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赤い服の少女  作者: Ichiko
8/30

記者の父と娘の親友

『おはよう。パパは?』


『もう出掛けたわよ。最近忙しいんだって。』


美里の父・和田武司は週刊誌の記者をしており、土日はまず家にいないが、平日も終電か会社に寝泊まりする事か多く、美里は暫く武司の顔を見ていない。


『今日は渚ちゃん来ないの?』


『うん。なんかね、日曜日はいつも新宿に行くんだって。』


渚は日曜日の11時から3時までの間、赤いロリータ服を着て相変わらず案内板の前で梓を待ち続けているが、前日後僅かのところで梓を取り逃がした君塚と千波も張込んでいる。


昨晩は犯人隠匿の容疑でスナック[ピーチ]のママである松崎友子の身柄を拘束したが、梓からは黙って暫く手伝わせてほしいとだけ言われ、旧知の間柄故に深い事情は聞かずにいたとの事である。


君塚たちが入店した時に合図をしたのは、事情は知らなくてもなんとなく察していたからだったと言い、その後の梓の足取りは再び途絶えた。


『悔しいです。』


『あのタイミングだったからな。でも無駄ではないよ。』


君塚は落ち込む千波を労いながら監視を続ける。


『あれ、新聞か週刊誌の記者じゃないですか?』


君塚たちと渚の間で、柱の陰から渚の方にカメラを向けている男性がいた。


『たぶんそうだな。毎週あの格好で小学生が立っていりゃあ記事のネタと読んだんだろう。』


『良いんですか?渚ちゃん、殺人犯の娘とか書かれたら、学校に行けなくなるかもしれませんよ。』


『西脇梓を炙り出すには良いかもしれん。』


梓が記事を読んでひと目会いに来る事を君塚は期待する。


『そんな!渚ちゃんの気持ちを考えて下さい!いくら刑事で犯人を捕まえるためだってあんな小さい子の将来を潰す権利なんてないです!』


非情な君塚の考えに千波は反発する。


『いくら隠してたって近所にはバレちまうもんだよ。あの子もこれから生きていくためには覚悟しなきゃいけないんだ。』


『そうは言ったって……。私、行って止めさせます。』


『職質は良いけど職権乱用にならない様にしろよ。肖像権なんて関係なしに公共の場で写真を撮ってる連中をみんな捕まえる訳にはいかんからな。』


そう君塚が喋り終わる頃には千波はその男に近付いていた。


『何を撮られているんですか?』


突然後ろから声を掛けられ男はびくっと驚いた。


『あの赤い服の子ですよ。』


『小さい子どもを隠し撮りですか?私、こういう者ですけどちょっと詳しくお話を聞かせてもらえませんか?』


男は慌てて逃げ出し、千波は追い掛けようとする。


『千波、追うな!ほっとけ!』


『何でですか?』


雑踏の中で大声での会話は目立ち過ぎるので、千波は君塚のもとに戻り尋ねた。


『俺たちの今の仕事は張込みなんだ。目立ってどうする?』


確かに、ここで梓が現れても再び取り逃がすだけだ。


『とにかく、俺たちは西脇梓を捕まえる事が第一の仕事だ。それだけは忘れるな。』


君塚に諭され、千波は項垂れた。



水曜日、美里の父・武司が珍しく早く帰宅し、美里も上機嫌である。


『仕事が一段落したからな。今回はあまり気分の乗らない仕事だったけど。』


『パパのお仕事の記事って明日発売なの?』


『うん、そうだ。』


武司は週刊衆文という週刊誌の記者で、週刊衆文は政治や芸能など常に社会を関心事をネタにしており、ゴシップネタの特ダネも多い。


武司は2ヶ月前に起きた殺人事件を追っていて、まだまだ逮捕されていない容疑者の娘をターゲットにしていたのだ。


翌朝、週刊衆文が発売された朝は何事もなかったが、あるクラスメイトの父親が帰宅した後何気なく買った雑誌を母親が見た時、


(そういえばうちの子どものクラスに新宿から転校生が来たみたいだけど。)


記事にある容疑者の娘がその転校生ではないかという疑念が沸き、井戸端ネットワークでクラス中に広まっていったのだ。


[愛人殺害の母親を待ちわびる赤いロリータ服の娘]というタイトルが世間の目を引き、瞬く間に他のメディアを巻き込み日本中の話題となった。



『健ちゃんが言ってたのこの娘なんでしょ?』


先日、思わぬ捕り物劇に遭遇した高木家でも、週刊衆文の話題で盛り上がっている。


『ああ、あのさよっていう女性がその娘の親みたいだ。彼女、自分の娘の傷の事をずいぶん気にしていたからな。』


知香自身、中学生の頃に週刊衆文に追われた経験があるので、健介に見せられた記事には興味を抱いた。


『私、この西脇さんって人の気持ち、分かる気がする。人を殺すとかはいけない事だけど、子どもを守りたかったんだよね?』


知香は元男性なので子どもを作る事は出来ないが、もともと子ども好きが高じて保育士になったくらいなので、渚に虐待を繰り返していた敷田を殺害した梓の気持ちは理解している。


『健ちゃんその人と約束したんでしょ?娘さんの傷を治して楓の友だちになってほしいって。』


『ああ。あの人が人を殺したなんて今でも思えないんだ。さよ……西脇って人は娘さんのためにやむを得ず殺ったんだと思う。』


健介はばか正直なくらい正義感が強く、父親が裏口入学を謀った中学入試の時に白紙で私立中入学を拒否したくらいな性格なのである。


『その約束、果たそうよ。西脇さんが逮捕されるか逃げるかは分からないけど、少なくても楓と渚ちゃんは同じ様に虐待で傷があるんだから、お互いを共有出来る存在だと思うの。楓にもそういう友だちがいたら、前を向けると思うよ。』


男の子時代の知香は内気で後ろ向きな性格だったが、自分が女の子として生きようと思ってからは友だちに支えてもらい前だけを見てきたので、娘の楓が過去を払拭するためにも渚という存在は必要だと思う。


『そうだな。……でもこんな記事が出てこの娘は大丈夫なのかな?』


果たして、健介の不安は当たった。


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