耐久
「右翼左翼部隊の増援が来るまで耐えろ!」
アゲート兄が剣を掲げながら声を上げる。指揮を上げているんだろう、ただあれが四十体は正直絶望レベル。だがどうにかするしかない。指揮官の言うように増援が来るまで耐える。
それに警戒するのはあれだけじゃない、ローブ魔法使いも警戒必須、それに伏兵も気にする必要がある。とりあえず知りうる情報を全て渡さないといけない。
「敵は大量の魔力をばらまいている。対策なしで接近されるとそれだけで体が毒される、各々魔力を纏って体に入らねえようにしろ」
敏感化させている魔覚から、全員が魔力を動かしているのがわかる。これで死角の味方の場所もわかりやすい、敵味方の判別がつきやすい。
魔力を杖に溜めていると一体の黒い体毛が生えた人型のよくわからない化け物が爪を振り上げ、こっちに走ってくる。
それをルビーが大剣で腹を叩き飛ばす。
「前のよりも遅すぎます」
「ああ、俺でも目で追える程度だ。それでもこの数はきついな」
さらに敵はタフさを持っている。吹き飛ばされた奴が咳き込みながらも立ち上がっている。ルビーのスイングを喰らってほぼ無傷。
やるか。覚悟は決めた。
杖に溜めていた魔力を放出し、水素原子へと変異させていく。それは勝手に結合し水素分子へと変わっていく。
それを魔力でエネルギーを押し付ける。その時、ローブ魔法使いから魔力を感じ取った。この変異のさせ方は――光子……!
反応が遅れた。気付いた時にはとてつもな光が目を襲った。失明するほどではないが混乱する。目が開けられない、なら頼るのは別の感覚器官。魔力を魔石と心臓に送る。
すると矮小ながらローブ魔法使いの場所がわかった。
「上だ……!」
全力で水素分子のベクトルを上向き、ほんの少しランダムに打ち上げる。
だが当たった様子はない。クッソ。
奴は自軍の中へ入った。くっそ、目が未だに。明順応頑張れ、俺の視細胞頑張れ……瞬きを何回もしながら状況をなんとかしようとするができない。
「囲めー!」
味方の声が聞こえる。一部光からま逃れたのがいたのだろう。五人ほどが奴へ向かってそれぞれ囲った方向から近づく。が、魔法で吹き飛ばされた。死んでないのが幸いだ。
まだ目が慣れねえ。魔覚だけが頼りだ。ただ魔法以外の攻撃をされたらまずい……
それにあれも警戒しないと。十数人程度が戦っているようだが、善戦できていない。
「サティエル、サルトロ。二人は目がなんとかなったら化け物の方相手しろ」
「――大丈夫なのですか?」
「安心しろサティエル、増援までの時間稼ぎくらいはできる。ただ、あいつが飛んだら――サルトロ、銃魔法を使え」
「よいのですか?」
「ああ。周りがなんと言おうが俺が庇う。それよりもあいつを仕留める方が優先だ」
「かしこまりました」
二人に頼んでいる間になんとか目が慣れた。
ルビーとアゲートを連れ、あいつの方へ向かう。
あいつに対して対策しなきゃいけねえのが多すぎる。幻惑魔法は俺なら探知できる、飛行はサルトロに、火はある程度までなら魔力障壁で、今回の光は……いや、二回連続で同じのを使うわけがねえ。
それよりも時間稼ぎだ。
「〈カーボンナノチューブ〉」
大きい範囲であいつを囲む。捉えたならあの化け物くらいの力がないと脱出できないはず。このまま維持しなければいけない、脱出を試みるだろうから完全に魔力量対決だ。
あいつは手を壁に当て、魔法を溜める。ニヤついたかと思ったら、魔力がその周辺の魔力障壁に流れた。
そそて……
破れた。紙くずを軽く引き裂くように。
魔法の中でも魔力障壁はかなり自信があった。押し飛ばされることはあっても、一度も破壊されることはなかった。
それがいとも簡単に――
「チッ、悔しがってる時間はねえか。物理的な壁がダメならこれはどうだ」
三箇所に反射率の極力高くなるような鏡を設置。それを反射してループするように光子を流す、流す量を増やし続ける。
十秒もすればかなり強い光となる。波長はまばらなので白色だ。
後方では戦闘が起きているので結構揺れる、そして木の葉がまあまあ落ちてくる。たまたま一枚が光の束へ舞った。
するとそれはジュッと音を出して、消し飛んだ。
鏡を維持するのがかなり辛い。ガラスと銀を、熱でおかしくならないように維持しているからかなり魔力を喰う。
このまま時間稼ぎされてくれ。
「なるほど、光もここまで束ねるとここまでの力を持つのか。これで魔力切れを待つのも良いが、時間稼ぎをできていると勘違いされるのも癪だな」
どう出る? 予想はつかない、サルトロもこちらを気にしながら戦っている。迂闊に空へ移動するとは思えない。光を壁を立ててゴリ押しで抜ける? それだったら前みたいに酸で無理矢理壁ぶち抜くか。
敵は魔力を溜めてきた。攻撃される可能性もある、鏡を破壊されるかもしれない。だがそれならそこを狙う。
攻守どちらにも対応できるように魔力を溜める。
どうくる……!
