炭酸カルシウム
「何をなさるのですか?」
「使える物があるんだ、効率よく倒せる物が……」
馬車へ戻り後ろの方に荷物を入れてる方を開く。そこには炭酸カルシウムを作るための道具等がいくつかある。で、使うのが……
「予備のタイヤだ、ゴム作っといてよかったぜ」
ルビーが不思議そうな顔をする、まあ何やるかはわからんだろう。あとは必要なのは試験管くらいか。まずはゴム部分を魔力ナイフで切っていく。それを試験管に入れてから魔法〈ミキサー〉でさらに細かくしていく。
「魔法で酸素を多めに入れて……火種を入れて、すぐ閉める!」
魔法の火種を入れたあとすぐにゴム栓をした、すると硫黄は青く燃え上がる。栓をしているとはいえ念のため腕を離す。
「見えねえけど燃やしてガスが出てる、吸うなよ、死ぬぞ」
その発言に彼女は握っている手の力を強くして息をのんだ。
燃焼が終わる、多少燃え残りがあるけど次に行こう。ビンに水筒の水を入れる、そこに先ほどの試験管を入れてから蓋を外す、すると多少ブクブクと泡が出る。可能な限りそれから顔を遠ざける。マジで死ぬから距離は離す。
でかき混ぜてからその液体を試験管にいっぱい入れて蓋を閉める。これを七本だ……
……よし、事故もなく作り上げることができた。あとは、バッグに入れて割らないように持っていって魔法でぶち込む。
ルビーに戻るように伝えるとすぐに行動する。大事なとこでコケたりしないように注意しながら走って戦闘中の三人のところへ来た。敵の貝の殻は多少破損したりしていたがまだまだ戦う気はあるようだ。
「待たせた、一本だけ触手誘導するぞ」
そう言って抑えていた体外への魔力の放出を少しだけ強める。すると護衛等に向いていた触手や魔法のターゲットが俺に向く。その攻撃、魔法をサティエルとサルトロが、触手をアゲートが一本残して防御する。
一本の触手が一直線にこちらへ向いてくる。それに対して魔力を溜める、7〜8mくらいのところで魔力を炭素に変異させる。カーボンナノチューブロープを数本作り触手を縛りつけ、そのまま地面に叩きつける。
バッグから一本の試験管を取り出しその触手へ叩きつける。そのまま魔力で試験管の底を割ってから注射器のように魔力で作る。さらにゴムのふたを開け魔力で気圧で無理やり液体を触手の中へ入れる。全部入れたところで試験管を抜き、足で傷を無理やり押さえつける。踏みつけて改めて触手の太さがわかる。直径7〜80cmくらいある、しかも表面は柔らかいが触手全体としての弾力は弱い、力入れても5cmくらいしか沈まない。止血したら勝ちだ。気づくと一体の貝が暴れている、触手をブンブン振り回している、なんなら他の奴にも当たっている。まあ体の中に何か入れられたらパニックになるわな。
……しばらくすると靴の下から青い血が染み出すのは止まった。さらに暴れていた貝はかなり大人しくなり、うごめいていた触手も止まった。
「こっからは引っ張ればいいか、よっ!」
触手にカーボンナノチューブロープを縛りつけ魔力で引っ張る。千切れたりはしないだろう。
後ろに引っ張っては新しいロープを作り引っ張り続ける。地面にはあと六本に縛りつけられている、縛りつけているのはサティエルとサルトロだ。毒さえ回れば死んでいくのでもう後は放置だ。
……てなわけで一体引き上げた。もう触手は一切動かない、魔力も一切動いていないことがわかる。
「タカハル様、先程使ったのはなんでしょうか?」
魔法で他の貝を引き上げているサティエルが言った。
「硫黄を燃やしたガスを水に溶かしたものだ。吸うだけで呼吸できなくなって死んでいく、血に流したらエラにつながって同じように呼吸できなくなるな」
「硫黄を持ってきていらしたのですか?」
「いや予備のゴムタイヤから取った。魔石混じってるらしいけど結局硫黄だし」
サティエルと同じように貝を引き上げていたサルトロに答える。
「さてと、炭酸カルシウムのためにはまずは表面削らないとか、海藻とか生えてるし。お、フジツボついてる、貝に貝ついてる、おもしれえ。あ、いやフジツボはエビとかカニの仲間か」
その発言にサルトロ、サティエルは声を揃えて「そうなのですか?」と言った。
「ああそうだ。確かにどっからどう見ても貝だけど穴から出てくるやつはエビ、カニでいうところの脚なんだ。それに幼生はそいつらと類似しているんだ」
二人にそう説明する。へーという感じだけど、でも雑学だしな。
魔力ナイフで表面を削っていく。すっごい硬いんですけど、もうあんだけあった魔力が最低でも七割以上使ったのだが……今日は魔力節約していこう。
「で、この大雑把に取った貝殻のかけらを持ってきたハンマーで砕く!」
……ッ! 腕に響く……石ころほどの大きさのかけらはヒビが入ったくらいだ……
「タカハル様、大丈夫ですか……?」
ルビーが腕を体の方へ抱える俺を見て心配そうに声をかける。
