引きずり
ルビー、サティエル、あとついでにスティフと共に医務室のドアの前まで行き、ノックする。そのままドアノブに手をかけ扉を開く。
目に入るのはベッドに横たわる二人とそれぞれを看病しているメイドが二人。
「タカハル様――このような出様で申し訳ございません」
「気にするな、怪我人だろ」
サルトロの側まで寄って答える。とりあえずサルトロは傷は治りそうだし、時間さえかければ大丈夫そう。……いや、ただ最初は傷は大きかったから感染症が怖い。ただ見ている限り問題はなさそうか。
それよりもアゲートだ。
「アゲートの症状はどうだ?」
「嘔吐が何度か……」
メイドが答えてくれる。
「そうか……」
呼吸も浅いし……脈が強い、動悸が激しい。
アコニチンが抜けきれてねえ。手足の麻痺もあるはずだ。
分解されないわけじゃないが、他の毒と比べて遅い。アゲートの肝臓だよりだ。
「どうにかしてあげられないのかい?」
「魔法で一時的に楽にするのは可能だが、すぐ切れる。そしたら苦痛はまた戻ってくる」
「そっか……」
サルトロの方は……
「そういえばサティエル、回復魔法でサルトロの方は治療できないのか?」
「申し訳ございません、今回は傷が深すぎます、止血程度はできましたが、肉まで損傷があると私ではできません。皮だけ回復させても、変に内側が治ってしまうリスクもありますので」
なるほど。
「一応体の奥底でも回復させられる者もいるにはいるのですが………」
「ほとんどは戦地へ、残りは有事の際のために王都にいる者だけです」
「そうか」
サティエルが言いかけたのをルビーが話した。
そんなチートじみた回復できるやつなら、そりゃ怪我人が出まくる前線に送られるか。
「やっぱり回復まで時間はかかるよな……」
正直、サルトロの腹の包帯からにじむ血が見てられない。
「……はい。ですのでタカハル様、我々二人のことは気にせず王都へお帰りになさってください。拠点も叩き、刺客もしばらくはこないでしょう。仮に来たとしても今まで通りルビー様とタカハル様のお力で対処できるでしょう」
そうだよな、二人の回復まで待つのはかなり足止めを食らう。俺らだけじゃなく一緒に来た兵まで巻き込むことになる。
「それに……」
ん? まだなんかあるのか?
「そもそもルビー様以外は我々、護衛として役に立ってないといいますか……」
あー……言われてみれば確かに。気づいたらサティエルが顔を青くしてチラチラこっちの様子を伺ってくる。
おう、ルビーはドヤ顔。
――いやみんな何回か活躍してくれた場面あるし。
「ルビーが一番近くで長くいたからそうなっただけだ。それに役立ったことも何回もあるだろ」
「そうでしょうか……」
ネガティブ思考だなあ。
「今までがどうあれ、とりあえず傷を治せ。その状態だったらこれから役に立つのもできないだろ」
「――わかりました」
素直でよろしい。
アゲートの方も早く治ってほしい。ただ、待つしかできることはない。
「……じゃ、もうそろそろ俺らは行くよ」
「はい、お気をつけてください」
「ああ、お前らも傷治して早く来いよ」
「はい、早急に」
ま、傷治すの優先だけどな。
二人を背にして部屋を去った。
………………
その後、街を移動して、特に何事もなくまた領主の館に。ただ車動かすのに魔力が必要だったのでちょっと胸が痛む。消費量は少ないが残ってた魔力も少なかった。かなり寝たはずなんだが……
日は沈みかけている、さっさと荷物を部屋に置いて夕食にしよう。
で、色々済ませて食堂に来たんだが……
「サティエル、どうした?」
「護衛として役立ってない……」
「まだ引きずってんのかお前」
机に伏せて話し始める。
「物心ついてからずっと護衛となるため教育を受けてきたのに、護衛として役立っていないのはショックですよ……」
こいつら確か、ほとんど娯楽なく護衛として教育されたエリートなんだっけか。
「まあ、俺も命がほぼ常に狙われてる転生者っていう自覚がなくて色々事件が起きたわけだし」
料理の準備が始まったので席に着きながらサティエルに返答する。
「それが大前提の護衛なんですよ、急に戦ってくれなんて言われて、生まれが相当なものでないと転生者様の命の重さなんてわかりっこないですよ。だから護衛がその分守らなければいけないのに……」
戦場で勝ったのになんでこんなマイナスな思考なのか……
「大体、最近イレギュラーすぎるんですよ! 頭おかしいぐらい刺客が来るじゃないですか、城に! しかも何ですかあのローブ魔法使い! 当たり前のように転生者様であるタカハル様と魔法勝負で張り合ってるじゃないですか!」
「魔法勝負とは言え、ぶつかり合いってよりは初見殺し合いみたいな感じだからな。だが、それでも何かおかしいな。あいつ流れ転生者かなんかなんじゃないか、あるいはその子供とか……」
そう言うとサティエルは不貞腐れた表情をしながら食事に手をつけ始めた。
「……ただ、もう後を追えません。捕虜もゼロですし」
「そうだな、例の魔法使い以外全員あれに変えられた……わけだし……」
「……タカハル様?」
「――なんでも……いや、後で話す。それより食事中にこんな話するべきじゃないだろ」
………………
ベッドに仰向けに倒れて自分の手を見つめる。
「なあ……」
「なんでしょうか?」
ルビーの返答が横から聞こえる。
「俺、人殺したんだな」
色々ありすぎてこんな大変なことを忘れていた。
「――はい」
記憶は完全にある。四人の頭を貫通して命を絶った。
それだというのに実感がないのがすごく気持ち悪い。
「こんなに簡単なんだな」
「タカハル様ほどのお力なら――」
「いやそうじゃなくて……」
前世から人間なんか簡単に死ぬくらい知っている。脳の損傷、数十分の呼吸の停止、心拍の停止。もっと簡単なのなら洗剤混ぜたり、硫黄やらなんやらの燃焼ガス程度でヒトという生物は殺すのは余裕で可能。
ただわかっていても絶対にしなかった。恨みを持つことなんかなかったし、あってもイラつく程度だった。
それが……
「争いなんて無縁のやつが人殺すのが、そうするっていう決断するのが」
そうした方が良かったのは間違いない。最初の二人を殺した時は、そうしていなかったら代わりに味方が死んでいただろう。
後の二人は、俺が正気じゃなかったのもあるが、二人が相手していたなら遅かれ倒されていただろう。だったらあんな化け物でいるのを終わらせるのが早い方が良かった……のだろうか。
……そもそも最初にいつかは戦場に出るべきってわかってただろ。それの時間がずれただけだ。
それにこんな世界なんだから人を殺すのに躊躇してたら自分が死ぬ。
覚悟は決めたはずだろ。
『これで誰かが助かる、帰ってご飯を食べる』だろ。
誰かが助かったんだ。十分だろ。
これ以上考えても無駄なだけなのにモヤモヤが残る。
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