全力戦闘
自分より頭一個分くらい小さな相手を10mほど先で見据える。ルビーを傷つけられたことに怒りで頭がいっぱいになりそうだ。
だが冷静さを失ったらいけない、アドレナリンやらなんやらで血糖値が上がったのを怒りに回すな、頭の回転に回せ。
優先順位はこうだ、
1、俺とルビーの安全
2、敵の無力化、可能ならば捕縛
3、周りへの被害を最小限に。
よし……あれでいくか。
杖を掲げる、魔力を床壁天井に流す。それをカーボンナノチューブに変える。ただ変えるだけじゃない、分子ごとに同じ方向だが間を少し開ける。
ベンタブラック
世界一黒い塗料なんて呼ばれる。カーボンナノチューブの隙間に光子が入って抜け出せずに光が消えてしまう。そうして反射率が異様に低くなる。
人というのは外界の情報をほとんど視覚に頼っている。魔覚があるとどうなるかはわからないが、それでも視覚には勝てない。
つまり視覚が機能しなくなれば情報は極端に減る。というわけで俺のすぐ後ろに魔力障壁を置いてベンタブラックを塗る。ルビーは俺のことを確認できなくなるが、きっと信じてくれるはず。
俺の前にもベンタブラックが塗られた魔力障壁。これで視覚は機能しない。さらに追い討ち、量が少しずつ違う液体魔力を数滴ばら撒く、足元にも一滴。これで魔覚は意味を成さない。
さらに聴覚もだ。魔法で大きな音を敵に向けて撃つ、土壁タイプの魔力障壁を立てられて弱くなるが場所さえわからないのであればいい。
ここから攻める!!
前へ走り、魔力を溜める。それを変化させて前に飛ばす。〈プロペラ飛ばし〉×2
相手の魔力障壁は崩れる。すると魔覚が察知する、火だ。幸いにも1000℃を超えているわけではなさそう、自分の周りだけ魔力障壁で守る。
火炎が数秒ほど起こる。次は斜めに移動してもう一度液体魔力をばら撒く。そのためにまず左右と上の魔力障壁を消す。
!? 息が、空気が……
焦らず100ml程度の酸素を肺に入れる。仕方ない……壁壊して空気を入れ替えるか。ベンタブラックを消して……いや、消して死んだふり……だめだ、ルビーが計算に入れられない。
結局壁をぶち壊した。
ガス作戦か、ならこっちもやってやるか。
杖を持った右手に魔力を溜める。隠しもしない。
もちろん相手も警戒する。当たり前だこの杖に送った魔力は………………
ただの囮だ。
「ルビー!!」
「はい!!」
彼女はそう答えると、俺の横に出てきて左手で作ってい魔力障壁の箱を蹴り飛ばした。
敵は急いで三種類の魔力障壁を作る。これも予想通りだ。
右手の杖に溜めていた魔力を急いで変異させて射出する。
「〈マジック酸〉!!」
フルオロスルホン酸と五フッ化アンチモンの混合酸。硫酸、カルボラン酸なんかと比べ物にならない、超酸。その酸は金属はおろか、ガラスすらも溶かす。
熱を持ったマジック酸はルビーの蹴った箱の先を行き、鉄板魔力障壁を溶かし、ガラスを溶かす。流石に量が足りないのか土壁で止まる。
十分だ。
強固だが薄い魔力障壁の箱。それは魔力圏を出ると少しずつ消えていく、中身も少しづつ消えていくが量があるので問題ない。
中身が出る前に俺とルビーの前に魔力障壁を設置する。
二秒ほど後に、轟音が響く。箱から出てきたな、その正体は亜酸化窒素。麻酔なんかに使われるガス、笑気なんて呼ばれ方もする。
「吸うなルビー!」
可能な限り自分の近くの魔法で出来た気体を魔力に戻す。
だがそれも限界がある。
横のルビーがちょっとふらついた。
「ちょっと吸っちまったか。休んでおけ。」
近くの気体を魔力に戻してルビーを座らせる。
亜酸化窒素に気をつけながら前に進む。敵は倒れている、魔法は魔覚では感じられない。
……さて、どうするか。やられたふりだったら面倒なんだよな。
もう一回亜酸化窒素を吸わせればいいか。
魔法で箱の中に圧縮して入れて放り投げる。
すると敵は横へ転がった。やっぱりやられたふりかよ。
「〈激流〉」
敵はそう言い放った。その魔法は覚えがある、化石の時サティエルとサルトロが使った魔法。それをここで、なぜ?
――俺の魔法をこっちまで飛ばすのか! 解除解除!
