなんだ?」
「ああ、あの二匹? 精霊ってのは自然に強く左右されるからね。水と雷の彼らは雷雨だとああなるんだ。たまに興奮しすぎて無差別に魔法を打っちゃうこがいるけど彼らは大丈夫だよ」
「まあ迷惑ってわけじゃないし」
ただ本当に元気いいな。虫のホバリングを数倍速で見てるみたいだ。
……視線を食卓に戻す。
「……なあ、竜って植物も食べるのか?」
「! きゅ、急にどうなさったんですか……?」
デーナに聞くと動揺しながら返してきた。すっげえ声が震えてる。
「いや、さっき野菜精霊に渡してたし」
「わーわーわー、聞こえない聞こえない」
「デーナ様」
デーナが叫んでいると、ぱっと見ベテラン感の強いメイドがデーナの横まで歩いてきた。ああ、確かデーナの教育係だったか。
「その話は本当ですか?」
「い、いやー……タカハル様の見間違いじゃない――ですかね」
そう言うとたたんでいたデーナの翼から緑色の精霊が出てきた。シャリシャリと音を立てながら。
なんとも空気を読むような読まないような精霊だ。
うわ、メイドさんめっちゃ怒ってる。
「いや、そう言う告げ口的なことじゃなくて自然界だと食べないものを無理に食べさせるのがどうかと思ってない」
「そ、そう! 山にいた時お肉しか食べなかったし、野菜は食べられなかったの。だから――」
「では果物も食べない方がよろしいですね」
「えっ」
メイドさん強い。
「野菜食べるから許してえ〜」
食事後デーナはメイドに引きずられていった。勉強時間増やされるだとかなんとか。見た目少女とはいえ竜だよな。すげえなあの人。
………………
次第に雨は弱くなってきて、雷も収まっていった。その雨を部屋のベッドからルビーと眺める。
雨音の中、ルビーが視線を窓に向けたまま話しかけてきた。
「この雨、明日には止んでいるでしょうか?」
「さあどうだろう。判断材料が少ないな、精々ここら一体の雲しか見えないし」
「そんなに遠くの空まで見れたらいいですね」
「まだできないけど、いつか出来るようにする」
そう言うと微笑みながら声を出す。
「タカハル様がそう言うならきっとそうなる気がします」
ルビーの言葉に頷いて返す。何年かかるかはわからないが、俺が生きてる内に。
視線を窓の外に戻すとルビーが寄りかかってきた。
「ねえ、タカハル様」
「ん、どうした?」
「その……考えていらっしゃいますか、結婚のこと……」
そう小さく呟くと、反応を伺うかのように体を寄せながらチラチラと俺のことを確認していた。
「――ごめん、正直、ちゃんとは」
「そうですよね――」
「えっと……こう、ルビーとは寝食共にするくらい一緒にいて、恋人としている訳だけど。考えようにも実感がないんだ。ルビーは実感というか、結婚の考えとかある?」
「そう言われると……今までふわふわとしたイメージだったので、よくよく考えればほとんど考えていませんでした……」
落ち着かない様子で視線を動かしてそう答えた。
「案外、何にも変わらないのかもな」
「はい、きっとこの幸せが……あっでも、一つあります」
「何?」
「子供を持てます!」
落ち着け俺、確かに中世とか近世だと16とか17とかそこら辺の年齢でも妊娠出産は普通だったかもしれない。だが身体が成長しきっていない若年出産は母子ともにリスクが伴うことはデータとして出ている。もし子供ができても責任持てるかと言われたら無理だし、いや確かにお相手が王家だから子供が育つ環境はあるだろうけど。でもいつ襲撃が来るかわかったもんじゃない状況で俺と一緒にいたら子供が危険。しかもやることがあって父親として振る舞えないし、そもそも親は二十以上ってのが当たり前の世界から来たせいで父親っていうのが遠い存在と思ってしまっている。大体ルビーは選択肢を出しただけで欲しているとかそういうのはわからない訳だし……
――このルビーの表情は期待の眼差し。
「る、ルビー。ルビーは俺の護衛だよな」
「はい」
「その、子供ができたりすると不都合とか――」
「むしろ推奨されています!」
あ、はいそうですか。
「――推奨されているとは言うけど、ルビー自身はどうなの?」
「わ、私は……欲しいです…………た、タカハル様はどうですか?」
ルビーは顔を赤くして視線をたじたじと逸らした。そして照れ隠しかのように少し声を荒げて聞いてきた。
「……俺は……ごめん、これも実感ない。なんていうか…………不安が多くて……」
「――そうですか。……話が飛躍しすぎてしまいましたね。まず式はいつ頃がよいでしょうか?」
「そうだな……」
今後のことについて頭の中のメモを思い出す。ある程度巻けば、いや後回しにすれば問題はないか。
「――冬のうちに、絶対外部の人間が来れないうちに作らないといけないものが一つある。それができたら必ず」
「はい!」
雨のどんよりとした雰囲気に負けないくらい、そう答えたルビーの笑顔が綺麗だった。
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星一評価、辛辣、一言感想でも構いません、ちょっとした事でも支えになります。世界観や登場人物の質問もネタバレにならない程度に回答します。(ガバあったらすいません)
科学質問も出来る限り回答します(ネット知識なので大したことはできないしガバガバですが……)