「大丈夫だ。なんだこれ、2500Nは出てると思うんだが……」
「タカハル様、そちらを貸していただけますか?」
ルビーがハンマーを見て言うので渡す。すると一発で木っ端微塵になった。ハンマーの振り下ろす速度が尋常じゃない、やべえ。とりあえずほうきのような物で一箇所に集めて別のかけらを置いてもう一回ルビーに叩かせる。
これが流れ作業となる。なんか餅つきを彷彿とさせるな。
「で、そっちは何やってるんだ?」
全て引き上げたサティエルとサルトロがモン◯ンのグルグル肉焼くやつみたいなのに貝の身を突き刺してそこにお湯をかけている。なんとも不思議な光景だ。
「血抜きと砂抜きです」
「血抜きと砂抜きって――食えるの!?」
サルトロの答えに驚きの声を上げる。えっと、貝の身はなんかサザエっぽい。ご長寿アニメじゃなく。
ただその身はバランスボール一個分くらいの大きさがあるがな。
「とても四人で食いきれるような大きさとは思えないが……」
「冷凍保存して後から持って来させます。それに石灰の方も必要ですし」
サティエルが答えた。後々大量回収組が来るからな。
……両手ですくい上げられるくらいまでできた。
「じゃ、できるかどうかの実験だな。まず持ってきた鍋、これでこの粉を炒める」
鍋で炒めていくと色が白く変色してくる。
「よーしそれを水に入れて、えーと……あった」
バッグから取り出したものに「それはなんでしょうかか?」と聞いた。
「ただの木の筒だ。で、こいつで――」
思いっきり息を吸った。そこから――一気に木の筒を通して水の中に肺から空気を送り込む。勿論ブクブクと泡が出てくる、みんな子供の時誰しもがストローでやったことがあるあれだ。
適当に空気を送り込んだら蓋を閉めて上下左右に振った。するとその液体は白く濁った。
「タカハル様、これは一体……」
「ぜぇ、石灰水は、ぜぇ……二酸化炭素と反応して――」
「申し訳ございません、落ち着いてからで大丈夫です」
サティエルがそう言ったので。深呼吸をして呼吸を整える、だいぶ落ち着いたので説明し始める。
「石灰水は二酸化炭素と反応して白く濁るんだ、で人は呼吸すると酸素と二酸化炭素を肺の中で交換するのでさっきみたいにすると白く濁るんだ」
サティエルとサルトロには納得してもらえたようだ。
……作業を繰り返して麻袋一個分ほど炭酸カルシウムができた。
「こっちはできたけどそっちはどうだ?」
三人に聞くとアゲートが答える。
「もう焼き始めます」
「えーと、普通は砂抜きって一晩くらいかけるものだと思うけど?」
「静水で行っていればそうですが流水をかけつずけていたのですぐで大丈夫です」
俺の疑問にサティエルが答えた。なるほど、まあこんな量も長時間流水をかけ続けるのは魔法がないなら非現実的だしな……
で、水を流すのをやめてそのまま魔法で焚き火を始めた。ほんと魔法万能だな、燃料は魔力だけでいい。
サティエルが魔法で炎を出しながらアゲートがグルグルとモ◯ハンみたく回す。あれ素材集めやりすぎて結局最後までやりきれなかった未練が――ちっちゃい未練だと思いながら回されていく貝を眺める。でかいから火を通すのに時間がかかるだろう、それにこんなに大きいと硬かったりするんじゃないんだろうか。
適当な岩に座りながら回されていく光景をルビーと手を繋ぎながら眺める。常々思うが迷惑じゃないんだろうか、片手が使えないというのはかなり不便のはずだ。それに今回の戦闘、俺の側にいないといけないせいで戦いに参加できなかった。
アゲートが言うには護衛の中で最強の戦力と言う、何度かその戦闘力を見る場面があったが前世では見たことのないパワーにスピード、技術である。
その力を腐らせてしまうのは本当に申し訳ない。
「……なんか、ごめん。ルビーのこと制限しちゃって……」
弱々しく声を出す。そう思っているのは本心なのに離すことができない自分に嫌気がさす。
ルビーは両手で俺の左手を取り、話し始める。
「いいえ、私はタカハル様の護衛です。なにも護るのはタカハル様の身体だけではありません、心も護るのも役目です。まだまだ不甲斐ないところはありますが精一杯タカハル様の為に色んなことをしていきたいのです。ずっとタカハル様と手を繋いでいるくらい簡単です!」
ルビーは笑顔でそう言った。無意識に手を握る力は強くなるがそれと同時に俺の心拍数が上がり自然と視線が逸れる。
心拍数が上がるのも手を握るのが強くなるのもわからなくないが、視線が逸れていく行動理由がわからん。本当はルビーを見ていたいはずなのに……視線の端で笑顔で見つめているルビーが目に入る。
ずっとこのまま時間が続けばいいのに……
だが時間というのは情も無情もない。一般相対性理論のもと、同じ重力下、速度下なら進む時間は等しい。
「もうそろそろではないでしょうか」
