違い
パシンと音が上がる。
ルビーは不満な顔をして俺のことをビンタした。突然なことに戸惑っているとルビーの口が開いた。
「愛していることを疑われたら私も怒ります! 私が愛しているのは転生者としてでもなく、タカハル様の能力でもなく、タカハル様自身です!!」
その言葉を理解すると負の思考が消えた。
「確かにタカハル様に好意を持つまでにそれは必要だったかもしれません。ですが……ですが、タカハル様を愛したいと思ったのはそんな理由じゃありません!!」
熱弁するルビーに目を合わせる。
「この行為は護衛として――いえ、誰としても許されることではありません。ですが恋人として私の愛をわかって欲しいんです。タルク教徒としてどんな仕打ちも受け入れます、ですが恋人としてタカハル様にわかってもらいたいんです、考えていたことが無用だってことを……!」
ああ、そうだ。ルビーにビンタされてわかった、考えてたことがただの杞憂だってことを。
「私は頭が弱いのでタカハル様のように合理的に考えるというのは難しいです。ですので合理的という風に考えていません、ただタカハル様が大好きということです」
合理的だけじゃない、そう彼女の母親の言葉を思い出す。不満そうな顔だが少し笑顔が垣間見える。すると涙が出てきた、ああクソここ最近交感神経涙腺に作用しすぎだろ……!
「あ! 申し訳ございません、感情的になってしまって、それに痛かったですよね――」
そう言って彼女は手を俺の左頬に添える。さっきとは違い力強さはない言葉だった。
「いや痛くて泣いてるわけじゃねえよ、痛くないわけじゃないけど――なんていうか、安心したんだろうな。居場所があることがわかって」
痛みに耐えながら笑顔を作る。敵にボッコボコにされた時あったけど、これはこれで痛い。だけどその分得られたものはあった。
「ありがとう、ルビーがそう言ってくれて支えられたよ」
「いえ……本当に大丈夫ですか? タカハル様がそう仰っても少々赤くなってますし……」
「大丈夫だろ、こんなんすぐ治る」
「ルビー、もう一個話したいことがある」
ルビーの手を取り、目をまっすぐ見てそう言った。すると彼女はその言葉を真剣に捉えたのか顔をただす。
「先のこと考えすぎかと思うんだけどさ……戦争が勝利で終わってレックス国の人々はどうするべきと思う? タルク教ではないだろ」
「タルク教に改心しないなら全て粛清すべきです」
ッ……予測はしていたよ。こんな世界だから……それにタルクは精神的には干渉できるとか言っていた。争わせるにはそれくらいが必要だろうから。
だけど……俺には受け入れることが難しすぎる。価値観、常識が違いすぎる。
戦争は常識を狂わせる異常事態というのはわかる、実際俺の世界の歴史でもそんなことはあった。だが終わった後にはそれも終わった。
だがそれに宗教が入るとどうだ? 歴史なんか詳しくないがどうも『降伏、はい戦争終わり』とは思えない。
向こう側が改心するまで攻めるのをやめないということもあるかもしれない。
と、いうかそもそも人口多すぎて不可能に近くないか?
「全て粛清とは言っても土地も人口も大きすぎると思うんだけど……」
「……確かにそうです。ですので、可能な限り」
……また泣きたくなった。常識が違うってこんなに辛いのかよ……
なんとか説得できないのか……
「ルビー、戦争が始まったらどっちか諦めるまで続くものだ。勿論諦めろとこの国に言うつもりはない、向こうに言っても聞かないのは火を見るより明らかだ。でも、もし終わったならわざわざ命を奪いにいく必要はないんじゃないかな……」
「……そうしたら力を蓄えてまた争いを仕掛けに来るでしょう。私たちと邪教徒とは相容れません」
「……俺の世界では宗教が違っても手を取り合っていられたんだよ。そりゃ戦争だって起きたけど終わったら全面的じゃないけど協力できてた」
そう言うと彼女は驚いて目を見開く、だが暗いながらも瞳孔は小さかった。おそらく俺が伝えたいことに感づいたのか……
「この世界でも、絶対に協力しあって世界全員が幸福であるように協力できた方がいいに決まってる、人数の力が――」
「私はタルク教以外はなくなるべきと思います、よくて宗教のない亜人たちでしょう」
「……他の宗教の人と一緒に努力して作り上げたならタルク教だってより幸せに――」
「邪教徒によって作られた幸せなんて、それはもう幸せではありません」
……俺はいろんなことを甘く見ていた、宗教だから和平は難しいどころじゃない。先のこと考えすぎかもしれないが、これは戦争が終わったら虐殺が始まる、それはきっと俺の科学も使われることになる。そんなのは嫌だ、戦争が科学を進めたことは認めよう。だけどこんなのは……
