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赤い服の少女  作者: Ichiko
6/30

足取り

西口地下に渚がいない時は張込みをしても意味がないので君塚と千波は他の捜査員が担当している梓の交遊関係の調査に加わる事になった。


『なんだこれは?やる気あんのか?』


梓の交遊関係からの洗い出しはあまり進んでいないのだ。


そもそも梓は水商売でありながら人付き合いがあまり得意ではないが、敷田は妊娠して店を追い出された梓に付け込んで自分は渚の父親を知っていると近付く傍ら、雇われママを仲介してマージンを得ていた。


『店のオーナーの関係者はどうだ?』


『梓容疑者と接点のある人はいない様ですね。』


『ばか。あってもなくても聞き出すんだ!』


容疑者も動機も分かっていながら足取りが掴めず、早期解決と思われた事件は難航した。


『直ぐ解決しそうな事件ほど初動が大事だって捜査の基本だってあれだけ言っているだろ!』


(君塚さんって結構凄い人なんだ……。)


千波は君塚を見直したが、結局は最初から出直しだ。


『以前の勤め先は?』


『いやぁ、西脇が辞めてからもう6、7年経っているからって……。』


『千波!もう一度洗い直すぞ!』


『は、はい。』


本気になった君塚はなかちゃんではなく、千波と呼んでいた。



以前梓が働いていた店で再度聞き込みをして、帰りの車の中で情報を整理する。


『いないって言ってましたが、当時一緒に働いていた人や客って結構いるもんですね。』


『あめえんだよ、ったく。』


店から集めた情報では名前だけの人も含めると18人に上った。


『なかちゃんが西脇だったら、何処に逃げると思う?』


『出来るだけ遠く……いえ、意外に近いかも?』


『どうしてそう思う?』


『渚ちゃんの成長を確認しに来るため……ですか?』


『ま、なかちゃんもちったあ刑事らしくなってきたんじゃねぇか?』


とりあえず君塚の禅問答はクリアしたみたいだ。


『ならどっち方面か?』


新宿からは各方面に鉄道も出ているし、高速バスもある。


『実家のある八王子方面ではないでしょうか?』


『あくまでも勘だが俺もそう思う。ただ、八王子辺りでは捜査の目も届くからその先かもしれないがな。』


『とすると、山梨か長野の方ですか?』


『中央線だけじゃなく高速バスも多数出ているから新宿に戻る事を考えたらそっちだと思うんだ。』


君塚は勘と言いながら目星を付けているみたいだ。


『このリストの中だと……甲府でスナックをやっている人がいますね。』


リストを見ると松崎友子という名前の女性が甲府にいるらしい。


『なんか匂うんだよ。歳も西脇と一緒くらいだしな。』


しらみ潰しにリストを当たる前に最初に目星を付けた松崎友子を尋ねてみようと君塚は言ったが、千波も納得した。


『なんか当たりな気がします。』



転校した初日こそクラスメイトたちに囲まれた渚だったが、内気で口数が少ないので翌日からはほとんどの生徒が近寄らなくなっていた。


そんな中で班長の美里だけは渚に優しく接してくれている。


『渚ちゃんって誕生日いつなの?』


『12月5日……。』


『ええっ?もう直ぐじゃない?お祝いしようよ!』


当然渚の家庭事情を知っている生徒はいない。


『でも……うちパパもママもいないから……。』


『……そうなんだ……。ごめんね。でも、私たちでパーティーやろうよ。』


『ごめん……。日曜日だからお祖父ちゃんたちと新宿に行かなきゃならないの。』


その日はちょうど日曜日である。


もしかしたら渚の誕生日の時に梓が現れるのではないかと君塚たちも睨んでいた。


『残念だね。でも、来年の私の誕生日は渚ちゃん呼ぶからね。約束だよ!そうだ。今日、うちに来ない?』


『え?お祖母ちゃんに聞かなきゃ……。』


『お祖母ちゃんが良いって言ってからで良いよ。』


彩子の許可を得て、渚は美里の家に出向いた。


『いらっしゃい。転校生の渚ちゃんね。美里と仲良くしてあげてね。』


美里の母・和田律子も美里同様優しく出迎えてくれるが渚の方が仲良くしてもらう側だ。


『ねえ渚ちゃん。なにか困った事があったら、おばさんの事を頼って良いからね。』


律子は美里から事情があって渚に両親がいないという話を聞いていた。


『渚ちゃんってゲーム好き?』


『……やった事ない……。』


母子家庭で裕福とはいえない渚はゲームなどは無縁だった。


『じゃさ、一緒にやろうよ。教えてあげるから。』


美里にコントローラーを渡され、教えられた通りに操作してみる。


『そう、そこ。ああ!もうちょっとだったのに!でも渚ちゃん、初めてなのに上手いよ。』


渚は美里に誉められ照れ笑いをしたが、たぶん梓と別れて初めての笑顔だったかもしれない。


と同時に渚は、もし美里が母親が殺人犯という秘密を知ってしまったら同じように接してくれるか、小さいながらに不安に思っていた。

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