初陣
大丈夫、俺にはルビーが、みんながいる。覚悟も決めた。
小一時間ほど歩いてきた、森を目の前にして覚悟を再確認する。
俺と護衛達は本陣後衛、スティフは遊撃、フローラは左翼らしい。というか戦えることに驚きだ。
スティフが横に立つ。そして目線は森の奥を見据え、話しかけてくる。
「どう?」
「どうって、難しいこと聞くな。――足引っ張りはしねえよ」
「そっか。良かった」
しばらくして、指揮官――アゲートの兄の声によって兵は森の中へ進み始めた。
戦場になることに違わないが、小規模だ。それに奇襲戦なので、密集した形ではなくかなり散開した陣形になる。
あと、森の中なので火は使えない。まあ火事になって村とかまで燃え移ったらまずい。俺はもともと先頭で火を使うつもりはないから大丈夫だろう。
戦闘になるまで魔法は使っちゃダメ。魔覚でバレる。
それから、初めに敵を見つけてもすぐに攻撃しない。合図があってから、奇襲が失敗してしまうかもしれないしな。
仮に敵が近くに来たとしても、護衛を信じる。俺は魔法使いや弓持ちに対して攻撃しなければならない。処理が遅れる方が困る。
いくつもの重要なことを確認していく。
ただし例外がある。……例のローブ魔法使い。こいつが出たら俺含めた有力者全員でかかる、スティフのいる遊撃部隊も呼ぶ。
それだけ危険なことは伝わったようだ。
――にしても疲れる。たまに休んだりはできるが、それでも俺には辛い。これ帰りも歩かなきゃいけないのかあ……
あー、帰りは魔法で足場出して動かせばいいのか。
……数時間ほど歩いた。休憩もはさみながらだが。
「タカハル様……おぶりましょうか?」
「いや……そこまではしなくていい……」
強がるが実際はかなりきつい。軍隊レベルに訓練された人たちと違って俺は学校以外ではほぼ動かない人間だ。かなり辛い。
「今後長い距離移動する場合はタカハル様は乗馬をなされたら良いかもしれませんね」
「乗馬かー……」
アゲートの提案に声を出す。鞍があるのが幸いだが、それでもどれだけ時間かかることやら。スピード出したら絶対落馬する、速度出さなくてもまともに乗れないと思う。
しばらく進んでいると俺の前を歩いているルビーが手を横にして進行を制した。
この合図は、敵。……いる?
〈望遠〉……って魔法は使っちゃダメだ。見えない。さらに少し散開して、ゆっくりと進んでいく。俺は周りに比べて結構後ろを歩く。
十分ほど歩いたところでようやく一つの人影が見えた、それでもかなり小さい。ルビーはどんな視力してんだよ、マサイ族か。
さらに数分歩くと前の兵士が武器を取り出した。弓だ。銃も魔法もある世界だが、意外と弓の需要はある。第一に音も出さないし、魔力も出さない。遠距離の奇襲に向いている他にもあるけど割愛。
なんですけどあの、距離がおかしいんですけど。目測100mは軽くあるんですけど。学校の弓道部を見かけたことがあるが間違いなくその距離の三倍以上ある。
弓から矢が離れる。それから二秒ほど、人影が倒れた。当たった。
その倒れた場所へ向かう。視界に入る、矢が首に深々と刺さった死体が。わかっていても忌避するものがある。だがこんなので動揺している場合じゃない。
深呼吸して落ち着こうとする。が、血の嫌な臭いがする。あーもう…………
しばらくして進み始める。数十分後、ルビーがまた止めた。
「敵の拠点です」
まじ? 一切見えねえ。今度望遠鏡作ろうかな、多分作らせる、になりだろうけど。
また歩いて数十分。ようやく見えた、ちょっと土が盛り上がり、穴が空いている。地下に作ってあるのか。
そしてもう一度数十分ほど歩いた。歩きたくない、辛い。
木に体の体重をかけ、休みながら様子を見る。
もう一度兵士が弓を持った。そして矢をかける。そしてそこへと矢を放った。
弓が未だに使われているもう一つの理由――それは矢に魔道具としての機能を持たせられるからだ。使い捨てになるが、その分魔力を根こそぎ持っていってもいい。
