メガミ
ルビーをベッドに横にさせて布団をかける。泣き疲れてしまったのか、ぐっすり眠っている。あんだけかっこよく戦えるとはいえまだ俺と同じ16だ、俺と同じく泣きたい時は泣きたい。
ベッドから歩いて窓を開けて外を眺める。相変わらずの夜景、街も明かりのついている家は少ししかない。
「見てんだろ、性悪女神」
淡い期待を胸にそんなことを呟いた。しかし何も起こらない。
だろうな、そもそも物理的に干渉できないとか言ってたんだ、音で伝えるのは無理だ。俺も寝よう。
………………
『見てるよ』
「ん? ……は?」
気づくといつぞやの空間にいた。大体二ヶ月半前の、よくわからん女神と会った場所だ。
状況を整理しろ、俺は自室で寝てたはずだ。明晰夢……じゃなさそうだな。
目の前にあの性悪女神がいる、人の姿で。
「どういうことだよ」
『おお怖い怖い。前に会った時とは大違い、あんなにおどおどとしてたのに』
人間の体で人間の言葉を発してるが妙に違和感がある。
「前は怒らせたらどーなるかわからなかったからな。でも俺をどうにかしたらお前にとって都合が悪いんだろ。それよりも質問に答えろ、なんでわざわざ今現れた?」
『そうだねー、君がすごい会いたそうにしてたから、かな』
「は、やっぱ性悪だな」
『そんなことを言われる筋合いはないなー。第二の人生を歩ませてあげてるのに感謝はされど怒りをぶつけられても、ねえ。戦争をさせるには潜在的に戦争思考にさせないとそうしてくれないんだよ』
怒りをなんとか押さえつけていると「あと」と言ってきた。
『君が合理的に、知りたいことは別にあるでしょ?』
「レックス国の戦地への戦力の割り振り、弱点、機密情報、手っ取り早く勝つ方法」
『悪いけどそれは教えられないね』
「結局はゲームかよ」
その発言に多弁な女神は何も言わない、否定しない。
「――じゃあさっさと教えろよ、勝利条件」
『そう、君のメモを見て、これは伝えられる許可は出たからね。さっさと言っちゃうと降伏させたら勝手に敵の宗教は消えてくよ』
「なぜ?」
『どうしてだろうねー」
「チッ」
思わず舌打ちが出る。これは教えてもらえない、か。
――怒りで頭を埋めるな、必要な状況を叩き出せ。
「そもそもこれってどうやってんだ、俺の体が部屋から消えてたらパニックになるだろ」
『どっちかっていうと、無理矢理記憶に打ち付けてるだけだからね。君の体はベッドの上だよ』
海馬だかニューロンに無理矢理情報を入れてる……のか? 記憶については俺の世界ですらわからないことが多い。
『伝えないといけないことは伝え終わったから。あとは頑張ってね、もし戦争に勝てて君が生きていたらどういう風にしてもらっても構わないからね。ルビーと家庭を作るのも沢山の女の子侍らすのも世界を支配しようが自由さ。君ならなんでもできるだろう? だから繰り返すけど頑張ってね』
魔法は……使えねえ。身体を動かすのは違和感なくできるのに。いや、そもそも魔覚が反応しねえのか。
この空間の情報を集めろ。重力定数も体感同じ、地面は見えないようだが実際は空と色が完全に同じなだけでちゃんとある。ちょっと前に5億年ボタンとか流行ったがあれと似たような空間ってわけか。
それで光源は……地面? いや地面じゃねえ、正確には地面だけじゃない。空と地面、上と下からか。手を見て軽く動かしてわかった。
どうにかしてあの横面殴ってやりてえ。今までの、六百年間の、あの世界の犠牲の原因。
『すごい目、とっても怒ってるね。そんなに私が憎いかい?』
「当たり前だろ、何人もの人間を、お前らが遊びで命を失わせて――」
『それの何が悪いんだい?』
悪びれる様子もなく、表情を変えずにそう言うあいつに言葉を失う。
『君ならそれがどれだけ自分に返ってくる言葉かわかるはずだよ。ネズミ、カエル、魚、虫、そして多くの微生物。君の世界では科学の発展を理由に数え切れないほど命を奪った。私たちにとって君達というのは、それだけ矮小な存在、なんなら作れてしまうくらい。いくらでもだ』
「…………」
『それらと、私たちの遊び。何が違うっていうんだい?』
「……あーハイハイわかったよ」
言い返せねえ。感情論でこのモヤモヤを言い放ちたい、だけど性悪女神の言ってることを言い返せない。でも、だって、そんな言葉で不満――その程度の単語じゃ収まらないほどの気持ちをぶつけたい。
だけど、どう頭を巡らせても自分の中でその反論を完結できてしまう。
俺の知恵が足りねえ……
……悔しさで奥歯を噛み締め、手を握りしめる。
「それだけお前らからしたら小さい存在なのかよ」
『そうだね、体も心も簡単に改変できる。君にとってわかりやすく言うと……ゲノム編集も内分泌系の操作も、ニューロン内のタンパク質の記憶も、全て簡単にできる』
「…………」
『そうだ、今だから言うけどもし君の世界が勝てたらある程度世界の改変ができるようになる。周りの女の子達、いや全ての子が君に対して強い好意を持たせられることもできる。終わったらもう一度会えるけどそこら辺――』
「ふざけてるのかよ!!」
人の思考を軽く踏みにじる。結局神なんかそんなもんだ、自分より下だからと簡単にそんなことが言える。やっぱりブーメラン発言だがそんなの許せねえ。
「誰が望むかそんなこと……そんなので誰が喜ぶかよ!」
『へー……それじゃあ今は渡せないけどたくさんの真理を渡せる。君が世界について知りたいこと、なんでもだ』
近ずいて「魅力的でしょ」と横から語りかけられる。
「要らねえよ」
そう言い放った。あいつも意外という表情をしている。
「んなもん自分で見つけてやる。しかも聞けるのは一回だけだ、そんな権利いらない。矮小な生き物、ただの原子の集まりを舐めんなよ」
上から目線の女神に睨みつける。
「そもそもラプラスの悪魔は量子論の不確定性原理で否定されてんだ。残念ながらお前らが未来、過去と全知全能じゃないのはわかってる」
『ふーん。そうかい、それじゃあ何を言っても無駄そうだね。でも現状周りからの存在価値は戦争で得られている。それもちょっと手厳しい評価のようだし。君が戦争を止めることはないだろうから言うことはないよ』
そう言いながら周りをうろうろと歩く。
『じゃ、もうそろそろ時間だから』
その言葉を聞くと意識を失っていった。
無意味でもなんでもいいから、とりあえずで殴ってみれば良かった。
………………
カーテンの隙間から差す弱い陽光で目を覚ます。……性悪女神が――
あああああ、変なプライドで要らないとか言わなきゃよかった! 合理的に考えたら普通全部いるところだろ!! バカじゃねえの俺!
「はぁ……ま、いいか」
もとから手に入れられると思っていたものではない。悔しさはあるが、そんなことで頭を抱えるなんてどうでもいい。アホほど非合理的だ。
何にも考えずルビーの寝顔眺めてる方がよっぽどいい。
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