畑巡り開始
転生してから一月と半分以上、戦争をしているという実感はないが戦地では兵士が生死を分ける戦いをしている。そんなことを終わらすべく農作物の量を増やさねば。
「バッグよーし、紙よーし、ペンよーし、下敷き板よーし、ビーカーよーし、紫キャベツ濃縮液よーし、こんなところか」
部屋で指差し確認して忘れ物が無いか確認する。指差し確認は記憶に残りやすくするすごい動作だ、電車や飛行機の乗務員が使うだけある。
護衛たちと城の前まで行き馬車へ乗る。沢山の他の馬車を連れてなんてことはない。そんな転生者がいるとバレバレなことなんてせずこっそりと出る。
ルートは王都の周りを西から時計回りにぐるっと一周する感じだ。行く場所は土地あたりの収穫量が上からと下からの五つずつ。予定は二週間半程度、その間にこの世界の外を見て回りたい。今まで行ったところは城と平原くらいだけだ。
朝から走って数時間……林が見え、野生動物は見つかるがファンタジーな感じはしない。魔物とかすごい出てくるイメージだったがそんなことは無いようだ。というかやっぱり植物含め生き物が俺の世界とほぼ同じだ。
最初のうちは他愛もない話をしていたりしたが数時間も持つわけではない。共通の話題も持つわけではないし。
そんなこんなで最初の目的地まで着いた。ここは生産量上から三番目だったか、着いてみると……想像以上に広いな。まあ、あんな都市の近くにあるのだからそんなものか。他には水路があったりなど、そして特筆すべき点は、三圃式農法ってとこか。今大麦育ててる場所、休耕地、放牧地か。本当に中世ヨーロッパみたいな世界観してるよな。
馬車を降りると一人の男性がいる。薄茶色の長袖に革ズボンの格好をしている。明らかな農民だ。
「転生者様……この度はこのようなところに来ていただき誠に――」
「そういうのは大丈夫だ。別に権威で威張り散らかしに来たわけじゃない。ここに来た目的はわかってるよな? それじゃ早速ここから調べさせてもらう。サルトロかサティエルはこれ、農家さんにこれ聞いてメモしといて」
サルトロが受け取った。ペンと下敷き板と紙を渡した。それには降水頻度や働いている人数を質問が書いてあり回答するスペースがある。
バッグからビーカーを一つ取り出してそれを魔力障壁で机を作ってその上に置く。さらに魔力障壁で作ったスコップですぐそばの畑の土をすくう。ほんと魔力障壁は汎用性高いな。
「〈ろ過〉」
魔力製ろ紙をビーカーの上に設置してその上に土を乗せる。そして魔力から作った水を流し込む。
魔法の名前はいいの思いつかなかった、効果も地味だし名前も地味で問題ない、うん。魔力製ろ紙はサティエルの補助は必要もなく出来るようになった。修行の賜物だ。
そして水がある程度溜まったところで土をどかした。〈ろ過〉を解除して紫キャベツ濃縮液を入れる。そうそう、
このビーカーには防腐の魔道具の効果がついているらしい、どうゆう原理なのか気になる。
「色は……紫で中性ですか?」
「いや、サティエルちょっと待て。」
もう一つビーカーを取り出し魔法の水と紫キャベツ液を同じ量入れる。それを見比べてみる。
「若干青っぽいか、弱アルカリ性か。」
「では、弱アルカリ性がこの作物に適していると?」
「まだ一箇所だけだからな、まだまだ他の土地を当たる必要がある。」
サルトロの方はもう終わりそうである。
「――肥料は何か使っていますか?」
「はい、堆肥のほうを使っています、あと休耕地には余った藁などを撒いています」
「……だからこんな匂いだったの……」
「ルビー、そんなこと言うなよ。昔に試行錯誤の工夫で農作量増やしてきたんだ。それに俺らは支えられてるんだよ。――終わったか、見せて見せて。えーと、雨は乾季だと月一程度、雨季だと週に五日以上。働いてるのは女子供含め計二十人、この広さで二十人ってすげえな。んで放牧地に飼ってるのは牛」
もちろんホルスタインの乳牛ではなく毛が茶色い肉牛だ。
「あとは、近くの山から水が引けていると。乾季も出てると、地下水かな?」
「いえ、おそらくあの山のダンジョン、ニクセダンジョンから作られている水でしょう」
サティエルが言った。
「そういえばダンジョンから作られる物質、魔物って魔力から作られるって言ってたけど霧散しないのか?」
「霧散してしまうものもあります。ただ、魔物や水、鉱物などは魔力に霧散したのが確認されません」
「……原理とかはわかっているのか?」
「今まで多くの者が研究してきたのですが、全く……」
一体どうなっているんだ……今まで多くの人が挑んできたがヒントもつかめていない問題――面白い、挑みたい、知りたい、利用したい。だが俺はそんな時間を使えるほど暇じゃない。
「馬が休み終わったら次だ、予定通りいくぞ」
そのあと一箇所、土地あたりの農作物量が上から四番目の畑に行った後に街に行ってその辺りのの領主の家に泊めてもらって一泊した。畑の方はほぼ同じだった、土地が近いのだから地理的にはまあそうなるだろうな。
そして翌日、朝食をとってから出発だ。今回は道のりは長く、目的の畑まで二日かかる。途中に領主さんたちのお世話になりながら行く。とはいえ――
「すいません、馬の休憩です」
数時間程度で馬を休ませる必要がある。あと座りっぱなしも結構きつい、外に出て伸びをしたり軽いストレッチなどする。
「では、軽食でも」
サティエルが声をかけた。別にお腹が減っているわけではないが暇をお腹に入れて紛らわすのが目的だろう。サティエルがかごを持ってきた、中にはサンドイッチがあった。サンドイッチってあるのな、どっかしらの転生者が教えたのかそれとも発明されたのか。サンドイッチ伯爵さん、感謝してまーす。俺が一つ取るとルビーが別のを素早く取っていった。お腹が空いているわけではないというのは訂正しておこう。
せっかくなので外にいたいので道端の木の根に座り込んで食べる。
するとルビーが俺の右に、残り二人に渡し終わったサティエルが俺の左に座った。なんだなんだ?
