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赤い服の少女  作者: Ichiko
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スナックの客

山梨県の県庁所在地である甲府にある大学の医学部で学び、卒業後形成外科医となった高木健介。


彼は中学からの同級生である妻・知香と結婚し、同時に子どもを作る事が出来ない知香のために児童養護施設にいた楓を里子に迎えて大学病院の社宅で暮らしていた。


『今度楓を病院に連れてきてくれないか?』


健介が帰宅し、上着をハンガーに掛ける知香に伝える。


『部長さんから許可が出たの?』


楓は実の母親から虐待を受け、全身に無数の怪我や火傷の跡が残っていた。


健介は自分の手で楓の傷を修復したいと常々上司の部長に打診していたが、新人医師で独り立ちしていなかった健介はなかなか執刀させてもらえなかったのだ。


『楓。パパが楓の傷を治してくれるんだって。良かったね。』


『うん。』


楓も身体の傷を健介に治してもらえる日を心待ちにしているのだ。


『それで悪いんだけど、今日部長からお誘いを受けちゃったんだよ。』


『え、今から?メールで教えてくれれば良かったのに。』


学生時代から優秀な健介であるが、あまり要領は良くない。


『それが知香と楓にも来てほしいって言うんだ。』


『駄目よ。楓を飲み屋に連れて行くなんて。改めて病院に挨拶に行くから。』


知香は高校三年生の時に性適合手術を受けた性同一性障害の元男性である。


この大学病院の形成外科も性適合手術を行なっているので、知香は健介の上司である羽鳥嘉一郎から度々誘いを受けているが、娘の楓は虐待によるPTSDに苦しんでおり、夜間外に連れ出したり目を離したりする事は出来ないのだ。


『ごめん。行ってくる。』


『なるべく早く帰ってきてね。』


『パパ、行ってらっしゃい。』


健介は知香と楓に見送られて大学とぼとぼ出掛け、羽鳥と先輩の森川と共に居酒屋の後、2軒目となるスナック[ピーチ]に入った。


『いらっしゃいませ。あら、はーちゃん!』


ピーチのママ、友子は直ぐに常連客の羽鳥だと分かった。


『あれ?新しい娘?』


羽鳥は見慣れない女性に反応する。


『そう。東京で昔一緒に働いていたの。さよちゃんよ。宜しくね。』


『宜しくお願いします。』


さよと名乗る女性こそ、西脇梓だった。


『今夜はいよいよ高木が独り立ちするんで、そのお祝いなんだ。』


健介が恐れ多いという顔で頭を掻く。


『しかし本当に変わっているよなあ、高木は。娘さんを治したい一心でこんなに早く部長からお墨付きをもらっちゃうんだからさ。』


森川は健介の努力と腕を認めながら嫌味を言う。


『娘さんってどうされたんですか?』


渚の事が気になる梓は、娘と聞いて自分にダブらせようとする。


『虐待だよ。コイツの奥さんオカマでさ。子どもがほしいからって実の母親から虐待された女の子を施設から引き取ったんだ。』


『先輩!仮にもSRS(性適合手術)をやっている医師がオカマとか差別用語使わないで下さい!少なくとも俺は付き合い始めてから知香を男だと思った事はありませんから。』


妻の悪口を言われた健介は先輩の森川に楯突く。


『そうだよ、森川くん。知香ちゃんは本当に可愛くてよく出来た奥さんだ。もう少し若かったら俺がもらいたいくらいだよ。』


『部長!』


妻の知香の話題になるとムキになる健介はいつもこうして弄られるのだ。


『高木先生。虐待の傷ってどんな感じなんですか?』


突然梓は楓の傷の話題に触れた。


『ああ。うちの子ども……楓って言うんですが、楓は児童相談所の人の発見がもう少し遅かったら命の危険があったと聞きました。もう全身ただれていたり腫れていたりで最初は見ていられなかったです。……で、それが何か?』


『実はうちの子どもも……夫じゃない男性が家に来る度に暴力を受けていて、やけどや傷があるんです。』


梓は会う事が出来ないはずの渚の話をし、健介も興味を持つ。


『お子さんの歳はいくつですか?』


『はい。6歳……小一の女子です。』


『うちの楓と一緒ですね。今度是非病院に連れてきて下さい。さよさんのお子さんも僕が治してみせますよ。うちの楓と友だちになってくれれば嬉しいです。娘さんのお名前を教えて戴けますか?』


『渚と申します。是非、高木先生にお願いしたいと思います。宜しくお願いします。』


梓は渚の傷を治すためには自首をする覚悟が必要かもしれないと思った。


『さよちゃん、お代わり良い?』


『はい。』


氷がなくなったので、梓は調理場に下がるとほぼ同時にドアが開く音がすると


『いらっしゃいませ。』


君塚と千波が東京から梓の足取りを探しに来たのだ。


『お仕事中大変申し訳ございません。この人を探しておりまして。』


君塚が警察手帳と梓の写真を見せると、友子は調理場にいる梓に合図を送る。


スナックは雑居ビルではなく、郊外型の店舗なので勝手口から梓は飛び出した。


『千波、裏だ!』


『はい!』


君塚が調理場から、千波が玄関から裏に回り、挟み撃ちにしようとしたが、既に梓はタクシーで逃げた後だった。


『くそっ!』


(どうなっているんだ?)


いきなり刑事が現れ今の今までお互いの子どもの話をしていたさよが逃げていなくなり、健介は呆気に取られていた。

医師・高木健介の妻・知香が何で性同一性障害の元男性でなければならなかったのか?


初めて来られた方には意味が分からないと思われるでしょうが、知香は私が書いた別の小説の主人公です。


『中学生から始める女の子生活』という作品の第295話で健介と知香が楓を養子に迎え結婚式を挙げた後、山梨での新婚時代という形ですが、前作でいうと時間軸は15年後くらいになってしまいます。


一方この作品は事件から何日後の何月何日、あるいは何年後としており、西暦や令和何年とは書いていませんので、その辺りはご理解戴けるとありがたいです。

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