治療
「さて、あれから十日だな」
「私に……とっては……一日でした」
「そうだったな。よし、これで良くなるはずだ」
ルビーに注射し終えていった。
「あとはゆっくり休んで」
「はい……」
あとは経過観察、無理矢理抗体を作る期間を短くして入れるまでの時間も短くした。これが吉と出るか凶と出るか……吉のはずだ。ルビーだって体が強い、俺だったら確実に持っていない。頼む、ルビーを助けてくれ……ケッ、何を考えているんだよ。神は物質的に干渉できねえとかほざいてただろ、何に対して願ってるんだよ俺は。ルビーは助かる、みんなの努力で。
「ルビー、俺らにできることはもうない。俺は医者じゃないから今後どうなるかわからない、でもルビーの気持ち次第でどうにでもなる。医者に治らねえって言われても気合いで治った例はいくらでもあった。ルビーが気持ちだけでも頑張ったらどうにでもなるんだ」
「はい、タカハル様……必ずあなた様の護衛に……戻ってみせます」
「うん」
小さな途切れ途切れの言葉に頷いた。
――――翌朝
窓から差し込む光に眼が覚める。朝か……ルビーの容態が変わるとしたらこのタイミングだ。何にもする気が起きねえ、せめて着替えとおかないと……着替えてベッドの上で膝を抱え込む。ダメだった時が怖い、もっと抗体に時間をかけておいた方が良かったかもしれない、もっと短くして抗体を打つのを早くした方が良かったかもしれない……
ノックが聞こえた。
「タカハル様、アゲートです。お知らせしたいことが……」
「開いてる。話せ」
間違いなくルビーのことだ――扉が開く、無意識に視線が下に向かう。
――アゲートの表情を見たらきっと答えを推測できてしまう、本当は話して欲しくない…………
「――タカハル様、ルビー様の容態が――」
やめろ、その先を話さないでくれ…………
「回復しました!」
「…………本当か!!??」
ベッドから飛び降り靴を履きアゲートの方へ向かおうとする――コケそうになった。
「大丈夫ですか、落ち着いてください」
「悪い、すぐ行こう」
――大急ぎでルビーの元へ行く。
「ルビー!」
「! タカハル様!」
ルビーが俺に気付き声を出す、その声は今までより弱々しいが昨日よりはずっと健康的だった。ルビーはベッドに腰を掛け座っていた。部屋にはサティエルも王様もカーネリアさんもいた。
「良くなったって聞いたけど」
「はい、タカハル様のお陰で……」
「俺だけじゃない、サティエルだってお前のお母様だってみんなが頑張ったからだよ。」
「はい。その……タカハル様……」
「どうした?」
ルビーがベッドから立ち上がり…………
数秒俺の思考が止まった。
――ハッ、落ち着いて今の状況を整理しよう。俺は今、ルビーの両腕で左右から合計約5Nの力で加圧され、その上俺の心拍数は秒間二回ほどにまで上がっている。
とどのつまり、ルビーに抱きしめられ俺はすごい緊張している。
………………え?
えっと…………どうすればいいんだろう。落ち着かせればいいのか、副交感神経を働かせるために――深呼吸させるか? 目を閉じさせるか? 心理学もっと学んでおけばよかったぁぁぁ。思考は回るが行動は一切できない。
困惑しているとカーネリアさんが話す。
「タカハル様、もし嫌でなければ抱きしめてあげてはいただけませんか?」
……合理的だけが正解じゃないな。腕をルビーの背中に躊躇しながらも回す。するとルビーが肩に顔を乗せた。
「タカハル様……嬉しくて、安心して……申し訳ございません……」
「いい、もう大丈夫だ。このままでいいよ」
「私、怖くって……タカハル様の代わりに死ねたなら幸せかなって考えて……でも離れるのがとても怖くって……」
「俺もルビーがいなくなるんじゃないかって思ったらすごい怖かった。ごめんな、俺の代わりにこんな怖い思いをさせてしまって。そしてありがとう、本当に、良く頑張ってくれた、こうして戻ってきてくれた」
「……私、タカハル様に絶対助けるって言われたのに……もしかしたらって何度も疑ってしまいました。申し訳ございません……」
「俺もあんなこと言ったのに何回も、もしかしたらって考えてしまった。ごめん、すごい格好悪いよな」
「そんなことありません……ひぐっ――」
ルビーが泣き始めてしまった。俺は腕を頭の後ろへ動かす、するとルビーの抱きしめる力も少し強くなった。
――
「申し訳ございません、取り乱してしまって――」
「大丈夫、安心したんだろ? ……しばらくはリハビリだな」
「はい、ご予定に時間をかけさせてしまって……」
「何も問題ない、この際事件全部利用させてもらう。覚悟しとけレックス国だ」
「はい!」
――――
あれから作業に手が進むようになった、むしろ進みすぎているくらいだ。そこでルビーのリハビリにも顔を出せる、ずっと顔を出してもいいけどルビーが俺に構ってリハビリどころじゃねえ。
で! 何をするかは明白、研究だよなぁ!
