遅れてやってくる
感覚はない。だがやったのは事実だ。初めて人を殺した。見た目は人とは言えないが元は絶対に人だった。
ほんの一瞬意識が揺れる。それが命取りだった。この一瞬を狙ってあいつが魔力を溜めて接近してくる。
間に合わない――!
そこへルビーが横から大剣を一閃、目の前の地面へ突き刺した。空振った、風魔法の反作用で紙一重で避けられた。
俺が正気に戻ったことを確認するとルビーは後ろへ戻っていった。
申し訳ない、俺はルビーにカバーされてばかりだ。
だけど、俺はもう大丈夫。犠牲がないならあとで礼を言えばいいだけ、合理的にいこう。目の前の状況をなんとかしないと。
杖に魔力を流す。そこからさらに周囲に水素分子の塊をいくつか生成、それを可能な限り早く最大限の運動エネルギーを加え、可能な限り速く飛ばす。
「何度やっても同じ、無駄だ。魔力を動かす時点で方向はわかる、ならば赤子でもできる」
避けられるのは大前提。足を前に進めながら速度を落とした弾を前に飛ばす。
「だから無駄だと――」
「〈停止〉」
囲んだ! 詰みだ、左右前後から弾を一斉にあいつの方向へ飛ばした。
動いた瞬間、土煙が上がった。弾は当たってない、なぜ? 上にも逃げていない。
下か……!
魔法でできた炎、ガラスが飛んでくる。難なく魔力障壁で受け止める。
「はっ、化け物じみた魔力圏を持っているのか。これが隠し球か、だが残念だったな」
「残念なのはどっちだ、次は潜ろうが飛ぼうが当たるように撃つぞ」
地面から這い出てきたあいつに向かって言葉を飛ばす。
次はドーム状に配置する、わかってても避けれないようにだ。
「どうやら転生者を甘く見ていたようだ。特別にこのオレサマのとっておきを見せてやろう」
興味はあるがわざわざ見る必要もない、すぐに分子を作り出して飛ばしていく。
するとあいつから地面に魔力が流れた。
「ルビー、アゲート! 一旦あいつから距離を取れ!」
視線が合い、返事はないが化け物どもの攻撃を掻い潜ったりはじき返しながら距離を取っていく。
するとあいつの周囲の地面がめくり上がった。木も巻き込んでいる。さらに土が濃縮され、球状になっていった。ほんの一秒ほど、そのあとどうするか魔覚でわかった。
「〈グランドフォール〉」
上に打ち上げられた、とんでもない速度で。数秒ほどで、最高高度まで上がった。どんだけ上げてんだよ、300mはあるぞ……
そうだと仮定して落ちてくるまで8秒……いや空気抵抗でもっとある。土塊が完全な球として…………12秒やそこらか、誤差ありまくりだろうが意味ねえくらいの時間だ。
「全員、上に警戒しろ!」
だーがそうもいかねえよな。化け物は一桁しか減ってねえのにこっちは疲弊しだしてる、犠牲なしが幸いだ。俺はこの相手をしなきゃいけない。約十秒後にくる上からの攻撃に警戒しながら。
上から来る前に仕留める。大量の分子を魔力から変異させ、構える。だが風魔法で左右前後に高速で移動されている。たまに撃ってくるガラス片を守るのも忙しい。
狙いが定まらねえ。
……タイムリミットだ。上から来る岩とも土ともつかない物質を魔力障壁を上に向け、受け止める。そのタイミングで炎を繰り出してくるが前にも魔力障壁はあるので守れている。
魔覚が味方も魔力障壁で守っているのがわかる。
グシャリと背後から音がした。色んな感覚が途切れ、背筋が震えた。なぜか、怖いもの見たさなのか、顔がゆっくりと後ろへ向いていた。
血を流して、土の下に倒れていた。
いや、大丈夫、倒れているのは黒い体毛の化け物。有利になっただけ。
っと、危ねえ。前の敵を一瞬忘れてた。なんとか防御を間に合わせる。
? 横からガサゴソと音が聞こえた。視線をやると倒れていた黒い体毛の化け物が、手を伸ばして跳ねてきた。
ルビーがダウンさせたやつ、死んだかと思っていた。
「タカハル様! ――っく」
ルビーが駆け寄ろうとするが囲まれて来れない。やばい、死ぬ。
あいや、大丈夫そうだ。
そのコンマ数秒後、化け物の額から鋭利な白銀色の剣が出ていた。
「大丈夫だった?」
「ったく、遅えよ。スティフ」
「ヒーローは遅れてやってくるってね」
「随分と非合理的なヒーロー様だこった」
あいつは懲りずに攻撃を続けている。氷や風、電気を撃ってくる、色々試しているんだろう。
無駄無駄ァ! 天下のカーボンナノチューブ様だ、そんなやわな攻撃は傷一つつかねえよ。
『使える精霊は?』
『火、水、風、光、幻惑の五つ』
『幻惑を使え、今回は液体魔力で誤魔化せるだろうから。接近できればお前の領分だ』
そう言うと、頷いてスティフに紫色の精霊が幻惑魔法をかけた。これって至近距離で見ると若干霞んで見えるのな。
「〈液体魔力〉」
そこら辺に液体魔力を投げた。スティフが行くのがわかる。そこで、あいつは自分の周囲をとんでもない火で纏った。
スティフが戻って、魔法を解除した。
「無理無理無理無理! 範囲攻撃は天敵だって!」
「あー、放置してりゃ勝手に魔力切れんだろ」
「そ、そっか。そんなうまく行くとは思えないけど……」
「つか、自分んも焼かれんだろ。魔力で生み出してよーが熱は熱なんだし」
ただ、なんか引っかかる。それくらいあんな能力持ったあいつならわかるだろうに。
思案していると、一瞬左後ろから胸がつんざかれたような感覚を覚えた。
すぐに振り向いた。
その先にはサルトロが、血を吐き腹と胸に魔力のガラス片が突き刺さっていた。
すぐほんの数m離れたところにローブを着たあいつがいた。なんで、あの炎の中にいるんじゃ……炎が視界に入る。ちょうど消えたそれの中には何もなかった、いや濃密な魔力があった。
すぐにスティフが駆けた。だが炎を撃たれてスティフは進めなかった。
空の安全を得たあいつは、飛行し始めた。
サルトロが重症なのはまずいがこれを待っていた。
「なんだ!?」
「気づかなかったか? ずっと魔法でちょっとずつ空気を冷やしてたんだよ」
魔力を使える高度は気温に大きく左右される。夏の終わりである今、高い部類入るだろう。だが高度10mあたりを冷やしておくことによって、魔法の使える高度を下げた。あいつは魔法使える高度ギリギリを飛行するだろうからな。
距離が遠すぎて正直俺は当てられる気はしねえ。
「アゲート!」
「はい!」
跳んだ、急いで足場を作る。さらにもう一度跳躍した。
横から風切り音が聞こえた。するとアゲートが横に倒れ、地面に落ちた。俺にも跳んでくる。ただそれはスティフが弾いた。
何か黒い影が飛んできて、あいつが回収された。
呆然と見ることしかできなかった。
いや、いけない。
「アゲート! サルトロ!」
周りに注意しながらアゲートとサルトロの方へ走りだす。
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