「タカハル様……女神タルク様がこの美しい世界を作り、美しくなるよう私たち人々を導いたのです。それなのに女神タルク様を敬わない彼らは死をもって償うべきなのです」
「なんで……」
思わずそう小さく呟くとルビーは手を離して言った。
「タカハル様……どうかそれを外で言わないで…………もうお休みになった方がよろしいかと。私はもう寝させていただきます」
そう言ってベッドの中に入った。俺も続いて入る。なんでわかりあおうとしないんだよ……そもそも神は複数いることは確かなんだよ、ここをただの遊びとして見てるんだよ……それでいいのかよ……
………………
朝、朝食を済ませて護衛たちと俺の部屋に向かう。あとスティフもいる。
「それでどうするんだい? この部屋の惨状……」
「引っ越しだよ、壁も穴開きまくってるし寝泊まりできねえよ」
「よし、それじゃあ僕も手伝うよ!」
「あ、移動するの俺の書いた紙だけだから」
「――いや、ほら、紙って量があると意外と重いじゃん?」
「俺か王族以外が見たら首飛ばさなくちゃいけないのが混じってるぞ?」
「怖すぎじゃないかい!?」
部屋の中に入りながら会話を続ける。
「そんだけ敵の手に渡ったらやばいんだよ。俺の武器の一つは情報だ、敵が知らないなら組み合わせ次第で間違いなく勝てる。ただ向こう側も知ったら戦争は激しくなる」
そう言うと護衛たちとスティフが息をのむ。
さてと、紙をまとめて持っていかないと。やっぱ結構散らかっちゃってるな。ん? あれ……しまっちゃったけな……この引き出しは中身変わってない……ここも、ここも……
「ない……ない、ない!!??」
思わず叫んでしまった。……いや叫ばずにはいられなかった。
「どうなさいましたか!?」
ルビーに声をかけられる。
「結構やばめのが無いんです……」
「そのやばめっていうのはなんだい……?」
「……き……」
「え?」
「飛行機……」
「……飛行機というのは言葉通りの意味なら……」
サティエルがおどおどしく話した。
「うん、飛行する機体。空を飛ぶマシン……」
「「「…………ええええええええええええ!!!???」」」
護衛たちとスティフが声を出す。
「えっと、そちらは昨日どこに御仕舞いになったのですか……?」
「……机の上……」
弱々しくサティエルに答える。
「なんで仕舞わなかったんだい?」
「……明日やるからいいかなって……」
屈みながらスティフに答える。
「そちらの紙はどうなってしまったと御考えに……?」
「昨日風が強いわけでもなかったし、穴がそこまで大きいわけじゃないし……部屋のどこにもないし……煙幕張られた時に盗られた可能性が……」
「……それがあったら簡単に飛行機を作れるのかい?」
「作れるけど、多分飛ばせないな。燃料については記述してない、魔道具とか使っても10mやそこらが高度の限界だ、そんな低高度飛ぶだけだったら脅威はない」
正直10mの低空飛行できるパイロットを探し出して育てるのは難しい。しかも元々この世界に飛行機というものは無い。
「俺らの世界の人でもいない限り……」
スティフの顔が視界に入る。……ん? なんか忘れてないか……?
「ん? 僕の顔に何かついてるかい?」
「……あああ!」
「うわっ、どうしたんだい?」
声を上げる俺に対してスティフが驚いて質問する。
「お前みたいな奴がいたらワンチャン飛行機開発されるんだよ!」
「僕みたいな人は飛行機なんか作れないよ……?」
「そこじゃねえよ、流れ転生者だよ!」
その場の全員が顔を青くした。マジでやばい……
「本当に申し訳ございませんでしたあっ!」
護衛たちに向かって土下座をして頭を地面に擦り付ける。
「タ、タカハル様、頭をお上げください。あなた様と同じ世界の流れ転生者がスティフ以外にもいて、さらにレックス国に協力など、確率がとても低く――」
「ないわけではないじゃん」
「……ほら、飛行機をエンジンから作れる人なんて普通いないよ!」
「最悪車のエンジンわかればなんとかなる……」
「いや普通わからないけどね!? それに燃料もわからないし――」
「油田とマンパワーさえあれば以外と簡単……」
ああ、もうマヂ無理……やらかした、スギタニ家に大戦犯って記録される……
「もう、うじうじしてないで対策でも何でも考えたらどうですか、タカハル様らしくないですよ!」
「……ああ、そうだな悪い」
甘やかしてくれるのもいいけどちゃんと叱ってくれる。そんな彼女が横にいてくれて嬉しく思う。考えの違いはあるけど……
「とりあえず航空機が出現したら上空に魔力障壁を張らせよう、できるのは偵察と爆撃くらいだ。可能なら魔法で撃ち落とす。そういう方針で――」
マジで飛行機は全力で急がないといけなくなった。全力で急ごう。
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