護衛王女と科学少年転生者
「あの、答えはすぐじゃなくてもいいですから」
そう言ってタカハル様の部屋から逃げてきてしまった。良いのだ、これで。
動揺させてしまうことはわかっていた。だが驚きだけではきっとこんなに答えるまでこんなに長くはならないだろう。きっとタカハル様の中で何か葛藤があったに違いない、どこかでお付き合いするには何か問題があったに違いない。
久々の自分の部屋のベッドに体を沈める。自然と涙が出てくる。どうして、どうして……あんなに近い距離でいることを許してくれたのに。心を休める人の隣を私に選んでくれたのに。
肯定の言葉をもらえるとずっと思っていた、最初サティエルとアプローチした時顔を赤くしてご恥ずかしがっていたからだ。だがもしもタカハル様が否定のお言葉を口にしたらと不安に思って、逃げてきてしまった。
自分は弱い。王女という身分柄、今までなんでも叶えてくれた、なんでも叶えられた自分にとって失敗は怖い、恐ろしいのである。ずっと甘やかされてきたから。
タカハル様の手の感覚が、腕の感覚がないのが寂しい。タカハル様の心が完全にご回復なされたのは喜ぶべきことだ、そうしたら気持ちを告げようと決めていた。ずっと愛してもらえると思っていた。
なのに、なんで、どうして。何が悪かったのか、自分はお淑やかとは言えないところがあるし、頭に自信はなく理知的なタカハル様とはかけ離れてるし、髪を短くしていて女性らしくない……
……どんな結果でも後悔しないと決めたはず。
それにタカハル様はいつも仰っていた。成功しなかったらダメだったところを直してもう一回やればいい、成功するまでやれば失敗はしない、と。
タカハル様に拒絶されたわけではない。
お淑やかさを直してタカハル様の背中が見えるほどには理知的になり、髪を長くして動き辛くても女性らしい服装をして。そうしたらきっと――
これからどうするか考えているとドアからノックの音が鳴った。
「ルビー様、ご入浴の時間でございます」
いつものメイドの声が聞こえた。鏡を見ると泣いていた後もない、時間が思ったより経ってしまった。
扉を開いて浴場へ向かう。着替えなどはメイドが持ってきてくれる。
「サティエル、どうしたらタカハル様に好意を抱いてもらえるかな?」
「そんなこと知ってたらとっくに私がやってますよ」
その返答に「ムッ」と声が出てしまう。
「一人目は私」
「わかってますよって、ルビー様、痛いですから腕つねるのやめてくださいってば!」
サティエルの腕から手を離す。そう、サティエルに持っていかれないためにも。
「ルビーはタカハル……さん? のこと好きなの?」
「はい、私でも釣り合うかどうかわからないような素敵なお方です」
デーナ様の反応を見るにあまり恋愛というものをあまりわかっていらっしゃらないようだ。……もしかしたらデーナ様もライバルになってしまう可能性がある、タカハル様の周り全ての女性が敵に見えてしまう。
本当にそんなことはないだろうが気がついたときには私が遅れているなんてこともあるかもしれないのだ。
――――――――
日没後、予定どおり中庭に集まる、デーナはいないけどなぜかスティフはついてきた。ルビーがなんだか服装がいつもより違うのが気になる。
だが気にしたところで話しかけられる度胸はない、色々気まずい……
気持ちを振り切り実験を始める。アゲートは剣に火を灯して10mほどのメモリの横の階にいる。松明代わりかよ……
そして前回と同じようにカーボンナノチューブロープを作る。
「9.3mです!」
「は? なんで下がってるんだ?」
サティエルとサルトロも驚く。なぜだ……? うーんと、気体の位置、体積が変化する……引力……いや引力だけじゃねえ……気圧、気温――
「お、そういうことか」
手をポンと叩く。
「何かご気付きになられましたか?」
「ああ、結構簡単だった」
サティエルの方を振り向きそう言った。続けて答える。ルビーが一瞬不満そうな顔が見えたが気のせいと心の中に押し込む。
「日中はその何かが太陽光で温められて膨張する。水銀が熱されると膨張するのは知ってるだろ? で、膨張するとその分軽くなって上昇する。とまあ仮説だけどこれだと納得できることとなる。そうだとすると月の引力より太陽光の影響が大きいみたいだ」
