宗教
「それで、欲しいというのはなんですか?」
サティエルが研究所で言った。
「それは……人とそれを動かすための馬車。後はある程度のタンクと建材」
「それは何のためでしょうか?」
サティエルのその質問に対して一枚の紙を広げた。それはここ周辺の地図だ。だがここから東へ離れたところに赤い丸で印がつけられていた。
「何これ、宝でもあるの?」
スティフの言葉に「正解」と声を出す。
「一体どんな宝が……!」
「アゲートがすぐ喜ぶような宝じゃないと思うがな。大昔の生き物の遺骸だ」
「化石……?」
「半分正解ってところだな、スティフ。これから取りに行くのは石油だ!」
護衛組は疑問を顔に出す。そりゃそうだよな、石油って単語自体がねえ。スティフは思い当たるところはあるようだが。
「石の油って……『oil」のことかい?」
「ああそっか、英語だと油も石油も『oil』で一括されてんのか」
「タカハル様、それでその石油というのは……?」
サルトロが聞いた。
「うーんとそうだな……スーパー効率のいい燃料の素。諸説あるが、よく知られてるのが数億年前の生物の遺骸が腐って分解されずに液状化したもの」
「数億…………って、えーと、私の記憶が確かなら聖書だと世界ができたのは数千年前と……」
サティエルが言うようにそりゃ宗教のせいで信じられないかもしれない。俺の世界でも一悶着あった。
「いやまあそもそも世界の始まりの定義が科学と宗教で違うんだがな。聞いてたとこだとあれだろ、数千年前に女神様が何にもない大地に海、山、草木に動物達を創ったと」
そう言うとサティエルは「はい」と言って頷く。
「まず最初に生物が生きていけるような大地ができるのが天文学的確率なんだよ。えーと……」
スティフの元によって耳打ちする。英語で。
(『この世界で信じられるのって地動説? 天動説?』)
「僕にはわからないかな……」
どうしよう…………もしもガリレオみたいに異端扱いされたら……魔力障壁の殻にこもるか……大丈夫のはずだ、転生者は宗教的に高い立場の人間!
あれ、そもそも地球平面説? 球体説?
冷や汗でてきた。……ええい! どうなっても知らね、科学が全部正しいんだ!
「まず太陽、あれはバカみたいな物質の集まりだ。プラズマ状態で全部バラッバラだけどな。で、そのでかさは……大体この星の百十倍くらい。俺らのとことほぼ同じだな。」
その発言にやっぱりサティエルが突っかかる。護衛組みんな驚愕の表情を浮かべる、スティフは苦笑いだが。
「タ、タカハル様、今流せないような言葉が何度もあったのですが、まずこの星って我々がいま立っている大地のことですか?!」
「うんそう。この世界に来てかなり早く調べたな、まずこの城の高いところから平原の方眺めると山が見えるけどダイアモンド作った時平原行ったがあの時は山は見えていない、この大地が平面だと説明がつかない。あとはちょうど三十日くらい前に月食があってな、それも月が丸の影で欠けていくのが証拠になるな。もう一つ、海行った時微妙に水平線が弧を描いてるのが肉眼でも確認できたんだ。あと六分儀の測量でこの星の規模が俺らのとことほぼ同じってことはわかった」
「あの時何かなされてましたね。」
化け物貝食ってる間どさくさに紛れて六分儀で測量やってた。知ってるのは多分ルビーだけだと思う。
精度はクソだけどな。
とまあ、色々とずらずらと並べたけどどうなのか……護衛組の様子をうかがう。
もうほんと宗教やだ……
すると考え込んでいたサティエルが口を開いた。
「確かにそうかもしれません……ですけどそれをあまり大きい声で言うのは良くないでしょう、タカハル様のことをよく思わない人間も出てくるでしょうから。そして他のこともタカハル様が言うならおそらく正しいんでしょう」
「お、おう」
何とかなった。これ普通の流れ転生者だったらやばかったな。
「皆さんもいいですね?」
そう言うとアゲート以外が肯定した。何でアゲートがそうしなかったのかというと……
「自分には話の内容がさっぱりなんですけど――」
「わかんないんだったらわからないまんまでいいと思うぞ」
そんなこんなだかスティフが「結局何で石油取りに行くの?」と言った。脱線しすぎたな。
「地上の燃料は全部魔法でいいんだ、これで全部わかるだろ?」
