授業
スティフと共に城まで戻ってきた。どうやらスティフは乗馬ができるようだった、速く走らせられるようになったらのはこっちで訓練してきたからだと。前世でも乗れたらしい。そして商会の方、オキュルスさんに顔合わせをさせたり城の人に説明したり色々とあった。
それで結構面倒だったのが例の事件の時のサルトロの弁明、お偉いさんたちが責任だとか次もあるかもしれないとかあーだこーだ言ってたけど王様の協力もあって丸め込められた。意見変えない奴らほんと嫌い、話進まねえよ。それで、今の状況だけど……
「この身はどうなっても構わないのでどうかサルトロは……」
サルトロ両親が俺の前で地面で頭を下げている、つまり土下座だ。土下座はスギタニ一族伝統だったか……
「いや話聞いてたか……? サルトロもスギタニ家も何にも悪くないで話終わったはず、何も罰はない。ウィザライとその他諸々も捕まえたし、協力したわけはサルトロの妹が人質に取られてたからっていうのは聞いてる。あなた達は責任外、これで終わり、頭上げて」
二人が面をあげる、だが姿勢は地面に
「……ですが――」
「そもそもあなた達をどうにかしたところで生産性なんかなんにもない。帰って領主の仕事してるのが合理的、どうしてもっていうならそれ頑張っててればいい」
――なんとか二人を説得する。あとサルトロはこの場にいない、城まで家族と来た妹と再会を果たしているそうだ。というより親が地に頭をつけている姿なんて見せたくもないだろう。
「サルトロのご両親がやってたあれって『土下座』ってやつ?」
「よく知ってんな」
「『日本』の色々な作品でよくね……ところでさ、僕と別れてから何があったかまだ教えてくれないの?」
「あー、えっとだな……操られたサルトロに俺が殺されかけた」
「ええ!?」
「んで俺を庇ったルビーが使われていた毒で死にかけた。」
「えええ!!? でも今は何にも問題なさそうだけど。」
「そりゃーな、解毒した」
「へー、解毒方法あったなら――」
「タカハル様がいなかったら解毒方法が無くて死んでいた」
ルビーが言った。
「ええええ!!?? ここの人達がわからないのに簡単にできるものなの?」
「簡単だぞ、今回の場合は他人の体に致死量より少ない同じ毒入れて抗体作ってもらってそれをぶち込むだけ。その時は時間的にもギリギリだけどなんとかなった。そもそも馬とかでやるのが普通だけど……」
ルビーが嫌な顔をしている。
「まあそんな感じで、しかもアレルギー反応起こされたら助ける手段無かったしな」
「へー、確かに聞くと簡単そうだね」
「致死量調べるのに何十匹のマウスが犠牲になったことか……」
「アハハ……」
「そんな風に冗談めかしてますけどその時はすごい焦って心配してましたんですよ」
「おい」
アゲートが余計なことを……
「へーそんなことが……」
「ったく……サルトロの前でこの話絶対に出すなよ。」
「うん、それくらいわきまえてるよ――ところで僕はなんで呼ばれてたの? 城である程度は自由にしていてもいいって言われたけど」
「サルトロが戻ってきたら話す」
――――――
サルトロが戻った後、研究所に来た。
「でさ、スティフ……ハーバーボッシュ法はわかるよな?」
「確かアンモニアを作る工業的製法だっけ? 今進めてるって言うやつね、あんまりわからないけど。ところでなんでここ来たの?」
「あんまりわからない、か……なあ、もし情報提供者演じてる時外部者がどうやっているのかって聞かれたらどうするつもりだ?」
スティフの疑問を無視して質問をする。
「あ……なんか嫌な予感…………」
「ここに来た理由だったか? それはこいつ、先人の発明、黒板があるからだ。勿論ここじゃ高級品だが、なんか俺らの世界と比べて妙に発明の時期早い気がするが……」
「昔に転生者様が製法を持ち込んだものと言われています」
サルトロが言った。
「あー、この世界だとそれがあるか。まあそれ使ってスティフ、お前にはハーバーボッシュ法説明できるようになってもらう」
「えー、必要あるー?」
「大ありだ。情報提供者が説明できずあたふたしてたら怪しすぎんだろ」
スティフは口を細め明らかな不満を示す。
「僕全然勉強できないよー?」
「大丈夫だ。今からはかなり時間がある、根気よく教えることはできる。まあそんな難しくないから長くはならないだろう、最短で五分くらい、長くても一時間くらいか。っつーか元素記号くらいはわかるよな? そこら辺は省略したいが――」
スティフの方に視線を送る。
「簡単なやつだったらわかると思うよ……?」