サルトロの声によって意識が呼び戻される。気がつくとアゲートが大きめのナイフでそれから切って串に刺して内部の方の身を食べる。
「中まで充分火が通ってます」
アゲートが串に刺し、塩を振りかけたのをこちらに手渡してきた。それを受け取り少し躊躇しながら口に入れる。
柔らかいしすっげえうまい、なんか負けた気分。あー醤油と米が欲しい……
「てか用意周到すぎだろ、もとからこれ目的だっただろ?」
「えへへ――」
ルビーの方を向きながら聞くと笑いながら誤魔化された。まあ美味しいからいいけども。
時間的にはおやつみたいなものか、食い過ぎたりしなけりゃ大丈夫だろう……
「……ルビーとアゲート、そんな食ってて夕飯食えなくなったりしないか?」
「「大丈夫です!」」
「あ、そう」
ルビーとアゲートは食う量がすごい、あんな運動するならその分エネルギーも必要ならわかるが……多分消化力も強いのだろう。
なんやかんやあって馬車に荷物を詰め込み帰路に着く。
……特に問題もなく数日、移動していた。
「帰ったらタカハル様の仰るアイスクリームが楽しみです」
サティエルがそう言った。ルビーが「私も」とサティエルに続き言った。
「まあ嫌いな人は見たことがないな。楽しみにしててくれ」
色々と話していると……
馬車が大きく揺れた。それと同時に進むのも止まる。
「うおっ!? どうしたんだ……?」
思わず声を出してしまう。状況を確認するため全員で外に出る。
アゲートが御者台から先に出ていた、彼は頭をかいて斜め下を眺めていた。その視線の先には潰れたゴムタイヤがあった。
「あー、パンクしちまったか……」
「パンク……ですか?」
「ああ、なんかの拍子にゴムに穴が開いて空気抜けちまってこんな風に潰れちまう。中途半端に一個だけパンクしてる状態だったら乗り心地最悪だろう」
アゲートのパンクについての質問に答える。
「ですが、換えのタイヤが……」
アゲートが荷物入れを開く。
「あ……」
「すまん、使っちゃったんだよな……あ、いやでもこれ使えば修理できるかもしれねえ」
水を使って穴の空いたところを調べて、熱することによってつぎはぎのように修理していく……
「よーしどうだ……!」
これで馬車は元どおり……
プシューという間抜けな音が聞こえた。つぎはぎが取れてしまいタイヤは潰れてしまう。
下手くそか。
「いや、すまん……」
「気になさらないでください」
うつむきながら話すとルビーが慰めてくれた。
「えーと、歩いて行くか自分だけ馬車を持って行って修理してから戻ってくるかですけど……」
「うーん……」
アゲートの提案に考える。
「ちょっとサルトロそこ立ってて」
「え? かしこまりました」
ルビーを連れてサルトロから離れる。
「大体、10mくらいか。俺が1.6m、サルトロが1.7m、あの塔が20mだとして、俺とサルトロが10mの距離だから概算2kmくらいか。平均時速3.5kmとして四十分くらいかそれくらいだったら歩くよ。」
アゲートは苦笑いをしてそれを了承した。そりゃはたから見たら間抜けな距離の求め方か。
と、言うわけでアゲートが馬を連れてその後ろで俺らが歩いて行く。
……あれから二十分ほど歩いていた時……
茂みの方からパキッと枝を何かが踏んだような音がした。最初一瞬は魔覚がないし危険は無いと思った、だが条件反射で魔覚をその方向へ集中させると思わずルビーに体を寄せる。護衛たちも臨戦態勢になる。
落ち着け俺、かなり巧妙な魔力の隠し方してるが捉えたらもうこっちのものだ。だが正確な魔力量はわからない。
「〈電子レーダー〉」
魔力の塊を茂みの中へ投げ込む。
「……あの茂みの中、姿勢は低くしているが人型、フードを身につけている……」
フードを身につけている。体格は……あの時の逃したフード魔法使いと同じくらいの体格……! もし同じだとしたら今回は逃がさない……
杖を取り出し握りしめる。それと同時にサティエルが魔法を唱える。
「〈大地の槍壁〉」
魔力がサティエルから地面を伝って流れる。するとすぐに魔力が変異し、細長い無数の岩となり半径5mほどでそれを俺たちが向かう方向を除いて囲む。
「そこにいるのはわかっている、出てこい。」
ルビーが大剣を持ち声を上げる。
すると茂みの中からボロいローブを着た背の低い人が出てきた。フードを深く被って顔はよく見えなかった。
「フードを取りなさい」
今度はサルトロが声を出す。すると手を震わせながら、ローブに手をかけ、ゆっくりとローブを後ろへ下ろしていった。
その顔は赤い髪にルビーよりも紅い瞳を持った涙目の少女だった。赤い髪は違和感があるが……
それよりも特徴的なのは額に瞳の上にさらに深く紅い金属質な二本のツノがあることだろう。
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