「タカハル様ってー、ご自身の世界に恋人とかいたんですか?」
「……いや、いなかったよ」
サティエルの態度が今までと違う。これはあれだな、玉の輿狙いとかいうやつ。
「じゃあ思い人は、いらしたりしませんでしたか?」
「……いなかったよ」
なんか心にダイレクトアタックされるんですけど……矢印がぶすぶす刺さってくるんですけど……
そんなことを考えているとサティエルの表情が変わっている、なんというか今まで生きてきた中で誰も俺に向けてきたことない表情を、どう形容すればいいのかわからない。自然と俺の目線が逸れていく。
気付くとルビーもそんな顔をしている。二人して同じタイミングってことは一夫多妻制ですかそうですか。あとルビーもそんな感じってことはただの玉の輿じゃないのか? いや、第五王女とかだったから姉見返すためとか?
今まで経験したことない状況にどうでもいい思考がぐるぐる回る。心拍数も感じ取れるほど上がってるし体、主に顔が火照って暑いと感じる。
気付いたらなんか二人距離感さっきより近くない? どうしたらいいか俺知らないよ? 恋愛の心理学なんかほぼ知らないぞ? そもそも俺はどうしたいのか自分でわかってないぞ。
ルビーが小さな声で囁いてきて、心拍数がさらに上がる。
「タカハル様は、私たちのことを女性として――」
「何タカハル様に色目使ってるんですか?」
サルトロの声がした。ナイス! ……ナイス? 本当にナイスか? …………生物的にナイスじゃねえ。母さん父さんごめん。一人っ子なのに…………
「色目なんかじゃないですよ、私たちはただタカハル様の過去に興味があっただけですよ」
「興味ある過去が恋愛経験だけなんですか?」
「それは聞き始めた一つですよ」
「明らかに嫌がっていたじゃないですか」
「恋愛トークの恥じらいですよ、恋愛なんかしたことないからわからないでしょうけどね」
「転生者様の護衛になるために育てられてきたのだから当たり前でしょう。あなたもそのはずですが?」
「女性の今まで恋人なしは価値のあるものなんですよ、男性と違って」
おいサティエル、流れ弾を気にしろ……
「どうせ転生者様が女性だったらあなたとアゲートも……アゲートはともかくとして、色目を使っているでしょう」
特に理由のない言葉がアゲートを襲う。アゲートは馬の相手してて聞こえてないけど。
「根拠のない推察はやめたほうがいいですよ、タカハル様に嫌われますよ?」
……まあ、確かにあれだけど初同年代からにモテ期到来で俺の精神状態がやばいのでそれどころじゃない。
「くっ……大体なんで私だけなんですか、姫様も――」
「サティエル、何か言った?」
「い……いえ、な、なんでもございません……」
国家権力こわー、サティエルもサルトロも恐れ多いって態度じゃん。怒らせると怖いタイプか、よく考えたらまあそうか。
この微妙な雰囲気どうにかできないかな、俺にコミュ力があれば。あと俺落ち着け、興奮してか呼吸もまともにできてねえぞ。こういう時は元素を暗唱だ、HHeLiBeBCNOFNe……
「もう出発できますよ」
アゲートの声がした。よかった、助け舟が来た。
「ほら、行くよ?」
立って馬車に行こうとすればみんな着いてくる。他の世代の転生者の護衛もこんなムードだったのだろうか……
そんな気分にならないでいてくれるのはアゲートくらいなんだよなぁ。
ちょっとしたお話
「この食べ物、なんて名前?」
「サンドイッチです」
「サルトロ、もしかして転生者ルーツの食べ物?」
「はい、百年ほど前に流れ転生者が」
「やっぱり、俺の世界の発明品だぞこれ。名前の由来はサンドウィッチ伯爵って名前からな」
「そうだったんですね。随分と便利な食べ物を発明されて我々の世界も恩恵を受けさせていただいてありがたいです」
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