解毒その二
「だから無理って言ってるでしょう!」
「お願いします、わたくしは何も問題ありません!」
「計算上ギリギリなんですよ! 毒の量増やしても抗体の出来る早さは大差ないですし、何よりあなたに問題があったら全てが水の泡なんですよ!
――そもそも普通一ヶ月近くかけるところを無理して一週間にしてるんです、あなたに何か起きてもおかしくないんです」
俺とカーネリアさんとの間に沈黙する。カーネリアさんが抗体が早くできるだろうと毒の量を増やして欲しいと申し出てきたのだ。
しかし受け入れるわけにはいかない。
「……お気持ちお察しします」
「――あなたにこの気持ちがわかるのですか!? …………申し訳ございません」
「いえ、軽はずみな発言でした……ですが全力でルビーを助けたいと思う気持ちは同じです、なので最も可能性の道を選ぶべきなのです。」
「……ええ、そうですよね。お時間頂きありがとうございました。」
「いえ、もうここでルビーを見守ることしか出来ることはありませんし。」
あれから二日だ。本当にルビーの横で眺めることしかできない。アゲートもカーネリアさんも同じだ、サティエルも魔力切れになって俺の横に立っている。何か出来ることがあるはずだろ、記憶からヒントを探せ…………あった――
「サティエル、俺がここ、転生してすぐに魔覚教えるために魔力を流してただろ。それで俺の魔力で別の人が魔法使うって出来るか?」
「……可能です。よろしいのですか?」
「当たり前だ、どうやればいい?」
「では、私の体のどこかに触れて魔力を触れている部分に流してください。魔力量に差があるので簡単に流れるはずです」
そう言われ、右手をサティエルの右肩に置いた。そして魔力を移動させると吸い込まれるように入っていった。
「聞いてましたね? 私が行います――〈スロウスペース〉」
そう唱え、サティエルが魔法を使った。魔力が俺からサティエルへ、そしてルビーの周りへと行く。
「無理をしてはなりませんよ」
「――――はい」
サティエルの返事に引き続きカーネリアさんに頷く。
――――
一時間程経っただろうか…………
「――――あっ」
サティエルが倒れそうになった。急いでアゲートと体を支えて腰を下ろさせる、サティエルは胸を押さえて過呼吸になり苦しそうにしている。魔力供給は順調だったはずだが……
「無理はしないといったはずです」
「お言葉ですがカーネリア様、無理のしどころなのです」
「いいえ、違います」
「――カーネリア様だって……無理しようと……」
「――わたしには代わりになってくる人がいてくれます」
ルビーの方を眺め、言った。
「でもあなたにはタカハル様の護衛としてあなたまで居なくなってはなりません」
「……はい」
「――その……何も知らずに悪かった、ごめん」
「いえ、私も説明していませんでしたので……」
……本当に、無知は罪だ。
「……サティエル、どうしてか教えてくれるか? あ、いや無理する必要はないけど」
「いえ、大丈夫です――他人の魔力で魔法を使うというのは負担のかかるものです、親族などならともかく体に合わない魔力を多く体に取り込むと体が力を多く使い、疲労が多く溜まっていってしまうのです」
体に合わず、か。魔力も体内環境の一部なのかな。
数分の間ルビーの前で動けないでいる。
「本当は作業してるのが合理的なのにここで佇んでしまいます……」
俺の言葉にカーネリアさんが話す。
「世の中、合理的だけが正解ではないですよ」
………………その夜
アゲートを護衛に寝室に向かう、サティエルはもうすぐに休んでしまった。誰かと二人きりになるなと言われたが緊急事態でこればっかりは仕方がない。サティエルも疲労が溜まってしまっている。
「……タカハル様、自分にできることはないでしょうか? 自分は考えることが苦手です、どうすればよいのかわかりません」
「……そうだな、ルビーが戻ったらどうするかとか考えてたらいいんじゃないか? 考えるのが苦手とは言ってもこれならできるだろ。それを周りの人に話していけ、俺にも頼むぞ、みんな気持ちが下向きだ……そうしたら少しはみんなも前を向けるようになる、きっとルビーだってそれに応えてくれるよ」
「はい! まずはスティフさんのところへ行かないとですね」
「やべえ忘れてた! もう明日でちょうど二週間じゃん、首尾よくって保険かけといてよかった。てか一ヶ月弱は無理そうだな」
「結構かかってしま――タカハル様失礼します!」
「え?? ってうおっ?!」
アゲートが俺の腰を持って横に跳ねた。なにかと思ったら何かしら前方から俺らのいた方向へ飛んでいったのが確認できた。前方に何があるかは暗くて確認できなかった、ただ十字路があったはず。
「矢……?」
「はい、不届きものがいるようです。」
「〈魔力障壁〉〈ライト〉」
安全のために魔力障壁を張った後、魔力の光を前方に飛ばす。すると矢が飛んできて魔力障壁に当たり跳ね返ると、黒い影が左へ逃げていったのを確認した。
「いたな」
「ええ、無視して報告するのが安全ですけどどうしましょうか」
「逃げられないか?」
「顔を見てませんし、城に入ることができたということは恐らくは」
「なら追いかける!」
そう言って魔力障壁を前にして走る。ってアゲート足速っ! いやそれもあるが俺も遅い。どうにかする方法を考えろ……前の動く魔力障壁を見て思いついた、これだ!
