解毒
一秒でも早く動け、もう一日が過ぎて夕方だ、時間かけすぎなんだよ! ただし失敗はするな! たったこれだけの毒を無駄にするんじゃねえぞ!
マウスの体重はアバウト20g、ルビーの体重を俺の体格から比較して少なく見積もって42kgと仮定して2100倍が致死量、二百倍に薄めた毒1mlでも死にやがった。くそが! 致死量10.5ml未満かよ! 毒性が俺の世界のとは比べ物にならない。2100倍で溶かした方が早い、それを1mlずつ打ってくしかねえ……ああくそ、頭痛が――
「タ、タカハル様、無理なさらないでください、あれから一睡もしてないじゃないですか。食事もろくに取ってませんし顔色も悪いですよ――」
「俺の無理とルビーの命が釣り合うのかよ?!」
「っ……」
「悪い、アゲート」
寝不足で機嫌が悪い、頼ることも必要か。
「アゲート、アウインさん連れてこい」
「はい、かしこまりました」
――――
「タカハル様、事情は聞いております。それで、どのようなご用件で?」
「とにかく色んな人の血を調べろ、調べ方はこうだ。これはルビーの血な。んでルビーの血液と調べる血を混ぜろ、ただし少量な、もともとある量が少ない。
んでだ、混ぜるとこんな風に固まる場合がある、それで固まらなかったやつ連れてこい。ただ連れてくる時これを説明しろ、毒を致死量ギリギリに入れて抗体っつーの作ってそれをルビーに入れて解毒する。ああ、連れてくるやつは可能な限り体が丈夫なやつがいい」
「かしこまりました。それでこの混ぜた血は誰のでしょうか?」
「俺」
「……っな!? タカハル様もしや問題なかったら自分でやるつもりだったんじゃ!?」
「うるせーな、ああそうだよ。それが一番手っ取り早かったんだが、残念なことに無理だ。んなことよりも早く行ってくれ、時間との勝負だ」
「はい」
――その間に致死量だけは調べておきたい。まずは1ml……効果なしか? 他にも確認しないと……全部無事、次2ml! 苦しむやつとそうでない奴がいる、ここがグレーゾーン、致死量は人間で約2mlか……あの刃に付着していた量と傷から……ギリギリ致死量超えてるくらいか……
「アゲート、プレナイトさんが来るまで俺は寝てる、来たら起こせ」
「かしこまりました。……ってそこで寝るんですか!?」
「起きた時すぐ行動できて、効率て、き……」
机に突っ伏して返事をするが眠気に負ける。
「……ルビー様もタカハル様もサティエルさんも頑張っている。自分にできることはないのか、どうすれば皆の役に……あの血はもしかしたら自分に――いや、そんなことしたらタカハル様の護衛が、一体どうすれば。とにかくタカハル様の護衛として、護衛だけは自分にできる。自分は騎士だ」
――――――――――
「――ルさま……タカハル様」
「あ……来たか」
「はい、今向こうから来ています」
アゲートの向いた方を見る。もう夕方だった。しかしその風景から来ている二人のやりとり方に目がいく。
「おやめください、何も貴女様が行う必要なのありません。危険性もお話したでしょう」
「いいえやめません。何度言っても同じです、危険についてもわかってます」
女性が肩より下まである白い髪をなびかせ、赤い瞳をこちらへ向け、止めようとするプレナイトを無視しながら歩いてきた。その顔はルビーを彷彿とさせるが身長はルビーよりも高い、姉とかか。
「わたくし、カーネリア・レギアと申します。娘について話を聞き、戦地から参りました」
「え、娘って――」
「はい、ルビーの母です」
若っ! ルビーは俺と同年代だろ、多分。俺の母さんと比べ……寒気がした、何故だ――巫山戯てる場合じゃない。
「それであなたが行うのですね?」
「はい、条件にもあっています。体の丈夫さにも自信があります。」
「ですから、貴女様が行わなくても良いのですと――」
「そうですか、では私より丈夫な人を連れてきたらどうです?」
「そ、それは……」
「……失敗したら死にますよ」
プレナイトさんが口ごもったので、話しかける。
「タカハル様は自分で失敗するとお思いで?」
「…………しません――そもそも親族の方が輸血の際、事故の可能性も低くなる。結局、あなたが最適解なんですよ」
「では、私をお使いください」
「ええ――そうします。これから一週間ほどかけて、ほんの少しずつ毒を入ます。そうすると体が毒に対する抗体というものが作られます、それをルビーに入れて解毒します。
毒をあなたに打つ際、体が反応してショックを起こしてしまう可能性もありますし、致死量の計算も間違っている場合もあります。……これが最後です、本当によろしいですね?」
「答えは変わりません」
