無意識
「もうちょっと寝ていましょうよ、たかはるさまぁ……」
「寝坊してたら他のやつらに迷惑だろ……! いい加減歩けって……!」
腰にしがみつくルビーを引きずって食堂になんとか歩いてきた。半寝でこの腕力ってどうなってんだよ。
「あはは、ルビーちゃん相手によく動けたね」
「別の何かにしがみつかれてたら無理だったな」
なんとかルビーを席に座らせる。介護かよ、女子一人分すら俺にはきついぞ。
しかもデーナに苦笑いで見られてる。
「やすむんじゃないんですか……」
「ご飯食べたらな。ほら、手を動かせ」
今まで基本的に生活リズムは規則正しかったのに急にこれってある意味すごいな。普通目が覚めると思うんだが、無意識にまで休むってことすぐに埋め込めてるのはすごい。
「タカハル様は今日は休みと仰っていましたが何かするおつもりは?」
「適当にダラダラしてるよ。お前らも好きにしてればいいから」
サティエルに答える。暇だろうけどたまにはこういうのもいいだろう。襲ってくる可能性も限りなく低いだろうし。
色々と談笑しながら食事に手をつける。
……少しすると横から椅子を引きずる音が聞こえ、体重をかけられるのを感じた。そっちを確認するとルビーが目をつむって体を寄せていた。
もう食い終わったのかよ、しかも寝るの早いな。
「寝たいなら先に部屋戻ってていいぞ?」
「一緒にいないといやです……」
「そうか」
……朝食を終えて部屋に戻る。
ルビーがこれ以上にないってくらい幸せそうな顔をしている。二度寝がそんなにか。
ベッドに腰掛ける。どうしようか、暇になった。やった方がいいことはあるがすぐじゃないとだめな理由はない。かといって寝たいわけでもない。
ふと手の上で魔力を動かしていたのに気づいた。癖になっていた。手足みたいに無意識で動かすこともあるのか。
思えばどういうメカニズムで魔力を操っているのかもわからないな。脳から神経を伝って魔石に電気信号が届き溜めていた魔力を放出する。ここまでは容易に考えられる。それでもただの仮説だがな。だが他に考えられない、内分泌系も関与はしてるかもしれないが、反応速度と辻褄が合わない。神経のような別のなにかっていう線はあるか。
それでその後だ、体外まで魔力を放ってそこで変異させている。エネルギーにも物質にも。
変異できる距離は魔力圏内、そこから先に出てった魔力は使えない。そもそも魔力圏が一体何なんだ? 風に飛ばされたりもしない、いくら全力で走っても後ろに取り残されてそこで魔力を変異できたりしない。
――また無意識に魔力を手の上で動かしていた。
無意識? 無意識にどこまで魔力を動かしている? 無意識に体外に変異できる魔力を伸ばしているんじゃないのか?
ものは試しだ。配線のイメージだ、この寝室の端から端まで軽く40mはある。ほんと広いな、高校の教室二、三個はあるぞ……
イメージした配線は床に落ちて伸びていき、端まで到達する。
流石にこの距離は魔力圏外だ、それでいけるか? 配線を魔力で通して……光子。光れ――
光った。
これはかなりヤバいことができるぞ……!
――! 上はどうだ? 上空でも同じことができるかもしれない。
窓まで行きほぼ垂直の斜め上、硬めの配線をイメージして上へ伸ばす。安定しないな、倒れそうになる。なんとかなってるが。
……同じようにやってるが光らない。
てなると、上空で魔法が使えないのは魔力圏の問題じゃない。つまり魔法を地上で補助するもの、もしくは上空で阻止するものが存在している。
それは熱による膨張が確認されている。つまり熱運動をしている……
そして海の満ち引きとは全く違って反重力かのように月とは反対方向に伸びる。万が一反重力だとしたら地球から飛んでいくはず。しかも潮の満ち引きは遠心力で円盤状になるが何かは雫状になっている。
うん、わからん! 元々考えていたこととは別だし。とにかく魔力圏と上空に行くと魔法が使えない現象はおそらく関係ない。
で、結局なんで体外でも魔力を変異できるんだ? まさか神経みたいなもんだってのか?