魔力がこちらへ移動してきた。咄嗟に魔力障壁を出す、だが気付く。変異していない。
何の為に? 毒狙い? いや、魔力に毒されるのを対策してるのは知ってるはずだ、ならなぜ……
「餌だ無能ども。――転生者、キサマのよく使う手法だ。魔力をそのまま使用する。キサマのように濃密なのを長く保たせられないがある程度なら留めることはオレサマには可能だ」
思いっきりパクられている。魔法使い同士だとその場合も考えなければいけない。
つか、それよりも……ほとんどの化け物のヘイトがこっちに向いている。そしてこっちに向かって走ってきた。すぐに対処しないと――
――いや、俺が対処するべき問題じゃない。
「ルビー、アゲート。頼めるか……いや、信じてもいいか?」
「「お任せください!」」
アゲートの癖にルビーと息を合わせやがって。これで失敗したらタダじゃおかねえ。
「悪いな、俺とお前のタイマンは継続だ。〈高運動エネルギー弾〉」
これは避けられることはわかっている。避けられるんだったら避けれられない密度と範囲にすればいいじゃない、その理論でこの数だ。密度30cm程度で範囲縦3m、横10mの範囲。
喰らえ。
一気に前方に発射すると、そいつが視界から消えた。だが魔覚から消えたわけじゃない。
「穴……塹壕かよ」
だがそれも大丈夫。鏡をその穴の方へ向ける。
周辺が瞬時に発火する。まだ魔覚から消えない、飛んで回避していた。しぶとい奴だ。だが――
「サルトロ!」
「はい!!」
「〈土壁〉」
銃声が鳴るのと同時に土壁が空中で作り出された。決め手に欠ける……!
着地した後、魔力が光子に変えられていくのがわかる。
「その光前方だけに出るんだろ? いいのかそんなことして?」
「そんな中途半端なハッタリは初めて聞いたぞ」
ハッタリじゃないんだがな。
光に変えられ強い光がまぶたの上から襲う。わかって目をつむれたがきつい。
「なっ、くそ」
「へっ、バーカ。鏡のこと忘れてやーんの」
「はっ、わかっていて対処できていない無能に言われたくなどない」
「無能はブーメラン発言だろ」
「オレサマが無能とは、目が節穴のようだな」
「お互い今は使い物にならねえみたいだがな」
「そんなもの互いに今くらい要らないとわかっているだろう」
「タ、タカハル様?」
「時間稼ぎだ。こっちは信じてくれ、そっちも信じてるぞ」
「……はい」
無垢なルビーを背に、魔力で感じ取る。ディスり合いしてただけなんだよな。まあ挑発も戦略の内だし……?
――――――
厳しい。だがタカハル様に信じられたのだ、ここで弱音を吐くわけにはいかない。
私が完全に倒せたと思うのはたった三匹。狙うべきは首、それ以外は骨格が硬すぎる。
だがそう簡単に狙わせてくれない。身長よりも高いところを狙わなければいけない、複数体いて邪魔をしてくる。奥の手はあるがまだだ。
攻防を繰り返していると目に入った状況があった。疲弊した一人の兵が、二体に囲まれていた。武器も落としていた。
助けられない、タカハル様を優先するため。許せ。
だがタカハル様から魔法が飛んだ。二つのこめかみを突き抜けた。だがその一瞬をついてローブ魔法使いが攻撃をしてきた。危険だがチャンスでもある。タカハル様の斜め前に出る。
やれる。この距離なら。
だが、届かない。風魔法で距離を取られた。
すぐに化け物の相手に戻る。増援はまだか……!!
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科学質問も出来る限り回答します(ネット知識なので大したことはできないしガバガバですが……)




