誤魔化し
そばに立つスティフから言葉が発せられる。耳馴染みのない言葉が出る、ただそれの意味は理解できる。
『Can you really kill anyone?』
英語、もしかしたらルビーに聞かれてしまう可能性を避けるためか。
そしてその意味、「お前は本当に人を殺せる?」……か。
返答をせずともスティフは話を続けていく。
『こらから話すのはとても君にとって大切な話だ。君はわかっているよね? 規模は向こうの方が大きい、だからきっとみんなは魔法を大規模で使える君に頼る』
「……ああ、そうだな」
『わかるよ、僕も殺し合いなんか無い世界から来たんだ。できるなら誰も殺したくないよね。――今回、君にそれはできる?』
『…………できる』
『それはその可能性の方が大きいっていう意味?』
なんでこういう時は頭が回るのが早いんだよ。
膝に置いた拳を強く握りしめる。スティフが伝えたいこと、俺がわからなくちゃいけないこともわかる。俺がずっと逃げてきたことだ。
スティフが切り出すにはこのタイミングしかなかったんだろう。
このまま逃げていても、いつか必ずぶつかる。
『絶対に心に決めておいた方がいい。そうでなかったら君は同じことを繰り返すことになる。最悪の場合それ以上だ、誰か失うかもしれない。自分か他人か』
「ッ……!」
ああそうだ、わかってる。やらなきゃやられる世界だ、一瞬の迷いの所為で救える命を救えなかった、なんてこともあり得る。その命がもしも――
どうしようもない気持ちを噛み締めて打ち消そうとする。
『お前は……できる限り人を殺めたくないんじゃないのかよ』
『もちろん。でもその結果周りの人が傷つくのなら敵の体を貫くことも躊躇しない。……迷いがあると誰かが傷つくのを見てしまうことになる』
言葉が出ない。理解できるが感情のどこかでそれを拒む。
『僕は倒した人はとても多いと思う。それに……何人か人を殺した』
『後悔はなかった。――最初以外は。その時は少し前のタカハル君みたいだった』
『お前はこれからもそれをできるのかよ』
『イエス、必要なら。僕は心の底からこの世界に慣れてしまった、悪い意味でも』
誰も彼を責めることはできない。
『君は? 必要ならできるかい?』
「俺は……!」
俺は、なんだよ。言葉にできないことを口走るなよ、みっともない。
自分に嫌気がさして歯をくいしばる。
『すぐにじゃなくてもいい。ただこれは君の為だ、タイムリミットまで三日だ。それまでに決意しないと僕と同じ道を踏むことになる』
そう言ってスティフは立ち去ろうとした。
「待って!」
声を出して呼び止める。
『……俺は、どうしたらいい?』
『それは僕が答えられることじゃない。自分で見つけるべきことだ』
『そんなこと言ったって……何かヒントでもなんでも――』
『……何でもかんでも教えてもらいたがる、それじゃまるで……子供だよ』
分からずじまいでスティフは出て行った。
なんなんだよ、子供って。なんで、そんなこと突きつけるんだよ。
理由はわかる。スティフは俺にあいつの二の舞になって欲しくない。正直、手を血に染めるのをスティフに任せるということはできる。あいつはその分の実力はある。
だけどそんなの無責任すぎる。
それに俺は近くにいた人が誰かを殺すのを何もせず指くわえて見てることになる。それも同じほどショックを受けるだろう。
俺に、人を殺せるのか?
――可能だ。
だが可能なだけだ、感情が足を引っ張るだろう。落ちた腕を見ただけで吐いたんだ。
呼吸が荒くなる。喉が乾く。鼓動も早まる。思考が上手く回らない、あの映像が浮き出る。手が震える。
「ぅ……」
交感神経が変に強く作用している所為で変な声が出る。
「タカハル様、どうなさいましたか?」
ルビーが起きた。起こしてしまった。
「いや、なんでもないよ」
「そんなわけないです。なにも無いのでしたらそうはなりません。体調が優れないのですか?」
まずい、悟られるな。どうにか誤魔化せ、ルビーに心配をかけるな。
「あー、えーと……怒らない?」
「怒るような内容でも言わない方が怒ります」
「うん、それじゃあ、えーと……なんて言うか、隣に美少女が無防備に寝てたら……なんと言いますか……」
「あら、タカハル様さえ良ければいつでも私の体をお好きなように」
「ふぁ!? いや、あの、だめだろ。そういうのは結婚してから――」
……なんとか誤魔化せたか。状況は良くないが心配させるわけではない。俺がまともに戦えないことに、ルビーは必ず気にするはず。そのことがルビーの足を引っ張ることになる。
慣れろ、魔物の時のように。敵は敵だ。
――――――
声が聞こえる。いつの間にか寝てしまっていたようだ。
横からはタカハル様の声が。もう一つ聞こえる、この声は……スティフ。なぜ?
理由を探すため耳を傾ける。意味のなさそうな言葉が聞こえる、寝ぼけていたのかと思ったがそうではなさそう。タカハル様とスティフは同郷だ、最初の時にも私たちには知らない言葉を使っていた。
その時の内容は教えてもらえなかった。きっと今回も教えてもらえない、いつもの言語を使っていないのだから。
「ッ……!」
タカハル様の体が少し震え、私の手を握ってくる。どうする、起きて握り返してあげるべきか。それともこのまま寝たふりを続けるべきか……
どうしようかと迷っていると二人は話を続ける。タカハル様の会話の内容が気になる。なんとか同じ単語を探そうとするができない、同郷である二人が今話すべきこと……わからない。詮索したらタカハル様に嫌われるだろうか……
「俺は……!」
ようやく聞き慣れた言葉が聞こえる。ただそこから感じとられるのは、焦り。何に焦っているのだろうか、自分にはわからない。
スティフの声とともに足音が聞こえる。去ろうとしているのだろう。ただタカハル様がそれを呼び止めた。
だが少しだけ会話しただけで去っていったようだ。
今起きるのも気まずい。特にタカハル様に異変がなければ聞かなかったことにするべきだろう。
その時、タカハル様の体が震えた。呼吸も荒くなっている。狸寝入りしている場合でない。
「タカハル様、どうなさいましたか?」
「いや、なんでもないよ」
「そんなわけないです。なにも無いのでしたらそうはなりません。体調が優れないのですか?」
それくらいの嘘は簡単にわかる。私に心配をかけないようになさっているのも。
「あー、えーと……怒らない?」
「怒るような内容でも言わない方が怒ります」
たじろぐタカハル様の目を見つめる。タカハル様のためになりたい、なんでも言って欲しい。タカハル様が抱えることを吐き出せる、最も近くにいる私はそんな恋人であるべきだ。
「うん、それじゃあ、えーと……なんて言うか、隣に美少女が無防備に寝てたら……なんと言いますか……」
「あら、タカハル様さえ良ければいつでも私の体をお好きなように」
このタイミングで、なぜ? 私は毎日寝食共にするほど一緒にいたわけで私に欲情する場面は他にもあった。ただまともにこんな反応を見せたのは初めてだ。しかも体を寄せて寝ていただけで……
期待はあったが嘘ということがすぐわかった。
「ふぁ!? いや、あの、だめだろ。そういうのは結婚してから――」
タカハル様はしどろもどろに返答する。
なぜ、本音を告げてもらえないのだろうか……どうして、そんな嘘で誤魔化すのだろうか……
私は……私は、まだ………………
心の底ではタカハル様に信頼されていないのだろうか。
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