その結果……あのように爆発を起こす。
「火は駄目なのにあの爆発はいいんだ」
「あれは一瞬ですので、木に燃え移る可能性は低いので」
「なるほど」
俺の疑問にサティエルが答えた。
この分だとアジトの中は生きてるやつはいないだろう。仮に爆発をしのいだとしても生き埋めだ。
ただ、右翼左翼部隊がまだ敵を探しているだろう。この拠点がダミーの可能性も十分ある。それを考慮しても一回めで爆発奇襲を行った方が効果的らしい。
さて、ダミーだったらここに攻めてくるか、逃げるか、隠れるか。逃げるという合図はどこからも来ていない。
ただそれでも前進を続けるしかない。
その時だった。
条件反射で後ろを向いた。そのあと理性で全速力で可能な限り大きく魔力障壁を作った。
そのコンマ数秒後、衝撃が魔力障壁を襲う。軽く数百を超える粒が数百N以上のエネルギーで俺たちの方へ一直線で強襲する。
「ッ……とりあえずで凌ぎ切ったか。よくもまあこんだけの魔力を俺からも隠して溜めてたもんよ。それはすげえよ。だ・け・ど、残念だったな」
聞こえてるかわからないが煽り口調で言ってみる。するとやっぱり聞こえたのか今度は魔力障壁の外側が凍っていく。大丈夫、カーボンナノチューブは超低温にも強い。
今度はこっちの番だ。新技いくぜ、〈轟音〉ただの荒技だがな!
魔力障壁の向こう側で魔力を動かす。そして空気の分子、窒素酸素水を捕まえて、それを揺らし波うたせる。そしてそれを重複させていく。
「お前ら、耳抑えろ。」
自分の耳を塞ぎながら後ろにそう告げる。
数秒後、耳を塞いでいてもかなりうるさい音が鳴り響く。前世で聞いたことねえくらい……あー、イヤホンつけて音量間違えてマックスにした時これくらいだったか。
耳壊れるわ、ただこれは向こうも同じ。〈魔覚敏感化〉!
魔石と心臓から発する魔力の粒の量を増やす。
「いた! 1時の方向!」
そう叫びながら魔力障壁を解除するとすごい速度でルビーが駆けて行った。
距離50mくらい、それを五秒ほどで。おかしいんだよなぁ。ただ能力が高いことに文句はない、それどころか賞賛だ。
いけ、ルビー……! 数カ月程度の因縁の対決に終止符を打ってくれるかと思い、願う。しかし期待は淡く、こっちにはじき返された。10mほど前に出てルビーに声をかける。
「怪我は?」
「ありません」
上手く大剣で受け止めて、着地できたようだ。
「まさかもう嗅ぎ付けられるとは思っていなかった。やはりアイツは完全に無能だったようだな」
低身ローブ魔法使いが話し始めた。アイツとは情報吐いたやつだろうな。
会話するつもりはない。魔力を溜め、物質を作る。それを可能な限り運動エネルギーを与えて打ち出す。
「〈高運動エネルギー弾〉」
マッハを軽く超える速さだとは思うが、あっけなく避けられる。いや、エネルギー与えるタイミングで方向が読まれてるのか。
敵兵も少しずつ集まってくる。構わず弾を打ち続ける。
「まあ待ちたまえ。暴れなくともキサマラ全員片してやる」
「かなり余裕みたいだな」
「貴様一人とその兵の人数では勝てない。大人しく降伏しろ」
アゲートの兄が降伏勧告する。が、もちろん敵にそんなつもりはない。
「まあ落ち着け。転生者はともかくキサマラでは勝てない」
「ここにいるのはレギア国の精鋭だ。降伏するつもりがないなら容赦なく叩き斬る」
「精鋭だのなんだの……
キサマラは所詮人間だ。ならば無理だ。」
どういう意味だ?
「キサマラに特別に見せてやろうこのオレサマの研究成果を……! ……さあやれ無能ども、国の家族がたいせつだろう?」
すると敵兵たち、ローブ魔法使い以外全員が紫色の石を腕に刺した。
え、あの化け物が…………四十!!!!????
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