……危ねえ、なんとか消せた。
だが大量の水は敵の近くに残っている。こっちに向かって撃ってくる。
ルビーと俺を守るように魔力障壁作る。
ギリギリ間に合った。左右上にとんでもない水流が押し寄せるが直撃はしていない。
数秒ほどで収まった。多少水を被ったが時間が経てば消える。
魔力はまだ余裕はある、半分以上使ったが。……どうするか……
どう手を打つか思案していると魔覚が捉えた。敵の魔力が変異している。この変異の仕方は……電子だ。
まずい、手を前に向けてきている。
「ルビー、跳ねろ!」
そう言うとすぐに俺を抱えて後ろへ跳んだ。絶縁体、絶縁体、絶縁体――タイムリミットが近い。
……! 二酸化ケイ素、ガラス!
足元と前にガラスをつくる。そのすぐ後に敵の手から一瞬光ったのが見えた。
「チッ」
舌打ちをされる、ギリギリ間に合ったっぽいな。
だが手がない、それにこっちの放電はリスクがある。とりあえずダメ元で亜酸化窒素を飛ばす。こっちには来ないように。
しかし敵はすまし顔で立っている。
「やっぱ毒ガス対策は十分ってか」
「種類は違うが自分もやったのだ、当たり前だろう」
「……! おしゃべりできる余裕はあるみたいだな」
「それはこっちの台詞だ、転生者。〈グラビティ〉」
重力魔法か。それの対策はできてる、重力魔法ってのは名前だけで実際には上から力で押さえつけてるだけだ。その分押し返せばいいだけ。
抵抗はできてるが、止める様子がない。魔力量勝負か……結構使ったからそれはまずいかもしれない。
戦闘が始まってもう二分は経ったか。どうりで――
「毒ガス対策はできてるとか言ってたな」
「タネは明かしてやらないがな」
小馬鹿にしてきたような感じで言ってきた。だがそれを鼻で笑い返して言ってやった。
「じゃ、こんなのはどうだよ」
「なっ!?」
50mlくらいの魔力液体を飛ばしてやった。全力で後ろに跳んで自分自身に魔力を覆ったのがわかった。
「ハッ、キサマはアホのようだな。いくら転生者と言えど無限の魔力など無い、あれだけ使えば人が持てる魔力はもう無い」
「ああ、アホかどうかはともかく魔力はもうねえ」
液体魔力はすぐに気化する。ルビーの前に出てギリギリ残る魔力で濃度の高い魔力を弾く。
「だから俺のターンは終わりだ。勘違いすんなよ、次はお前じゃねえ」
敵の後ろからスッと一つの人影と紫色の光の玉が出てくる。アゲートとスティフの精霊、あんだけでかい音出せば来てくれるのも当然だ。
それでアゲートは今城の中では近距離戦ではルビーの次に強いレベルだ。そんなアゲートが剣を振り下ろす。
敵は魔力障壁は間に合わないと思ったのか風魔法で無理矢理アゲートから離れようとした。だが左腕を持ってった。
敵は腕を失ったというのにパニックにならず窓に風魔法を使ってぶつかりに行く。魔法がないから遠距離攻撃は警戒されてないんだろう。
杖に紐を使って着けていたそれをルビーに渡す。彼女は投擲技術も持っている、この程度の距離は問題ないと知っている。
ルビーは右手で投げつけた。魔力障壁で防がれる、が咄嗟に出たその程度の強度なら……
無理だった。ガラスの球に仕切りで小さい金属ナトリウムと水入れて反応させて爆発させる。とは言え量が少ない、所詮はアルカリ金属レベルだから威力が弱い。
そのまま敵は落下していった。ルビーが窓に走って玉を大剣に変えて下へ投げつけた。轟音が響く。
俺も確認する、当たっていない。地面に突き刺さっている、敵は確認できない。止血されて幻惑魔法か。
……今回は腕は持っていった。部位欠損が治ることはないようだから、ギリギリ勝ちか。
「……結局ルビーに頼っちゃったな」
あんな粋がったこと言ったくせに、だ。
「はい。でもそう言ってくれたのは格好良かったです。あの時頼ってくれたのも嬉しかったです」
背中に魔法で文字書いて伝えていた。あれは今になると自分でなんとかできたと思うが、ルビーがそう考えてくれているならいいか。
……眠くなってきた。魔力切れか、だがここで倒れるのは本当にルビーに悪い。俺を庇って怪我をしたんだ、その上で俺を介抱するのは煩雑だ。
「とりあえずサティエルのところに行ってルビーを治してもらおう」
「はい」
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科学質問も出来る限り回答します(ネット知識なので大したことはできないしガバガバですが……)




