それでも苦労する
「ひえ〜、終わったんじゃないの?!」
「織り機だけな。糸を取り付ける作業は長くなるぞ」
数百本の糸を取り付けるからな。一人でやるとしたらそれで半日以上時間が必要になる。単純作業ってのが地獄だ。
「デーナも手伝ってくれないか?」
「えー……」
「アイス」
「やります!」
ちょろい。こんだけ人数いれば早く終わるだろ。
……そんなで終わらせた。
「意外と早く終わったな、三十分くらいか」
「力仕事したわけじゃないのにヘトヘト……」
「ずっと同じことしてましたからね」
ま、色々あってようやく動かせる。織り機の前の椅子に座りペダルを踏む。歯車が噛み合って滑車が動き、一部の経糸が上に動き、残りが下に行く。
「「おお」」
ハンドルを左に回して緯糸を入れる。足をペダルから外して滑車を下ろして経糸を上下させる。そしてハンドルを右に回して緯糸を入れる。
これを何百回何千回と繰り返す。地獄だな……
……数十分で糸を取り付けていた糸を使い切った。
「だいたいこんなもんか服一着分くらいか」
「これ、全然足りないよね……?」
「当たり前だろ、これを何百回とやるぞ。」
「タ、タカハル様。自分お腹が――」
「ぼ、僕も――」
後ずさりするアゲートとスティフをルビーが捕まえる。
逃すわけないんだよなあ。
………………
「何事っすか!?」
聞こえた声に顔を地面から上げる。
「ん、フローラか。用事はもういいのか?」
「ええ、初試運転を見れなかったのは残念でしたけど……どうしたんすか? 全員して倒れて……何かうまくいかないことでも――」
「いや、何も失敗はない。ただ……」
「ただ……」
「ただ……?」
「作業量が地獄だ。研究室の中にあるのが今日できた布な。あれでまだ一割未満な」
「それでこの惨状っすか」
全員疲労でぶっ倒れてる。身体的体力でどうにかなるわけじゃないからルビーもアゲートもこの状態だ。
「こんなにあるのにまだ一割っすか?!」
「ああ、しかも全部の布を縫い付ける作業があるし、かごも作らなきゃいけない」
自分で言ってて絶望してきた。でも冬が来る前には絶対終わらせたい。頑張るしかないんだよな。
くそー……1700年代の人間はどんだけ苦労したんだよ。俺みたいにマンパワーも織り機も使えないから時間俺らの何倍かかったんだよ。
ただ糸が今のところ全部来てないからな……麻の糸の早い作り方教えたとはいえ、それでも量のせいで時間がかかる。
それにバーナーも作らなければいけないし。あとは風船部分とかご部分を繋げる糸は麻だと弱すぎるし、何より燃えないような素材じゃないとダメだ。かといって重いのもダメだ。
地獄の作業がすぐそこにある……でもやらなきゃいけない……
「あー、面倒臭いよー」
「タカハル様――」
「ん?」
うつ伏せていた状態から顔を横に向けるとルビーがしゃがんでいた。
「頑張りすぎてもタカハル様のお体に障りますし、明日一日休むというのはどうでしょう?」
ルビーの目が期待でキラッキラしてる。流石に隠しきれてない本音がわかる。どーしようか、一日だろ……
「ま、いいか。明日は休もう」
「「「やったー!」」」
「体力有り余ってんじゃねえかお前ら!?」
倒れていた全員が起きて喜んでいる。祭り騒ぎかよ。
本当にあいつらに休み要る? まあ多分気分の問題だろう。思い込みで体力なんか回復したように感じるからな。
ただし俺は回復できない。もう腕は痛いくらいだし足は疲れすぎて太ももあたりの筋肉が痙攣してる。もうこのまま寝たい。
「なるほど、こうやるんっすね!」
フローラはいつのまにかなんかやってるし。
「作業早すぎだろ、俺らがかなり時間かけてたのに……腕何本ついてんだよ」
「六本っす!」
そうだった。いやそうだとしてもおかしいだろその速度は。
「もう全部フローラさんにやってもらえればよいのでは?」
「いやっすよサティエルさん。これずっとは厳しいっす」
ガッコンガッコンと織り機を鳴らしながら答えていた。そりゃそっか。流石のフローラも無理だ。
「頭ではわかってたっすけど、本当に凄い勢いで布ができていくんっすね」
「作るのにあんだけ苦労した甲斐があるな」
それでもかなり作業が辛い。まあこの世界で空飛ぶって考えたら妥当か。空を使えるってのはかなりのアドバンテージだからな。ただ自由自在ってわけじゃない。この後飛行機もやっていかなきゃいけない。それ以外にもやらなきゃいけないことが多いし。
優先順位は低いが研究も進めたい。
作業量は減るかもしれないが試行錯誤は間違いなく増える。はー、もう考えるの疲れた。糖分が足りない。今後のことは今後の自分が頑張る。その今後の自分のために休んどいたら方が得だな、ルビーの言う通り。
「服を作るのってこんなに大変なんですね」
「いや、これ以上だ。こいつで一気に大量生産ができるようになるが、今までのはちまちまちょっとずつだからな。それに俺らは糸を紡ぐのをはしょってる」
重く感じる身体を起こしながら答える。服を軽くはたく。
「どうだ、フローラ。使い心地は?」
「とても良いっす! でもこのペダル、重いので円運動に変えて何回か回して滑車を動かす仕組みの方が力が入らなくなる思うっす」
「なるほど滑車に歯車を増やして自転車みたく回すのか。いいなそれ」
「あとやっぱり糸の準備っすね。これが一番時間かかるっすね」
「ああ、考えてはみてるんだがなかなか良い案は出なくてな。その瞬間は楽ができるかもしれないけど結局それ以上の作業が必要になりそうでな……」
「難しいっすね……」
フローラが腕を組んで考えながら義手で織り機をガッコンガッコン音を鳴らす。
「その腕スペアとか余ってない?」
「! 沢山あるっすよ! 欲しいっすか? もちろん差し上げるっすよ! いろんなタイプがあるっす、どんなのがいいっすかね、今つけてる普通のやつから指を十本に増やしたのも、戦闘用の魔道具を腕につけられるのもあるっす。他には精密操作特化、体全体につけて力仕事用、あとは編み物専用、書き物専用、お茶専用なんかもあるっす! あ、あと今作ってるタカハル様に教えてもらった油圧で力特化のもあるっす!」
すごい早口で言ってきた。
「一部すげえニッチなのあるな。その中だと精密特化のだな」
「その中でも色々あるっすよ! 肩や腰につけてるこれと同じくらいのサイズから腕につけるくらいのもあるっす!」
「それいいな」
「了解っす、次来るとき持ってくるっす!」
そう言うといつのまにかフローラは布を織るのを終えていた。早いな。
「今日はここまでだな、各々休もう。フローラもまたな」
「失礼するっす」
そのまま解散して部屋に戻っていった。
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