「んでだ、研究テーマは魔覚についてだ。触覚は皮膚の神経細胞が刺激を脳に伝えてる、味覚は舌の味細胞が物質を受容して脳に伝えてる、聴覚は耳の奥の聴神経細胞が空気の振動を聴神経を通って脳に伝える、嗅覚は鼻の奥の嗅細胞が臭い物質を受容して、視覚は色々ややこしいけどまあ網膜細胞が光の刺激を受けて脳の伝えてる」
「もう無理っす、サティエルさんは?」
「流れしかわかりません……」
「まあ大雑把に言うと体の感覚には感知する部位があるってことだ。じゃあ魔覚は?」
「「…………?」」
「まあそうなるな。俺もその状態から脱したばっかりだ。だがヒントは結構ある。魔覚がある生き物が持っててない生き物が持ってないもの、これなーんだ?」
「魔石でしょうか?」
「サティエル正解。じゃあそいつはほとんど心臓のついてるな。秘密はそこにあるはずだ」
「では、どうするのでしょうか……?」
「そんな早とちりのアゲートのために見せてやろう、製作を頼んでおいた……【人工心臓】!」
大きさ数cmほどのハート紛いみたいな形した物を某世話役ロボットみたく取り出す。あの音楽流せないかな?
「なんかすごいえげつない名前してません!?」
「一体何を……」
「まーずは俺の仮説から聞いてもらわないとだな。それは魔石がレーダーみたいに心臓経由してなんか飛ばして反射してきたのを魔石が感じ取ってる説だ」
「あの時の魔法ですね」
「説明不足でタカハル様を危険な目に合わせてしまったあの時の……」
サティエルの言葉がちょっと突き刺さる。
「ああ、しかもスライムもなーぜか核がピクピク振動してた。とにかくこの仮説を試す。
で、魔物化したマウスがここに。この子にはアブナイ薬で眠ってもらいます、残念ながら人間にやったら中毒になっちゃう。今はこれしかないから仕方ない」
魔物を拘束しながら魔力注射で液体を入れる。するとそいつは数十秒ほどで眠っていく。それを仰向けにさせる、そして用意していたメスで腹を切り裂く、ちっさいなあ……もうちょい大きいやつでやりゃよかった。頑張って肋骨を避けて、肺の下に鼓動する心臓までたどり着いた。よーし、それじゃあこっからはスピードだ。ほぼ同時だ、同時に右心室側をつけ、その後左心室側をつける……
そおい!まずこっちからみて右っ側――――んで左っ側!