そう説明する。サティエルとサルトロは説明をちゃんと聞く、ルビーも頑張って聞こうとしているようだ。スティフはそんなにちゃんと聞いてないけど。
「ただいま参りました!」
「あ、アゲート。来たところ悪いけどもう解散に――」
「はい、ストーップ!」
俺の言葉を遮りスティフが声を出した。そして背中に回られる、そしてそのまま背中を押される。
「なんだよ?」
「いいから」
「ルビー様も。」
「え?」
ルビーもサティエルに背中を押されていた。
そして向い合わされる。
「ほらほら」
スティフが俺の横でそう言った、少しにやけ顔になっているのがうざい。あいつの発言が何に対してかはわかった、だが意味のない間を伸ばす言葉しか出ない。
「ああ! それじゃあ僕たち耳塞いでるから」
「いや耳塞いでも話す言葉くらい聞こえるだろ……」
それに対してみんなは聞こえていないように反応する。
「っ、あーもう。ル、ルビー」
「ひゃい!」
ルビーも緊張して胸の下で両手で緩めの拳を作っていた。さらに返事では声が裏返ってしまっていた。
「さっきは、何にも返せなくてごめん。ほんと、緊張で脳から体への指令が停止してて、こんなこと初めてで。……それで、結局あの答えだけど……」
ルビーは真剣な目でこちらを見てくる。緊張で、口のなかパッサパサだし汗もかなり分泌されている、心拍数も呼吸数もかなり上がっている。
「あー、だからその、なんていうか……(x^2+y^2+1)^3=x^2y^3のグラフを――」
「あの、申し訳ございません、算術は苦手でして――」
「そうだよね、わかんないよね普通は。」
俺のバカああああああああ
もう父さんが天才だけど一周回ってバカとか思ってたけど俺もじゃねえかよおおお
「あー、だからその。今はまだ俺はルビーといるとドーパミンが出て交感神経刺激されてノルアドレナリンが分泌されるような関係だけどできればドーパミンじゃなくセロトニンが――」
「あの!」
テンパって変なこと早口で言い始めてる俺をルビーが声を出して止める。
「好きなんですか! それともそうじゃないんですか!」
……二択しか許されない質問。ここまで口が回ったんだ、言えるだろ俺……
「……好き、だよ……」
言ったつもりだけど自分がどうしてたか混乱で本当に自分がしたことなのかわからない、もしかしたら言った気になってるだけかも知れない。
だが、それが現実だということがすぐにわかる。
ルビーに飛び込んで抱きしめられる。顔と顔が触れ合う、そして耳元で囁かれる。
「私も、大好きです……!」
心臓が直接体全体を打ち付けるほど強く鼓動している、洞房結節が機能しているかあやしいほどに。ただそんなこと気にする優先順位が低かった。
ルビーの温もりを肌で感じて、呼吸の音が聞こえて、綺麗な銀色の髪が見えて、匂いがして、彼女の中の小さな魔力を感じる。
だが最高潮の幸せの時間は終わるを告げる。
「ヒューヒュー」
スティフのそんな声が聞こえた。
興奮で上がっていた体温が一瞬で冷めるような気がした、だがそれと同時に――
……ここまで怒りを覚えたのは初めてだ…………
魔法でそれを作りスティフの服に飛ばす。
「え、ちょ、くっっさ!! 今何したの!? ちょ、鼻曲がる、なにこれ……」
「酢酸。量は少ないけど濃度が食酢とは大違いだからな」
護衛達もスティフから距離を取る、ルビーも不思議そうにスティフを見る。かなり臭いしな、母さんが濃度99.9%の酢酸を使ったとか言ってた日の臭いはやばかった。
「どれくらいで取れるのこれ〜!?」
「魔力結構込めたから十分くらいじゃないか? じゃ、解散」
そう言って中庭を去る。横で腕を組むルビーに気を配りながら。
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科学質問も出来る限り回答します(ネット知識なので大したことはできないしガバガバですが……)
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(自分でこんなラブコメ書いてて地面に頭を思いっきりぶつけたくなる)