すると護衛魔法組とスティフが声を揃えて「飛行機!」と言った。
「正解だ、他にも使い道あるけど。まあ今回は準備が多いから行くまで時間はかかるだろうな」
「……あれ? 僕もしかしてまた留守番……?」
「まあそうだけど、行っても面白いことないぞ。もらった情報だと、岩石だらけの悪路、内陸のため水もない。一部の魔物しかいない」
「やっぱり城でゆっくりしてる方がいいや」
……まあスティフだしな。
「じゃ、後で詳しく必要なものまとめておく。俺の方でも用意しておかないといけないものがあるからな」
………………
夜になって、ベッドの上でルビーを横にして座る。
彼女の名前を呼ぶと「はい、なんでしょう?」と返す。
「勘違いだったら悪いんだけど、もしかして体調悪い?」
「……どうしてそう思ったんですか?」
「いや、なんかいつもより話すのが少なかったり……あんまりいい表情はしてなかったから」
「……はい、あまり気分が優れなくて――」
「本当? 無理しなくても休んでればよかったのに。というかすぐ休んだ方が――」
するとルビーが「いえ……」と言って体を寄せてきた。
「昨日のことでして……」
「…………ぁ」
「タカハル様を責めるようなことではありません! ……あの、実は…………」
ルビーは言いずらそうにしていて視線が定まっていなかった。
「タカハル様の仰っていたことは、その、合理的に考えて正しいと思うんです。ですのに……心のどこかで……」
彼女は手を俺の手に伸ばしてきたが、途中でやめて戻した。気づくとルビーは涙ぐんでいた、だけどまだどうするかはルビーの話を聞いてからだ。
「タカハル様を戦争に、利用しようと考えてしまって――すごい自分が気持ち悪くて……タカハル様の恋人で愛を語っていたのがこんな卑劣で――」
そう言ってルビーは少しずつ俺から体を遠ざけていった。
だけど俺は何も考えず追いかけるように両腕を出して抱きしめた。何も考えずというより思考が言語化するよりも早く。
「ルビーが俺のこと引っ叩いた気持ちがすごいわかるよ。好きな相手がこんなだと、いや、俺にとってはルビー自身を貶すより俺のことを言ってもらった方が全然マシだ。俺はお前のためなら、本当にお前のためになるなら利用だってなんだってされてやる」
「タカ……ハル……様…………どうして、合理的なあなた様が、そんなに私に……タカハル様にとってこんな考えをする私に――」
「合理的じゃないってお前が教えてくれただろ! 合理なんかほっぽり出せるほどお前が好きなんだ。今までこんなことなかった。あ、心壊れてた時はなしな。なんていうか、強いて言うなら合理的思考の目的の一番がルビーなんだ」
腕の中で泣いてしまっているルビーに対して抱きしめて声を出す。
「……タ、タカハル……様…………」
「なんだ? なんでも言ってくれ」
ルビーの声は震えていた。目を合わせてくれなかったが、抱きしめる力を強くしてようやく目を合わせてくれた。
だけどそれで気づいた、声だけじゃなくて体も震えていたことに。
「昨日に宗教が違っても問題になったことはないと言いました」
その言葉に相槌を打つ。
「あれは、嘘です……王族しか知らないことで、とても昔のことですが、戦争を争いでなく終わらせようとした転生者様がいました。ですけど…………隷属の首輪という魔道具で……むり……やり……従わせて……戦争に……」
「言いずらいならもういい、大体のことはわかった」
昔に和平させようとした転生者がいたけど隷属の首輪とかいうので原理はわからんが無理矢理戦争に送り出させたと。もしかしたら俺もその転生者のようになってしまうかもしれない。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「謝らなくていい、よく言ってくれた、辛かっただろう」
そう言うとルビーは俺を強く抱きついた、しがみつくように。そして声を出して泣きじゃくっていた。
――簡単に和平で解決できないってこいうことかよ。
あの性悪女神が…………!
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科学質問も出来る限り回答します(ネット知識なので大したことはできないしガバガバですが……)