「ああ! 肺まで切っちゃったああ! あわわわわ――」
「タカハル様、とても楽しそうですね。」
「ルビー様が回復するまでとっても辛そうでしたから……やってることはちょっとえげつないですけど」
「あら、魔法の世界ではあのくらいまだまだ可愛い方ですよ?」
「え?」
「――二匹目にして成功、結構いいペースじゃないか? さてと、あとは魔力でくっつけてるのが終わる前に血管と人工心臓の管を縫って…………傷を管を避けるように縫えば……手術終わりー。あとは半時間くらいで起きるはず」
鼓動する体の外の人工心臓のついた魔物ネズミを見て言った。こいつを檻に入れて……
「あと聞いておきたいことがあった、地面から一定の高さだと魔法が使えないって何が理由なんだ?」
「申し訳ございません、仮説は今までに多く立てられてきましたが根拠のないものばかりです。なので飛行する魔法を開発しようという多くの人がいましたが、全くなんの成果もありません」
うーん、普通に考えたら地表近くに何かある、逆に何かなくて空中にある。ただ建物の中だったり山だったりしても使えるんだろ? 空気より重い軽いか、はたまた根本的に仮説が間違っているかだけど……
「てーか、魔法が使えないだけで魔法自体は空中にも飛ぶもんなあ……そこがわからない。てかなんで俺の魔力障壁は消えたんだよ……」
「維持し続けるイメージでなかったからでは無いでしょうか? 聞いた限り動かす調整もしていたようですし。」
「あー、確かに打った魔法は軌道変わるようにはイメージしてはなかったな……ちょっと実験してみるか。〈ウォーターボール〉」
水の球を作り出し、斜め70度くらいに打ち出す。高さ10m程度のとこでイメージする、左に曲がるように。しかし動かない。一応訓練して魔力圏を伸ばしてあれくらい届くはずだが動かない……対照実験だ、今度は前方に打ち出し同じくらいのところで動かす。左に曲がれ――すると直角に左に曲がった。そして地面に落ちる。
「わっけわかんねえ……」
とりあえず魔法が使える高さを調べるか、60度に水をホースで出すように打ち出し横に曲げる。大体11.5mちょいか、sin60°で√3/2だから……
「大体10mか……」
「斜めに打ってませんでした? それでわかるんです?」
「三角関数だ、流石にアゲートもこれくらいならわかるだろ」
「う……嫌な記憶が……それよりも真上に打った方がわかりやすいんじゃなかったんでしょうか?」
「そうだけどすぐに霧散するとはいえ濡れるのは嫌だし」
気付くとネズミが起きている……
「っておーいちょと待て、それ外そうとするとお前が死ぬぞー! 実験のためにやめろー!」
するとそのネズミはこちらに気づき人工心臓をいじるのを止め、明らかな威嚇を示した。
「さてと、何もしてない魔物ネズミを用意して……」
そいつも威嚇してきている。
そこで俺は右手に思いっきり魔力を溜めた、溜めただけだ。すると何もしていないネズミは怯んだ、なにせサティエルとアゲートも驚くほどだったからな。しかし、人工心臓をつけたネズミは全く怯んでいない、二、三回やってみる。すると何もしていないネズミは怯んで威嚇を止めておびえている。しかし人工心臓の方は変化はない。
「成功かこれは? 仮説はあってるかも知れねえな、じゃあ次の段階だ」
「今度は何をなさるのですか?」
「今度は十秒くらいで終わるぞ。いいか二人とも、今指の上に魔法でちっちゃい水のを出した。魔覚で感じられるな?」
「「はい」」
「よーし、それじゃあ魔覚を集中させてろ……」
「! 魔覚から消えた!? ちゃんとあるのに、一体どうやったんですか?」
「おう、ステルス戦闘機ってレーダーから見られずらくなる乗りものがあってな、それの構造が――」
「タカハル様ストップ! そんな大声で言ってはいけないものです! 聞き耳でも立てられていたら大惨事です!」
「あ、ごめん。サティエル――」
(秘密はな、魔力でこいつを尖った壁で覆っているんだ。薄っぺらい山みたいに。そうすると跳ね返る粒子がうまく戻りにくくなるんだ、あくまで戻りにくくなるな。完璧じゃないからな。)
小声で教える。
「そんな簡単なことで……」
「ああそうだ、こんな簡単なことだ。これで俺の仮説があっていることはさっきの実験からほぼ確実だろう」
この情報があれば勝てる、増える兵士、ハニカム構造魔力障壁、感じ取れない魔法、まだまだびっくりドッキリ作戦はいくらでもあるぜ。
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星一評価、辛辣、一言感想でも構いません、ちょっとした事でも支えになります。世界観や登場人物の質問もネタバレにならない程度に回答します。(ガバあったらすいません)
科学質問も出来る限り回答します(ネット知識なので大したことはできないしガバガバですが……)