足元に魔力障壁を横に張り飛び乗る、そしてそれを動かす……うおっ、体幹ない俺だときつい――お? 体をかがめて床を斜め前にするとバランス取りやすい。
「!? なんすかそれ!?」
「土壇場で思いついた! ……〈ライト〉」
もう一度前を照らす、いた。黒いフードを着ている、矢を射ってくるが問題ない、あの撃ち方はボウガンっぽい。
また十字路だ、すると追っている奴は煙幕を使った。
「どうします?」
「任せろ、〈電子レーダー〉」
あの時の発想から発明した魔法だ、使えることは実験済みだ。
「左!」
「はい!」
するとその先はT字路だ、さあ今度はどっちに行く?
……しかし窓を割って逃げた。ここは少なくとも20mはあるぞ、どうやって向こうは着地するつもりだ?
こっちは魔力障壁スケボーっぽいものがある。そのまま追う、アゲートも付いてきた。
……足元にあった魔力障壁が消えた、なんで――
「あ!! 一定以上の高度だと魔法が使えないんです!!」
「それをもっと早く教えろおおおお!!」
アゲートに引き寄せられる、下を見ると奴はしたギリギリで風魔法で着地していた。なるほどそうやるのか……
人間が飛ばされる風速は40km毎時くらい、つまり12m/s。今は落下してる、g=9.8として、高さ20mと仮定して、v^2=2ghでv^2≒400、で落下速度おおよそ20m/s、だから風魔法32m/s!
発動しろ発動しろ発動しろ! 地面が近い……!
体が浮かび上がった、おげっ――遊園地の急降下から浮かび上がる感覚に近い。だけどよくあの状況で暗算できた、俺超すげえ。
アゲートと共に着地した。矢が放たれ、魔力障壁が間に合わないがアゲートが剣で弾いた。攻撃が通らないことに気づいたらすぐに奴は逃げようとした。だが、
「もう逃がさねえ、元素番号29番 Cu、銅線」
奴の脚に絡みついた。すぐに魔力を貯めて振りほどこうとするが……
「〈電流〉 1mA、50万V」
「ぐあっ!?」
そいつは倒れ、足が痙攣している。アゲートが近寄り、フードを切った。その顔は金髪の男性だった、しかもエルフ耳。エルフ初めてみた。
「エルフ、貴様がなぜ転生者様を殺そうとする?」
アゲートの雰囲気がいつもと大違いだ。
「あ、暗殺するように頼まれたんだよ故郷で。ま、前金も多かったし、達成できたら大量の報酬やるからってよ。相手の顔は見てねえ、声は男性だったよ」
アゲートが睨みつける。
「な、なあ。ここまで言ったんだ、他に聞きたいことがあるならなんでも正直に言うよ。だからさ、助けてくれよ……」
「私の仕事じゃありません。後に来る人に命乞いでもしたらどうですか?」
そのエルフは言葉を失う。
「どうやって入った? 城に簡単には入れねえだろ」
俺が聞く。
「混乱に乗じて幻覚魔法使えば入れるって言われたよ。何が起きたのか知らねえけど」
「混乱に乗じてだと? あれからそこまで時間は経ってない、つーことはこの事件の関係者だということはほぼ間違いないな。それじゃ仲間は?」
「俺一人だよ」
「入り方的に別の暗殺者がいるかもしれない、てかいなかったら相手がおかしい……故郷っていうのは?」
「ここから一番近いエルフの森だよ」
「頼まれたのはいつ?」
「四日前……」
「俺らが通った後か……」
「て、転生者様、どうかご慈悲を……ひいっ」
アゲートが剣を動かし脅す。
「なあアゲート、俺死んだことにできね?」
「はい!?」
「いやほら、死んだことにすれば暗殺者も来ないし犯人も捕まえられそうだし」
「確かにそうですけど……戦地の兵士の士気がだだ下がりに……」
「じゃあせめてこいつの雇い主捕まえるまで。」
「要相談です……」
「喜べ、もしかしたら生き残れるかもしれねえぞお前。ただ、しばらくは牢獄生活だろうけど、言うこと聞いてれば殺しはしねえし多分俺が恩赦だしてやるよ。」
「はい、なんでも致しますっ!!!」
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