一応プレナイトさんやアゲートの方を見て確認する。プレナイトさんは諦めている。アゲートはどうすればいいかわからない様子だ。
致死量2ml、可能な安全を兼ねて九割。さらにそれを七日間だから一日当たり0.25……mlくらいか、大雑把でいい。流石にそれジャストは難しすぎるから1mlを水に溶かして四日ずつ行うか。
そうと決まればまず冷凍しておいた毒を自然解凍だ。10ml程度の立方体の氷を取り出し、試験管に入れる。それを常温の水につける。
「何をなさってるんですか?」
アゲートが言った。
「毒を溶かしてる、こいつを冷凍して毒素を弱めた。それを自然解凍してる」
「熱を加えては駄目なのでしょうか?」
プレナイトが言った。
「熱が強すぎると毒が分解されてしまいます、そうしたら意味がありません」
そんなこんなで溶けた。それをちょっとずつ他の容器に入れて、1mlだけ残す。そこへ水を50mlほど入れ、軽く振る。そしてそれを魔力製注射器を作り入れる。
「準備は出来ました。腕を出してください」
そう言って彼女は腕を前に出した。
「手を握って……」
そうして血管が見えてくる。そのままルビーにしたよう注射して、全部入れる。
「――これで今日は終わりです。明日から一週間同じ量入れます、体に異常があればすぐに言ってください」
「はい」
――――――
――もう出来ることがねえ、なんかないのかよクソ。
ルビーのいるところへアゲートと共に足を運ぶ。王族専用の病室だ……扉の前に行くと声が聞こえた。
「サティエル様!?」
「っく、もっと私に力があれば……魔力がもう――」
「サティエル様はお休みになってください、サティエル様ほどの実力はありませんが私達にお任せください」
「……」
ノックしてから扉を開ける。
「……」
「タカハル様……」
サティエルがこちらを向いた。その顔色は良いとは言えない、血の気は引き目元にクマができている。
――ルビーは魔力の空間に入れられている、どうやら粒子全て移動の速度を遅くしているようだ。これが俺の想像通りとは限らないけどな、もしかしたら別の方法かもしれない。だがこれは時間稼ぎだ、ルビーは苦しそうにゆっくりと呼吸をして眠っている。
「ルビー様はご覧の通りに――」
「うん……」
「それで、解毒の方は……」
「十日後だ、それまで時間がかかる」
「わかりました」
ルビーの苦しそうな表情が胸に突き刺さる。俺がもっと早く気づいて魔力で壁をすれば、転生者の暗殺が一人だけなんてことはないって警戒できていれば、毒にもっと早く気付ければ…………過去のこと考えても変わらないのは自明の理だ。ルビーを助けるなんてタイムマシン作るよか簡単だろ――ただ延命できる方法が俺にはねえ、遅延してる魔法なんか使ったことない、練習してないことが負の結果を生むことはわかる。どうしたらいいんだよ……
満月があざ笑うかのように窓から俺の顔を照らす。
誰か部屋に入ってきた、王様とカーネリアさんだ。赤毛の近衛騎士のような人も一緒にいた。黙ってルビーを眺める。
「――助けられるのだな」
王様がそう強めに言った、怒りが感じられる。
「はい、やれることは全て行いました」
「それは我が妻を使うことか?」
「あなた――」
「確認だ、咎めるつもりはない」
「それが一番可能性の高い方法です。どうかわかってください」
「……席を外してくれぬか。必要な者だけ残れ、サードニクス、お前も席を外せ」
「はっ」
近衛騎士の名前のようだ。
「では……」
部屋から出る。サティエルもだ、しかし壁に寄りかかってしまった。
「大丈夫か?」
「申し訳ございません、このような失態を。私がもっと早く気づいて刃が届かなければ……」
「それはサティエルさんだけじゃなくて自分だって――」
「二人とも過去のことウダウダ言うのやめろ」
「――申し訳ございません」
「……自分も申し訳ございません――」
「サティエルは休め、明日以降もやらなきゃいけないんだろ。」
「はい」
「タカハル様もですよ」
「わかってるよ」
アゲートに対して少しあたりの強い口調で言ってしまう。
――――――――
…………寝れねえ。
こんなこと今までになかった、父親が事故った時だろうが俺が事故った時でも寝れないことなんてなかった。
ルビーがいなくなるのが怖い、もしも失敗するのが怖い、今までは失敗が許されたけど今回ばかりは絶対にできない。たった二ヶ月の仲だけど目の前で失うなんてことは怖すぎる、前世含めたかつてない恐怖が襲ってくる。
いやだ、別れたくない………失いたくない……
この世界二度目の涙が頬を伝う。
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