侵食
「はあ、良かった」
サティエルの治癒魔法でルビーの傷は治った。傷跡もなく。
「やっぱり傷跡がある女性は嫌……ですか?」
「えーと、嫌いにはならないよ。でも責任は感じると思う」
現に責任で押しつぶされそうだ。俺がもっと警戒していれば……
「私は護衛なんですからタカハル様のために傷を負うのは当たり前です」
「でもそれと同時に恋人なんだから。俺のためでもルビーが傷つくのは嫌だな」
そう言うとルビーは顔を赤くして突撃してきた。
「タカハル様! これ以上にないほどお慕いしております、大好きです!」
「俺もだよ」
「コホン」
サティエルの咳払いで我に帰る。これじゃあただのバカップルだ。
「はい、ごめん。で、なんだっけ?」
「報告です。まず、こちらの研究所では男が耳から血を流して倒れていました。残念ながら例の転生者の孫ではありませんでした。現在サルトロと複数の騎士が地下牢に運んでいます。魔法封印の首輪をつけて、手足を切り落とす予定です」
「お、おう」
えげつねえ、戦争中だから仕方ないっちゃ仕方ないか。俺が見るわけでもないし。
「それで、ポリグラフの使用をお願いしたいのですが」
「ああ、自由に使ってくれ。で、俺の方か。例のローブ魔法使いが出てきて、壁が壊れて、ルビー軽傷。そいつの左腕をアゲートが切った。端的にこんなとこか」
アゲートがドヤ顔。まあそれだけ仕事したし。残った腕が見て吐いたけど。夢に出てきそう……
色々と話し合っていると数人のメイドさんが服を持ってやってきた。ルビーの服は所々破けてる、俺も袖をちぎってしまった。ルビーは小屋の中で着替える、俺は外だ。上だけだし。
「夜になるとだとかなり涼しいな」
そんな独り言をつぶやいてさっさと着替える。もう夏も終わり始めている、こっちに来てもう半年か。母さん父さん、今頃どうしてんだろ? 同じだけ時間が進んだとは思えないが時間が進んだことは間違いない。
悲しんでくれるとは思うけど……
会いたい
「……っ」
感情を噛み殺す。過去のことを考えるなよ――
――わかってるだろ、俺。
「タカハル様?」
「あー……寒くてちょっとブルっただけだ。心配すんなサティエル」
今みたいなこと絶対にルビーの前で考えるな、必ずボロが出る。弱音吐いて泣き虫の俺はもう終わりだ。頑張らないと大切な人が傷つけられる。
ルビーが出てきて部屋に向かう。三、四時間くらいしか寝れないだろうが出来る限り休息は必要だ。
どうしたら、自分や大切な人の心や体が傷つかずに済む? いや、俺はいい。だがそれだとルビーが悲しむだろうから俺の心は表だけ取り繕える程度ならいくら傷ついてもいい。
そのために敵の完全に無力化。……その為にやっぱり航空機か。焦らなくてもいい、ただできる限り早く実用可能まで作り上げる。
………………
朝、眠いが頑張って起きて朝食を取る。ルビーには無理しなくていいと言ったが眠そうな顔をしてついてきた。ただでさえ朝に弱いのだから無理しなくてもいいんだが……
「まず昨日は向こう側にかなり損害はあったはずだから、しばらくは来ることは無いと思う。二回目以降の襲撃にいたローブの魔法使いも傷が癒えるまで時間はかかるだろうし……」
「はい、それは勿論です。それに捕虜も得られました、拠点をこちらから攻めることも可能かと」
サルトロが言った。そうか、確かに拠点があるのか。一々国から来るわけがないのか。
「ああ、そういえば捕まえられたんだったな。吐かせられそうなのか?」
「十日はかからないでしょう」
とりあえずそれ待ちだな。ポリグラフが役立ってくれればいいな。
「ああそうそう、ポリグラフってのは精神的に追い詰めるっていう効果もあるからな。思い込ませるのもありだな」
そう言うとサティエルとサルトロは頷く。あーと自白系でなんかあったかなぁ? 心理学……悪い警官、良い警官か? 宗教だと意味ない気がするな。あん? 宗教……無宗教……
「この顔は何か恐ろしくも秀逸なことが思いついた時の……!」
「タカハルくーん、デーナちゃん怯えてるよー……」
ルビーとスティフの声で正気に戻る。ゲス顔が出てたらしい。この作戦は食事が終わったら伝えよう。
さてさて、いつもの研究室だ。
「タカハル様、今度は何を思いついたのですか?」
「身の程知らずで俺を暗殺しようとしてきたエルフがいただろ?」
結局ダメで眠落ちして俺に体を寄せているルビーを支えながらサティエルに答える。
「あいつ今どうしてるかわかるか?」
「確か監視下で生産率の低い農地で働かされていると」
ここでも検知が役立ったか。
「そいつ連れてきて、捕虜を助け出す演技をしてもらう。で、そこで場所を聞き出すことに」
「怪しまれると思いますが……」
「まあそうだろうな、サルトロ。でも手足失って魔法も使えず精神が不安定な状態だ。判断力鈍ってる状態で『助ける』って言われたら吐いちまう気がするんだよな」
ものは試しだ。ダメだったら別の方法考えれば良い。
………………
やっと来た、頼んでから一週間かかった。まあ交通手段が馬車が最速の世界だ。時間がかかるのは仕方ない。
やってもらうことをそのエルフに教える。
「えぇ、それを自分が……」
「お前以外に誰がいるんだよ、演技が下手くそでもいいからやってくれ。頼む」
嫌な表情をしながらもやってもらうことになった。まあ俺の裁量次第でこいつはどうにでもできるからな。向こうもわかってるだろうし。
さて、このエルフと地下牢まで来た。今回の捕虜が捕まってるのはもっと奥。二階降りたところでエルフだけが前に行く。
「おい、起きてるか?」
「……ぁ?」
「助けに来た。」
「――――」
捕虜側は何言ってるかわからない。なんかごにょごにょとしか聞こえない。距離が遠いな、音を拡大できないかな……スピーカーとか再現しても近づかないと意味ないしな。
「え、えーと、それは謝礼目的だ。助かったらたんまり金をもらうからな」
「――――」
「あんたの仲間の場所を教えてくれ」
「――――」
「ジルコ領の東の森林のど真ん中だな」
「――――」
そこまで聞いてエルフがこっち向いた。
「だ、そうです」
「おう、聞こえた。んじゃ、帰るぞ」
そのエルフは牢屋の方に申し訳なさそうな顔をして俺らの後ろを歩いた。騙された方はたまったもんじゃないだろう。不思議と罪悪感はない、心が戦争に侵されてきたか。前世だったら絶対にできないだろう。
去っている中、慟哭が聞こえたがそれでも罪悪感はなかった。
こう思えてる内はまともなのだろうか……
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