「なんか心配だなー。『H』は?」
「水素だね。」
「『N、O』」
「窒素、酸素だよね?」
「よし、これだけわかりゃーとりあえずいい。」
「え? これだけでいいの? なんだ簡単じゃないか。」
――――――
「もうやだよおお、何が長くても一時間だよ……僕には休憩が必要だよー」
「……休憩はいいけどさあ、だらしないなあ。俺より年上だろ」
「確かに高校は卒業したけど大学に入ってないよ。フェンシング一筋だし。その高校も頭がいいわけじゃないよ……」
スティフは机に突っ伏してもごもごと話す。
「全然わからないよ平衡定数とか……」
「何度も説明しただろ、化学反応式で互いに――」
「違うよお、説明して欲しいんじゃないだよ。頭痛くなるでしょ。見なよ、アゲート君とルビーちゃんは宇宙の話振られた時の顔だよあれ!」
そう言って顔を上げる。
「宇宙の話振られた時はああはなんねえだろ」
「君は例外…………それにサティエルちゃんとサルトロ君も追いつけてないほどだよ!」
その二人は罰の悪そうな顔をする。
「そりゃー基礎知識教えてないからな。今回はお前が理解するの優先だからな、ちゃんと最初からやってけば理解すると思うぞ」
「まるで基礎知識あるのに理解するの遅いみたいじゃないか……」
「理解に遅いも早いもない。そもそもこの場合は遅い早いを統計的に調べて初めて――」
「だから頭痛くなる話やめてくれよー」
そう言ってスティフはもう一度机に伏せる。
「……まあちょっとずつやっていけばいい。わからないことあったら答えるし、時間もある」
スティフは顔を下に向けたまま返事はしない。顔を覗き込む。
「寝やがった……」
「どうしましょうか?」
「寝かせとけ、不得意なことやらせて疲れさせちまったし。それよりも俺らのとこでノンレム睡眠がおよそ三十分前のことを暗記させやすくするっていう研究成果が出てるんだ。今から三十分前はルシャトリエの原理とかやってたところか、あいつにとっては厄介な部分だからな、記憶してもらった方がいい」
――――――
翌日、研究室は緊張感が溢れていた……俺とスティフの視線が飛び合う……
「……ハーバーボッシュ法に必要なものは?」
「空気中の窒素、水素、触媒として酸化鉄、酸化アルミニウム、、酸化カリウムを合わせたもの、もしくは白金系、そして高音高圧!」
「それらが必要な理由は?」
「窒素と水素はアンモニアの原料、酸化鉄は窒素と結合して水素と結合しやすくして、酸化アルミニウムは酸化鉄が変質するのを防いで、酸化カルシウムは窒素と酸化鉄が結合するのを助けるから、高温は平衡時のアンモニアの吸収率を上げるため、高圧は反応速度を大きくして早く平衡状態にするため!」
「平衡状態とは?」
「反応物が生成物になる速度と生成物が反応物に戻ってしまう速度が同じになった状態!」
「必要な温度、圧力は?」
「約300気圧、約500度!」
「最後だ、必要なものをどうやって入手する?」
「え!? え、えーと空気から窒素で水から水素で、酸化鉄は鉄を錆びさせて酸化アルミニウムはアルミニウムを錆びさせて、酸化カリウムはカリウムを錆びさせて……? えっと、高音はまわりを熱して高圧は……えーと、その……」
「悪い、流石に教えてないもんな。それはこれから知っていける、合格だ」
「ようやく……終わった……長くて一時間って僕を過大評価しすぎだよ、一日かかったじゃないか……」
緊張は消え去り、スティフは机にうなだれる。椅子を取り俺も座る。
「いや、教えてた時間はそこまで長くない、合計五時間くらいだ。悪かった、見誤ってた」
「五時間も同じ内容を教えられる身にもなってみなよ……大体教えたことがやっぱりもっと合理的な方があるから反した選択を取るって、最初から教えなければよかったじゃないか……」
「ルシャトリエの原理な、半分は必要だしその半分だけ教えても混乱するだけだ。それよりも、最後の問題の答えだが……お? 噂をすればなんとやら」
中庭に入り、研究室に向かってくる二人の人影が見えた片方は騎士、案内役だろう。もう片方は大荷物を持っている。
「まだ勉強するのー?」
スティフが絶望のこもった震えた声でそう言った。
「そんな絶望しなくてもいい。座学みたいにダルい学習じゃないぞ、楽しい楽しい実験タイムだ」
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科学質問も出来る限り回答します(ネット知識なので大したことはできないしガバガバですが……)