……魔法専用の神経?
一度さっきの配線のイメージとは別で銅でやってみる。すると光らない。
自分専用の魔法の配線が存在する。ん? そうとは限らないか。
自分専用なんていつわかった?
まあこれも後だ。体内外関係なくどうやって意志の力で変異させている? あまりにもぶっ飛び過ぎてることはできないが大抵のエネルギーも物質もできる。放射性物質とかは流石に作ったことはないが電子陽子中性子ができてるのだから理論上できる。
無意識で俺らはどんなことをしていたんだ?
「おわ!?」
服の後ろを引っ張られベッドに倒される。
「今日は休みなんですよ。休むのはタカハル様もですよ」
「あー、わかったよ」
考えるのもひと段落ついてたしいいか。
「こうして二人で寝ないでベッドの上にいるのって初めてではないですか?」
「そうだな。二人ともすぐ寝ちまうからな」
「恋人っぽくて楽しいです」
「そっか」
こんな簡単なことできてなかったんだな。恋人としてできるはずのこと、もっとあるんじゃないのか。
かと言って思い浮かぶこともない。普通はどんなことをしてるのか全くわからない。
「――なあルビー、なんかして欲しいこととかない?」
「え? ど、どういうことですか?」
「この休みを機に何かしてあげたいと思って」
「そんな急に仰られても、お気持ちだけで十分ですし……」
「急にごめんな、いつでも言ってくれ。できることならするから」
そう言うと手を握られた。
「タカハル様は何かございませんか?」
「俺? 特に考えてなかったな――」
強いて言えば何かしてあげたいってことか。よくよく考えるとただの自己満足か。
多分ルビーも何かしてあげたいんだろう。でも答えがでねえ、基本的に何されても嬉しいし。
ただ何か答えた方がいいんだろう。うーん……
「ふにゅ」
「そこまで考えこむことではないですよ」
「わかったからはなひて」
そう言うと小さく笑いながら頬をつまんでいた手を離した。
「タカハル様はすぐ考え込むんですから」
「遺伝か習慣かだな。それでも親譲りな方だけどな」
「そうなんですか?」
「ああ、父さんは集中すると話しかけても全く反応しなくてな」
多分ゾーンの一種だろう。父さんは数分でえげつない数式を解いていたり逆に何時間も動かず脱水症状になっていたこともあった。母さんもたまにあるが父さんほどでもない。物理と生物の差か。
そういえばゾーンって極限の集中状態と言うがある意味極限の無意識状態か。
「そういえば話が変わるんだけど、ルビーって戦ってたりする時に集中しすぎて普段と違う感覚の経験とかないか? 例えば時間が遅く流れてるように感じたりとか、それこそ無意識に身体が動いたりとか」
「えーと、時間が遅くなったりはないんですけど、あります。夏だというのに体が凍てつくように寒かったり、視界から一時的に色が消え、疲れを全く感じなかったり」
やっぱりあるのか。でも知らない種類だったな。
………………
「ゾーン? あるよ」
昼食のあと、中庭に集まっていた。
「やっぱりあるのか、どんな感じなんだ?」
中庭にみんなを呼びアイスを渡しながらスティフに聞く。
「どんな感じかあ、言葉にするの難しいな……なんて言うか、相手と自分の次の動きが完全にわかるってかんじかな。あと剣が自分の身体の一部になった感覚もあるね、しなり方が『インチ』単位でわかるんだ」
「ヤード・ポンド法消えろ」
「急だね!?」
ともかくルビーとは全く違うのか。
「やーどぽんどほうってなんですか?」
「ん? この世、いや全ての世界から消えるべき悪魔の単位」
「違うよ!? 笑顔でデーナちゃんに変なこと教えないで!?」
「だってそうだろ。科学的意味を一切持たない旧時代の単位だろ」
「あはは……ところでなんで急にゾーンなんてこと聞いてきたの?」
「なんか人間……いや他にも生き物が魔法を使う時無意識ってのが鍵になりそうでな」
「へー」
ただ論文も漁れねえこの状況だと実験や研究がしづらい。何をやればいいのかわからないのがな。
ま、とにかく気球だな。明日から頑張ろう。
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